メディアグランプリ

後悔と悲しみの中で知る大切で愛おしい時間


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山形ゆか(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
最近会っていないけど、元気にしているかな。
近くまで来たから連絡してみようか。
久しぶりに会いたいな。
そう思うなら、気になっているなら、今すぐ連絡しませんか?
あなたが気になるのは、相手から届いているシグナルに共鳴しているのかもしれません。
 
 
「ごめんね。もう、いなくなってしまう」
なんだか嫌な夢だった。
昨年10年以上ぶりに再会を果たすことができた友人Mが、とても悲しそうな表情だった。
普段、夢を忘れていることがほとんどなのに、嫌な感覚の夢ほどしっかり覚えている。目が覚めてしばらくたっても、その言葉だけが気になって仕方がない。
 
気になることがあると夢に悪い形で出てきて、そのとおりになってしまうことが多い。夢とはそういうものだ。予知夢ではない。私にそんな能力はない。
悪い夢は人に話すと逆夢になるというが、話すタイミングを考えるとなかなか難しい。
闘病中の親戚が亡くなる夢。友人が受験に失敗する夢。
そのタイミングで人に話すにも憚られる内容が多くて、誰にも話せない。だから正夢になってしまうのだろうか。
 
夢に出てきた彼女は、私の大切な友人の一人だ。
知り合ったきっかけは、20歳の頃に単独で参加した海外ツアー。意気投合しただけでなく、不思議な縁が繋がった。
彼女と知り合って数年後、入社した会社で驚くような偶然があった。京都支店に配属された新卒のIさん。MとIさんは高校の先輩と後輩。実家が近所だから、多少の面識はあったようだ。
 
Iさんは、ハキハキと明るくてしっかり者。だけど、末っ子のせいかちょっと甘えん坊でかわいらしい一面もある。仕事もできて、誰からも好かれていた。キャリア入社で年上の私にも気さくに声をかけてくれた。共通の知人がいたこともあり、Iさんとはすぐに距離が縮まった。
一緒に旅行にも行ったし、よく我が家に泊まりに来た。私が会社を退職したあとも、Iさんが東京に転勤してからも、ずっと付き合いは続いていた。
 
Mとは、住んでいるところが遠くてなかなか会えない。
だから余計に心のどこかで気になっていて、ときどき夢に出てくるのかもしれない。「夢に出てきたからLINEしました。変わりない? 元気にしてる?」とメッセじーを送れば、「元気にしてるよ~」と返信がくる。
だから今回もきっと大丈夫。また、何かの機会にLINEすればいいか。
気になりつつも、先送りにしていた。
 
数日後。
お風呂にスマホを持ち込んで、LINEをチェックする。
帰宅してからバタバタしていて、ゆっくり確認できていなかった。普段動いていないグループが上に上がっていて、複数の書き込みがある。
旧京都支店女子会のグルーブLINE。めったに動かないのに、久しぶりにLINEが動いている。
開くとグレーの寒中見舞いはがきが貼り付けられていた。
「このハガキが届いて呆然としています」
 
誰が亡くなったの?
画像を拡大して読む。「妻Iが昨年12月に永眠……」
信じられない。最後に会ったのは何年前だろう。
度々東京へ出張で出かけていて、会える機会があったのに連絡しなかった。毎年、「また東京に行くとき連絡するね。Iさんも関西来るときは連絡して!」と年賀状に書いた。
タイミングの悪いことに、昨年の年賀状で年始の挨拶を最後にする宣言をし、年賀状仕舞いをしてしまったのだ。
だから、Iさんの夫からの寒中見舞いは我が家には届いていない。
 
他のメンバーが、思い出や悲しみを書き込む。
コロナ禍前に京都で集まったときの写真を誰かが貼った。
楽しそうに笑うIさん。大きな瞳のハッキリとした顔立ち。いつも一生懸命で、誠実だった。皆の書き込みを読むことすら、辛い。
 
去年だって、仕事やプライベートで東京には何度も行ったのに……。関西に戻ってくるときに皆を集める方がいいだろう、と勝手に決めつけていた。
9月に行ったときになら、会えたかもしない。
彼女のことだから、病気だったとしても心配をかけないように隠していたんじゃないか。
右肩上がりの通信業界でいっぱい働いて、いっぱい遊んだ。忙しくて楽しかった当時の記憶。突然すぎるショックと同時に、Iさんの笑顔が次から次へと思い出される。
そして、大きな後悔でLINEに反応する気力もわかない。
湯舟の中で、汗なのか涙なのかわからない液体が頬を伝う。
 
Mが出てきたあの夢は、Iさんのことだったのか。
そんな気がしてならない。
Mと同じ出身地のIさんが、自分の死をこのようなかたちで知らせてくれたんじゃないか。
 
年賀状をやめると決めたとき、「親しい友人とはSNSで繋がってるから、形式的に送る年賀状やめよう」と考えた。
なのに、親しい友人ですら近況について全くわからない。
気になっているのに、「元気?」とLINEすら送らない。
 
次の日、京都支店LINEにさらにこう書き込みがあった。
「Iさんの同期に聞いてみたけど、亡くなったこと知らなかった。実は、コロナでリモートになった頃にこっそり誰にも知らせず会社をやめていたみたい。その時から病気だったのかも」
 
そうか、私は自分が思っている以上に彼女と連絡を取っていなかったのか。
また会える。疑うことなくそう思っていた。
何をしても亡くなった人には会えない。今さら後悔しても遅いのに、1週間が過ぎても後悔ばかりが襲ってくる。
 
ある日突然、当たり前だと思っていたことが当たり前でないことに気づく。
確実に「また会える」そう思っていた。まだ50才前半で、いなくなるなんて考えもしなかった。年齢を重ねるにつれて、これまでの大切な愛おしい時間に気づかされる。とても幸せなことなのだが、今回のような深い悲しみを伴うこともある。
だからこそ、後悔は減らしたい。日々を大切に会いたい人にどんどん会いに行かなくては!
 
 
 
 
***

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2025-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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