急に失恋がしたくなった。
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記事:まつしたひろみ(ライティング・ゼミ)
「結婚したいと思ってないでしょ」
「そんなことないよー」
久々に会社の同期入社した友人たちに会った。同じ新卒で入った仲間たちとはもう15年もの付き合いになる。8人いた同期は、会社を辞め、結婚した。・・・・・・私以外は。
みんなが会社にいる頃は、仕事の話、上司や先輩の愚痴、会社の中の噂話、そして自分たちの恋愛話。一緒の会社で働いていて、家族よりも長い時間を過ごしていた友人とは話す話題はいくらでもあった。
時間というものは、時に残酷なことをする。
私にとっては現在進行形で日常になっている仕事の話は、彼女たちにとっては思い出話になる。私は毎日顔を合わせている先輩の名前が彼女たちには思い出せないとか、こんな仕事してるという話は「懐かしいね」と言われてしまう。
私は「現在」の話をしていても彼女たちは「過去」の話。私だけタイムマシンに乗ってきてしまったような、そんな感覚になる。
過去の恋愛話はするような雰囲気ではない。結婚をしている彼女たちには、過去の話よりは今の話。「旦那が家事をなかなか手伝ってくれない」だとか「子供が3人もいると、家の中が片付かなくて」とか愚痴が多い。ただ、そんな彼女たちにとって嫌な話も、私の耳についている翻訳機に通すと「幸せよ」という言葉にしか変換されない。
散々自分たちの話をした後、私にも何か聞かなきゃと「最近は何かないの?」と話を振ってくる。
最近はと言われても、最近「も」何もない。特に特定の誰かと付き合っているわけでもないし、かといってその候補になりそうな人もいない。頭をひねって考えて、最近話した異性を思い浮かべても、そんな恋愛感情を持って話した人など全くいない気がする。
そうすると結局、「特に何もないかなー」と答えるしかない。
「えーそうなのー?」と言われ、結婚したくないんでしょ、ということになる。
結婚、したくないわけじゃないんだよね。
ただ、今はそれよりも・・・・・・。
失恋がしたい。
おもいっきり、フラれたい。
自分がめちゃくちゃダメになってしまうような、そんな失恋がしたい。
「すごいダメ男に引っかかって、それも好きで・・・・・・」とか「浮気されたと思っていたら、自分が本命ではなかった」だとか、ドラマ的な話をしてみたい。
決して失恋した経験がないわけではない。フッてきたことばかりというわけでもない。恋愛経験はものすごく少ない。
失恋は辛い話だと思うけれど、正直とてもうらやましい。失恋のダメージが大きければ大きいほど、それだけ本気の恋をしてきたんだと思うから。
私は人生をかけるほどの恋愛をしたことが、ない。
その時は本気になっているつもりでも、後から考えるとそうでもなかったな、と思う。本気になる前に、止まってしまう。
恋愛だけではない。いろんな方面で、本気だったんだろうか、と考えてしまう。
中学時代は、大学受験の時は、国家試験を受けた時は、そして社会人になってからは……。振り返ってみると、どれだけの本気度だったんだろうと思う。余力がまだ残っていたんじゃないか。悟空がスーパーサイヤ人になった時くらい、本気でやってきただろうか。
そう、失恋じゃなくて・・・・・・。
私は今、本気で人生をかけるほどの「何か」が欲しい。
「テキトーに頑張るよ」
一時期、口癖のように言っていた。
なんか、本気になっている姿ってかっこ悪くないかな。本気な姿を見せるよりも、サラッといろいろできた方がかっこいいんじゃないかって、思っていた。
本気になればなるほど、周りの人がいなくなる。そんな経験をしていたのもあった。しかも一度や二度じゃない。その度に、本気になるのをやめた。それでもやっぱり本気になってしまう。なんでなんだろう、ってずっと思っていた。
スピードを出しすぎて、周りの景色が見えなくなっていた。周りを見ずに、前だけを見て、突っ走っていた。交通ルールも守らずに、ただ暴走をしていただけ。そんな車は事故も起こす。事故ばかり起こしていては、周りも見放す。
車だったら、いくつ事故を起こしていただろう。
事故を起こすのも嫌になって、そのうちブレーキをしっかりかけることを覚えた。景色を眺めながらゆっくり走っているのも、ま、いっか、と思っていた。
そんなある時、誘ってくる人がいた。
「ちょっとこっちに乗ってみろよ」と。
その人はすごいスピードで走っていた。隣に乗せてもらっている間は気付かなかったが、背中を見て走るようになってからは、距離が離れていくばかりだった。
離れると、本気になるのをやめてしまいそうになる。
だって、本気になるのって、かっこよくないじゃん。
・・・・・・そう言って、目をそらしたくなった。目をそらしたくなったが、釘付けになっていた。
すごいスピードで走っていたが、暴走してはいなかったのだ。まっすぐ前だけを見据えていた。
私は公道でただ暴走していただけだった。でも、彼はサーキットを走っていた。スピードを出すことを許された場に自分で行き、そこでしっかりメンテナンスをした車に乗っていた。
多くのことを教えてもらった。仕事でのこと、人生でのこと。
そして目をそらすことなく、見るようになると、他にもスピードを出している人たちが大勢いることを知った。そして、その人たちはめちゃくちゃ真剣で楽しそうな顔をしている。
本気で突っ走って、楽しんで、周りの人を魅了する。
「うわ、めちゃくちゃかっこいい」
本気になることが、かっこいいんだって見せてくれている。
すごく面白いからこっちへ来いよ、って態度で示してくれている。
人生を本気で突っ走って、その先の景色が見てみたい。
そう思わせてくれる人たちが大勢いる。
ただ、私にもできるだろうか。そんなカッコよく、楽しくできるだろうか。
心の中で、何かがもやもやしていた。
「どうしたらいい? 教えてよ」そう思っていた。
誘ってくれた人が、教えてくれた。
「鍵、手にしてないか?」
使い方がよくわからないけれど、鍵を手にしていたようだ。
こんな感じでいいかな、気持ちいいかも。
少し走り始めたら、背中を蹴飛ばされた。
「甘えんなよ」
彼は、そう言い残してまた走り去って行った。
まだ、本気じゃないことがバレてたか。
待っててください。
いや、待たないでください。
本気で走って、いつか一緒に並んで、抜き去りますから。
***
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