「選択を科学」していったら、ジャズミュージシャンが即興演奏できる理由がわかった《リーディング・ハイ》
記事:kiku(リーディング・ライティング講座)
「選択する瞬間……」
人生において、誰もが一度は経験したことがあることだと思う。
受験、就職、結婚……など、人生のターニングポイントにおいて、必ずと言っていいほど選択が迫られる。
どの人と結婚するべきか?
どの会社に勤めるべきか?
人生は選択の蓄積なのかもしれない。
私が選択ということで大いに悩まされたのは就職活動の時だった。
選択ができる範囲で悩んでいたというよりかは、選択肢が多すぎてパニックになってしまったのだ。
日本の就職活動はよく言われている通り、企業と就活生との間の茶番劇となっているのかもしれない。
5分くらいの面接をして、その人に内定を出すか出さないか判断されていく。
ほとんどパッと見の印象で決まってしまうのだ。
就活情報サイトでエントリーする企業を決めていくため、就活生は自然と名のある大企業に集まっていく。
エントリーしたいというよりかは、どこを受けていいかわからないため、とりあえず名前を知っている会社にエントリーしてしまうのだ。
私もそんな就活に翻弄された就活生の一人だった。
毎日のように飛んでくる採用情報に翻弄され、どこの会社を受けていいのか全くわからなかった。
情報の洪水に巻き込まれて、何千通りの選択肢の中から自分と相性がいい企業と出会えるのは天文学的な確率なのだと思う。
私は結局、新卒採用の時には、自分と相性がいい会社とは出会えなかった。
新卒採用の時に、一生働ける会社と出会えた人は本当に羨ましいと思う。
私は、大量の選択肢からきちんと自分の軸を持って選択をすることができなかった。
よく考えれば、普通に生きているだけで毎日が「選択」だらけだ。
今日は昼ご飯に何を食べるか?
通勤時間にスマホでどのサイトをいじるか?
などなど、人は毎日生きていたら、嫌でも「選択」という行為をしているのだ。
私は昔から優柔だったため、きちんとパッと選択できる芯の強い人に憧れを抱いていたのかもしれない。
そんな時、ふと、この本と出会った。
「選択の科学」……英名は「The Art of Choosing」。
私はいつもお世話になっている天狼院書店の本棚の隅っこでこの本を見かけたのだ。
タイトルを見た瞬間、とても惹きつけられた。
選択を科学するってどういうことなのだろう?
それに英名の「The Art of Choosing」……選択は芸術だというのは、どういうことなのか?
私は直感的にこの本を手に取っていた。
何百冊とある天狼院書店の本棚の中からこの一冊を私は「選択」したのだ。
早速私は、家でその本を読んでいった。
驚いた。
それは統計学に基づかれた選択の重要性を科学的に分析した本だったのだ。
著者の方を私は知っていた。
昔、NHKの番組で、その著者が行っているプレゼンテーションを見たことがあったのだ。
著者は盲目の方だ。
宗教的な影響が強いインドで生まれ、幼少期をアメリカで過ごした著者は、インドとアメリカの文化の違いに驚い、自由な教育を尊重するアメリカで「選択」こそ人生を左右するのではないかと考えたのだ。
インドでは人生における「選択」というものがほとんどないのだ。
私も一度、インドに行ったことがあるので、そのことはとても痛感していた。
インドは今でもカースト制度が根強く残っているので、生まれた瞬間、自分の身分が決定し、結婚できる相手も限定され、就職できる職種も限られてくる。
人生において「選択」できる範囲が極端に狭い。
その一方で、アメリカは貧富の差は激しいが、「選択」というものが尊重されている。
結婚したい相手と結婚でき、就ける職業も自分の意思で選択できたのだ。
その文化的な違いの中で、インド系移民の著者は「選択」というものを生涯の研究材料にしようと思ったらしいのだ。
私はこの本を読んでいって、ある一節がとても気になった。
それは芸術における選択のところだ。
「ジャズに制約はつきものだ。選択肢が狭まるから即興演奏が生まれる」
ジャズというのは、好き勝手に演奏しているわけではなく、ある程度、演奏する選択範囲を限定して、その制約の中で、有用な組み合わせを選んで即興演奏を生み出しているのだという。
私は衝撃的だった。
ジャズは好き勝手演奏しているわけではないのだ。
自分の感覚と長年の経験で、ある程度、制約をしているのだ。
制約があるからこそ、今まで練習してきた土台の中から新しい曲が即興的に生み出されているという。
ジャズをはじめとしたあらゆるクリエイティブな領域は、有用なものの組み合わせ……すなわち選択することが創造性につながるのだ。
より良い選択をするためにも、プロのジャズミュージシャンは何万通りとある音階の選択肢から、自分が即興で演奏できる範囲を限定して、創造性溢れる即興演奏ができるのだ。
映画「ラ・ラ・ランド」で描かれていたジャズミュージシャンの即興演奏は、実はこのことがキーだったのかもしれない。
あえて選択肢を制約しているのだ。
制約するからこそ即興演奏が可能になるのだ。
これは人生においても大切なことなのかもしれない。
私は数ある選択肢からどれを選べばいいのかわからず、就職活動で苦労していた。あの時、私はあえて選択肢を制約すればよかったのかもしれない。
制約した中で自分が進むべき道を選べばよかったのだと思う。
ジャズをはじめとしたクリエイティブな世界でも、人生においても、数かる選択肢の中から、あえて自分の進むべき道を制約し、自分の土台から即興を生み出す力は大切なのかもしれない。
制約の中から自分が進むべき道筋がわかってくるのだと思う。
紹介したい本
「選択の科学」 文藝春秋 シーナ・アイエンガー著
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