酒屋の中で飲むお酒は、一味違う
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:水谷卓也(ライティング・ゼミ日曜コース)
角打ち(かくうち)」を、してみようと思った。
それは「酒屋の店内でお酒を飲むこと」。
居酒屋ではない。酒屋である。
お店の中に商品として置いてある、缶ビールやらオツマミやら。
それらを買って、その場で飲み食いするのである。
そういう酒飲みのスタイルがあるのだそうだ。
去年、21年勤めた会社を辞め、自営となった。
サラリーマンではできなかったことを、やってみたかった。
角打ちについてあれこれ調べてみると、平日の昼間から飲めるらしい。
そりゃあいい!
世間様は「そんなのダメな大人のすることだ」と、眉をひそめるだろう。
自分としてもそう思う。
でも、なんだろうな……どうにも衝動がおさえられなくて。
初夏の平日の昼下がり、家を出た。
歩いて小一時間のとこに、老舗の角打ちがある。
日差しも風も気持ちいい、ビール日和。
だいぶ汗をかいてきた頃に到着。
大田区西糀谷の、渡商店。
「100年以上続く老舗」と聞いていたが、まさに味わい深い店がまえだ。
ドアはなく、目の前の公道と素通し。
軒先にはよしずが立てかけてあり、日差しをさえぎっている。
さてさて。
初めてのことにキンチョーしながら、冷ケースを開け。
スーパードライを取り出し、チーズ鱈といっしょにお会計。
ちょっと離れたところの椅子に、腰かける。
この椅子、ビールケースにザブトンを載せたものだ。
プシュゥ。
グビグビ。
うめええー!!
汗かいてたし、風も通るし、こりゃあいい。
世間様が働いてるうちから酒を飲む。
その気分もあいまって、ウキウキする。
そこへ、60くらいのオジサンがやってきた。
汗をふきふき、開口一番。
「生ちょうだい!」
え、そんなのあんの?
おばさんは気さくに「アイヨ」って返事をし、店の奥へ。
なんとそこには、生ビールサーバーがあり。
ジョッキになみなみと注がれた、金色の液体。
それを手に取るや、グッと飲み干すオジサン。
「うまいなァー」
「いいっすね、ソレ」
おもわず話しかけてしまった。
でも、オジサンも言葉を返してくれて。
とつとつと会話が始まる。
そしたらなんと、同じ中学の先輩ってことがわかった。
さらに空気がほぐれる。
時は14時半。
この店は、17時すぎからおつとめ帰りの人で混むとのこと。
「初めて来たのは20年前かな。今座ってるここは、常連さんの席なの」
「当時はあっち(店の隅を指さす)で、新入り同士で固まってネ」
「きゅうくつに、半身になって飲んでたなぁ」
若い時に失恋旅行したことも、話してくれて。
「夜行列車に乗って、東北へ向かった……クソクソ!って思いながらね」
「でもそれが良かったな。自分の中に、太い線ができた」
「人生いくらでもやり直しはきくんだよ」
うわーーーー。
なんか、ほろっときた。
会社を辞めて個人事業主になった自分。
それは、イケるって思ったからそうしたわけだが。
けどまあやっぱり、不安もあるよなぁ……って。
オジサンの話がそれを気づかせてくれて。
それにしても。
この、ホワホワ・ウキウキするような気分は……なんだろうか。
昼間っから店に入り浸って、飲み食いして。
知らない人とも気のおけないおしゃべりをして、笑顔になっちゃう。
なんだか、駄菓子屋っぽいな。
そうか。
そういうことか。
駄菓子屋は、教室の自分から切り替わる場所だった。
角打ちは、会社や家庭の自分から切り替わる場所、なのかな。
日常からちょいと離れてリフレッシュし、また日常へ戻ってゆく。
角打ちは、「オトナの駄菓子屋」なのか。
それ以来、あちこちの酒屋へ足を運んでいる。
武蔵新田の飯田酒店は、おかみさんのトークがいい。
池上のかまたやは、ワインに特化している。
荏原町の伊豆屋酒店は地ビールの品揃えが豊富で、お客もお酒にくわしい。
関内の浅見本店はザ・昭和って雰囲気で、いろんなオツマミを楽しめる。
秋葉原の鈴木酒販は、築浅でキレイでトイレがあって女性向き。
そんなふうに、店によってさまざまなスタイルなのが面白い。
そして共通してるのが、会話の楽しさ。
ひとりで行っても、知り合いと行っても、気のおけないおしゃべりができる。
日常によさげなアクセントをつけられる、非日常の遊び場。
これから、さらに深みにはまりそうだ。
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