母に残されたわずかな日々を想う
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記事:安光伸江(ライティング・ゼミ平日コース)
圧迫骨折でほぼ寝たきりだった母の介護を3年ほどしていた。
最近になって食が細くなり、吐くようになった。
トイレに自力で行っていたのもなかなか行かず失禁することが増えた。
私はパニックを起こし、ケアマネさんがショートステイに入れてくれた。
ショートステイ先でも吐いて、血便があるというので病院に回った。
そしてCT検査をすると腫瘍がみつかり、大病院でのMRI検査で末期ガンと判明した。
ショートステイに入れる時は、まだそんなすぐ死ぬような感じではない、私が疲れているので少し休んで、介護は長期戦になるという話だったのに。
余命数ヶ月。半年はもたないという。
積極的治療はできないという。
預かってもらった病院でも看取りはできるが、痛みなどが出ている症状を考えると、緩和ケア病棟のある病院に転院した方がいいということになった。
年末年始はショートステイに預かってもらい、その後家で介護するはずだったのに。母は病院で年を越すことになった。
そして新年、連休明けに兄が新しい病院の家族面談に呼ばれた。
ベッドの空きがあるということで、急転直下、翌日転院することになった。
幸か不幸か私はうつ病と乳がんを抱えていて仕事ができない状態である。
母の見舞いに行くのは大変だったが、病院の受付の人からは「熱心に来ていらっしゃるなと思っていたんですよ、いい娘さんですね」と言われた。
末期ガンで緩和ケア病棟(いわゆるホスピス)に転院するというと、気の毒そうにされた。
緩和ケア病棟は、一般病室でも普通の病室よりスペースが広めで、3人部屋だ。
落ち着いた雰囲気で、手厚い看護が受けられるらしい。
痛みのコントロールも積極的にやってくれるらしく、母は苦しまなくてすむはず……なのだが。
緩和ケア病棟のある病院での先生の説明は、前に聞いたのよりさらにシビアなものだった。骨を含めあちこちに転移していて、余命1ヶ月。
私の体調を考えて、毎日見舞いに来るのはやめておいた方が、と言われた。
転院した当日の母は、主治医の先生(高校の後輩らしい)に私の話をしていたらしいのだが、2日後に行ったら眠っていて話せず、次の日は起きていたものの、何を言っているのかまったくわからない状態になっていた。
痛み止めのせいか? 病状が悪化したのか? それはわからない。
こちらの言っていることはわかっているような気もするのだが、意思の疎通ができない。
寂しい。
もっと話したいのに。
余命1ヶ月ならあと何回会えるのかわからないのに。
それでも、ママのこと大好きだからね! と精一杯言ってきた。
我が家ではほっぺをくっつけることを「好きする」というのだが、たくさん好きしてきた。手にも好きしてきた。
ママおねぇちゃんのこと好き? と聞いたら、何かつらそうな顔をした。
そんなの当たり前やないかね、なんでそんなのわざわざ聞くんかね、と思っているのか? それともおねぇちゃんが嫌いになっちゃったのか? 心配だ。
おねぇちゃんはママのこと大好きだからね! と何度も何度も言う。
私は長いこと東京に出ていて実家で暮らしているのはこの十年弱。うつ病が悪くなって帰ってきたこともあり、親との会話は少なかった。
だいぶ病気もよくなり、母の世話をするようになって、親子関係は良好になったと私は思っていたのだが、それでも、話すことがない。話題がない。
大好きだからね! ママ好きだからね! それしか言うことがない。
病院には1時間半から2時間くらいいて帰るのだが、その後が寂しい。
私の状態があまりよくないので精神科の訪問看護の方が毎日来てくれるのだが、夕方それが終わるとさっさと晩ご飯を食べて寝てしまう。
夜中に目が覚めて、母の急変で電話が来るんじゃないかと怖くなる。
朝早くがいちばんつらい。母が死ぬかもしれない、と思うとともに、自分の希死念慮ともたたかっている。
でも、母が死ぬからといって私が死にたいというのは変だな、と思い直したりもする。母は私の幸せを願ってくれるはずだから、元気に生きなければ、と思う。
思うのだが。
つらい。
怖い。
兄にいわれて、母が亡くなったらどういう手続きをしないといけないかなどはシミュレーションしているのだが、それをするのもつらい。
それでも、痛みのコントロールが出来ているのならば、少しでも長く生きていて欲しい。
母ともう一度話をしたい。
母の声を聞きたい。
おねぇちゃんのこと大好きって言って欲しい。
ママのこと大好きだからね! 天国で見ていてね!
美加ちゃん(天国にいるうさぎのぬいぐるみ、私の妹扱い)と仲良くね!
おねぇちゃんはがんばって生きるからね!
別れの時は近づいている。
できるだけ引き延ばしたい、でも苦しんで欲しくはない。
死にゆく母を見るのはつらい。
でもいまのつらさをしっかり味わっておこうと思う。
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