自撮り文化の衰退が、待ち遠しくてたまらない
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記事:コバヤシミズキ(ライティング・ゼミ平日コース)
専攻の飲み会の帰り、誰かが「集合写真を撮りたい」と言い始めた。人通りの多い夜の天文館で写真を撮ろうというのだ。道行く人の足取りは速い。「ちょっと無謀じゃない?」と思いつつ、幹事の子に声をかける。
「じゃあ、あたし撮るよ」
30人近くいる大所帯だ。必然的にカメラマンが必要だと思って声をかけた。しかし、幹事の子は一瞬不思議そうな顔をした後、私にこう言ったのだ。
「自撮りだから、小林も写るんだよ?」
ああ、これは逃げられないな。私は笑ってOKと返したが、内心冷や汗をかいていた。
私は自撮りが嫌いでたまらない。
昔から私は写真を撮られるのが苦手だった。「写真撮るよー!」と集合写真の号令がかかれば、積極的に背の高い人の後ろに立ったし、修学旅行はカメラマンを避けるようにしてディズニーランドをまわった。それくらい写真撮影を避けて生きてきたのだ。中・高の卒アルも、自分の姿を探したが、クラスのページ以外見つけられなかった。それでも友達に「小林、全然写真写ってないね」と言われると、「そうだね」と笑いつつ、どこか満足している自分がいる。
これっておかしいのだろうか。周りの友達はみんな普通に写真を撮っているのに、私だけが写真を怖がっている。なんだか不安になってきて、少しあほらしいけど『写真嫌い 理由』で調べてみた。すると、どうやら写真嫌いにはちゃんと理由があるらしい。写真嫌いには、『自分の容姿が嫌い』『鏡の自分とのギャップに耐えられない』という理由があるそうだ。これを見たとき、正直ドキドキした。思い当たる節がありすぎたのだ。顔面のコピー元である父の顔を気持ち悪いと思ったことはないのに、なぜか自分の顔は気持ち悪い。鏡を見るときに「こうだったらいいな」と理想の自分を思い描いてしまう。ビックリするくらいのドンピシャ。癖のようになっている自己否定が、まさかこんなところに繋がっていたとは。でも、少し胸がスカッとした。ちゃんと理由があったのだ。これからはそれを直したら良い。そう思えば、少し前向きになれたのだ。
しかし、そんなときに恐ろしい文化が生まれてしまった。そう、『自撮り』だ。今や自撮りは、息をするように行われるのが当たり前になっている。私のような自己否定の塊が自撮りなんてできるはずがない。証明写真だって、必死に「頑張れ!」と自分を鼓舞しながら撮った。もちろん、できあがった写真は情けないくらい強ばった顔をしていた。・・・・・・だって、写真を撮るという意思を持つだけで精一杯なのだ。それなのに自撮りって。たかが写真を撮るだけ。自分の一番かわいい瞬間を、ななめ45度上から切り取るだけ。でも、それが死ぬほど難しい。「一瞬だって!」「大丈夫!」何度もそう言われて、無理矢理画面に収められてきた。自撮り嫌いの私からすれば、一瞬は永遠だし、いつだってななめ45度上をにらみつけることしかできないのに。
・・・・・・言い訳なのは分かってる。嫌がる私の手を優しく引いてくれる友人も、もっとたくさん撮りたいのに我慢してくれる友人も、本当は大好きだ。
それでも写真だけは駄目なのだ。「写真撮ろう!」と言われると、その子のことが急に親の仇のように感じてしまう。今までなら、仇なす前に撮影係を申し出ていた。しかし、急に自撮りなんて文化が誕生したから「自撮りで良いでしょ」と一蹴されてしまう。そのたびに、ほんの少しずつ彼女のことも苦手になるのだ。
後日、LINEのグループに1枚の写真が送られてきた。みんなで必死に体を詰め込んだ写真は、今にも昨日の笑い声が聞こえてきそうだった。ふと、端の方にひっそりと写る自分を見つけた。写真の中の自分は、やはり私のことをにらみつけている。
・・・・・・いつから写真はこんなに攻撃的になったのかな。『視線で人を射抜く』って本当よくできた表現だと思う。私にとって、カメラは私を撃ち抜かんとする拳銃なのだ。向けられるレンズも、スマホの画面も、眉間に拳銃を突きつけられているようで生きた心地がしない。
「私なんか写らんほうがいいよ」
自己否定の盾で防いできたカメラのシャッターは、これから先も私のことを苦しめるのだろうか。ましてや自撮り。自分でシャッターを切るなんて、まるで自分に引き金を引くヒールみたいだ。
もちろん、このままじゃ生きにくいのは分かっているので、少しは写真を好きになる努力はしようと思う。きっと、先生たちが言うように、もっと自分を信じれば良いのだろう。方法なんて誰も教えてくれないけど、頑張ろう。それでも、どんなに前向きになろうとしても、自撮りの壁は越えられないと思う。だから、私は今日も神様にお願いする。
「自撮り文化が、さっさと衰退しますように!」
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