オジサンを改造する努力で一番コスパの良かったもの
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記事:ジル鹿島(ライティング・ゼミ朝コース)
最近、妻から
「オジサンくさくて恥ずかしいから、もっとキチッとして」
とよく言われる。
確かに身に覚えがある。
年齢が上がると、今まで出来ていた事が出来なくなってくる。小さい字は見えなくなるし、膝も痛い。鼻毛が伸びるのも早くなり、切り忘れると恥ずかしい。
外見だけではない。仕事の力量も落ちモチベーションを維持するのにも大変だ。
オジサンどころか、オッサンの道を歩みつつある。それが巡って外見にも出るのだろう。しかし中身を磨くのは大変だし、結果を出すのには時間がかかりすぎる。
ということで、順序が逆かもしれないが、少しはキチッとしようと思いたち、外見を整える努力を始めてみた。
まず髪の手入れ。
私は安床屋で刈上げ専門だ。
「たまにはちゃんとした美容院でも行ってきて」
と妻に言われ、妻の行きつけの美容院に予約を入れてもらった。
行ってみると内容がいちいち長い。美容師さんとの会話もかみ合わない。足腰は痛いし、退屈だし、置いてある雑誌はほとんど女性雑誌であった。
3時間程かけて妻のリクエストどおり髪を染め、小ぎれいにカットしたものの、かえって薄くなったところの色のコントラストが強調されて目立つ。
「少しは良くなった」
と妻は嬉しそうに言うが、切る前と長さがほとんど変わってないような気がする。お値段も結構なものだ。やはり安床屋で思いっきり刈り上げた方が性に合うと思った。
次に服だ。
私はユニクロでジャケットを新調しようと思った。
ところが妻からクレームが入る。
「ジャケットぐらいもっと高価なものを買いなさい」
妻に連れられるようにしてデパートに行く。
確かにジャケットはいいものだった。しかし、いいお値段なので、
「いらない」というと、
「いいから買いなさい」としつこい。
また店員も一緒に勧めてくる。
「あの人カッコよくない?」と妻が耳打ちして店員を褒める。
「そうかぁ? どこが?」
結局2対1の状態で、おしきられてジャケットを購入するはめになったが、遠目に見ればユニクロと大差はないので、あまり変り映えしない。
結局、髪型も服もたいして効果があるように思えなかった。
さて、どうしたらキチッとできるのだろうか?
数日後、出張中に妻が「カッコいい」と言ってた人と似ている男性を見かけた。
それはホテルのコンシェルジュ。
そういえば、妻が行く先々で「あの人カッコいい」という場合がある。
私は思い出して共通点を探してみる。
ホテルのコンシェルジュ。
デパートの洋服売り場担当。
レストランのギャルソン。
それはハンサムだからでも、小ぎれいだからでもない。考えた末、一つの仮説にたどり着いた。
皆、いちおうに「姿勢がいい」のだ。
背筋がピンとして凛としているとともに、年配の方でも爽やかさが伴う。
せっかくだから実践してみたいところだが、どうしていいかわからず、とりあえずハウツー本を探してみた。不思議なことにヘアースタイルやファッション、ダイエットやトレーニングの本はいくらでも見つかる。なのに、なぜか姿勢の本は見つからない。
とうとう一冊だけ見つかった。
タイトルは「美人な姿勢図鑑」、当然ながら女性用だった。
他に手がかりもないので、買ってみることにしたら結果は当たり。まさに目から鱗。
私も街で素敵な女性に見とれることがある。
ただ綺麗だからではない、それ以上の何かを感じる。
この「美人な姿勢図鑑」には、その理由が解説付きで、丁寧に書いてあるのだ。
そう考えれば、ホテルのコンシュルジュのカッコよさも理解できる。
本の内容を自分なりに男性用に応用して、次の日から試してみることにした。コンシュルジュの姿勢と動作をお手本にして・・・・・・。
最初は腹の出っ張りが気になったが、それでも背骨を意識してまっすぐ伸ばす。
話すときは相手の顔をきちんと見る。威圧的にならないよう、やや耳の方を見る。おじぎをするときは背中からでなく腰から曲げ、エスコートする時などは意識して少し斜めに。事務員さんと行き交うときには進んでドアを開けるようにした。
気のせいかもしれないが、姿勢をよくすると顔の筋肉が凛としてくる。
また自己暗示かもしれないが、考え方も前向きになってきた。
とりあえず職場だけでも意識して続けてみたところ、さっそく効果があった。
事務員さんから聞かれる。
「最近、明るくなったみたいだけど何かいい事あった?」
「本当? さあ、なんだろう?」姿勢の話は内緒のままだ・・・・・・。
どうやらオッサン転落は食い止められそうな気がしてきた。
カッコまでは良くなったかどうかは別として姿勢を正すことに間違いなくオジサン改造の効果はあったと思う。
なんと一番効果があったものが最安値。本代とやる気だけという最高のコスパだった。
《終わり》
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