書く仕事で食えていない私が「ライター」と名乗る理由《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:中村 英里(プロフェッショナル・ゼミ)
自分が書いた記事が一本でも掲載されたら、それはもう「ライター」なんだろうか?
たとえ執筆料だけで生活できるほど、稼げていなかったとしても。
「ライター」という肩書きで仕事を始めて、数ヶ月経った。
それまでは10年近く、ずっと会社員をやっていて、そのときの肩書きはライターではなく、「マーケター」や「広報」だった。
でも、求められていないときにも、仕事の中に”書くこと”を無理やりねじこんできた。
直近で勤めていた、プログラミングスクールで、広報をやっていた時。
卒業生へのインタビュー記事を定期的にあげるように、という上司からのオーダーはあったが、講義のレポート記事や、外部イベントの取材記事など、頼まれていないものも勝手に書いていた。
さらにその前に勤めていた飲食系の会社では、メルマガ会員向けのマーケティングを担当していた。
クーポンやキャンペーン情報を送ることも多かったが、「クーポンはないけど、このお店の宣伝をメルマガで送ってほしい」というふわっとした依頼がきた時には、「〜やってみた」みたいな企画を勝手に考えて、実際にお店に行ってメニューを食べたり、スタッフさんに話を聞いたりして、それを記事にしてメルマガで流したりしていた。
「え、わざわざお店行くの?」と驚かれることもあった。
すでにある宣材用の画像を使って、お店の紹介をさらっとメルマガで送るだけでもよかったのに、と言われることもあった。
それなのに、実際にお店に行って、商品を食べて、撮影もして、それを記事にする……なんて手間のかかることをしていたのには、理由があった。
「そっちの方がより店舗を訴求できるかと思いまして!」なんて、それっぽい大義名分を掲げてはいたが、正直、自分のためだった。
ライターになりたい、とはっきり思っていたわけではなかったが、「文章を書くことを、仕事にしたいな」という気持ちは、ずっと頭の片隅にあった。
いつかはそのうち……なんて思いつつ、でも行動を起こす勇気も出ないまま、ライター募集の求人を見てみることもあった。
でも、経験者のみとか、応募時に過去に書いた記事を送ってください、とかいう条件がついているところも少なくない。
未経験OKのところだったとしても、もちろん経験があったほうが有利に決まってる。
だから、隙あらば日々の仕事の中に、文章を書く機会を入れ込んでいたのだ。
それは、「過去にこんな記事を書いてました」と見せられるものとして使えたらいい、という気持ちがあったから。
そうして会社員時代にチマチマと書き溜めていたものを執筆実績として示すことができたおかげで、仕事をいただけたこともあった。
でも、順調なのかと言われると、そうではない。
会社を辞めて数ヶ月たつが、時々ものすごい恐怖に襲われることがある。
書くことだけで生きていく、なんて。
そんなこと、自分にできるのだろうか。
そんな自分に対する疑いがあったから、何年も前から「書く仕事をやってみたい」と頭の中では思いつつも、会社員を続けてきたわけなのだが、書く仕事だけに専念してみようと決意し、会社を辞めてからも、度々この不安が頭をもたげてくる。
実際、フリーランスになって4ヶ月ちょっとの現状としては、執筆料だけで生活が成り立つくらいの安定的な収入を、毎月得られているわけではない。
一人暮らしではないので幸い家賃の出費はないのだが、いままでは給与から天引きされていて気づかなかったもの――健康保険やら区民税やら年金やら、生きてくのってお金かかるんだなぁ、ということに改めて気づいた。
毎月定期的に決まった額のお給料が入ってくるから、という安心からどんぶり勘定でいままで生きてきたけど、それが当たり前じゃない状況になって(まぁ自分で望んだ状況ではあるが)、正直めちゃくちゃ不安なのだ。
会社員の時は、会社員としての肩書きがあって、そこにひもづく仕事から稼いだお金で、生計を立てていた。
だからいま、文章を書く仕事で生計を立てているわけでもないのに、「ライター」という肩書きを名乗っていることに対して、なんだか後ろめたいような感覚がある。
そんなふうにモヤモヤした気持ちを抱えていたとき、買っただけで放置していた星野源さんの『働く男』というエッセイを本棚で見つけ、読んでみた。
星野源さんは、俳優、歌手、文筆業と、様々な活動をしている方だ。
本の中には、文章を書く仕事を始めるまでの話が書かれていた。
“文章がうまい人”へのあこがれがあったが、まわりの人に「文章の才能はないと思うよ」と言われ、それでも誰に見せるアテもないエッセイや小説を書きまくっていたこと。
ただ書いているだけじゃ上達しないことに気づいて、知り合いを通じて自分で営業をかけて頼み込み、200字の雑誌のコラムから、文章を書く仕事をスタートしたこと。
その後、400字の連載をもらえるようになり、6年後に2,000字のエッセイ連載が始まり、そのエッセイをまとめた『そして生活はつづく』という本が出版された、ということ。
それを読んで、驚いた。
俳優としてすでに有名になっていた星野さんに、執筆の依頼がきて、そこから書く仕事を始めたのかと思っていたから。
そして、200字からスタートして、6年かけて2,000字の連載に至った、というのを見て、ライターとして仕事をはじめてまだ数ヶ月の自分が、不安がってうだうだ言ってるのは恥ずかしいな、と思った。
そんなに簡単に、やりたい仕事につけるわけはない。
まずは小さくても一歩を踏み出して、そこから少しずつ広げていくしかない。
本の著者紹介欄には、星野さんの肩書きは、「音楽家・俳優・文筆家」と書かれていた。
星野さんが「文筆家」という肩書きを名乗り始めたのは、いつ頃からなのだろう。
音楽も売れているし俳優としても有名だし、本も何冊も出ている。
今やどの肩書きの仕事でも稼げてはいるだろうけど、「文章で稼げていないのに、文筆家と名乗るのは後ろめたい」というようなことを、星野さんも考えたのだろうか。
でも、「稼げてないとその肩書きを名乗ってはいけない」という考えは、少し違うような気もする。
たとえば、芸人さんだと、テレビに出ている人でも「稼ぎがまだ少ないので、実はまだアルバイトしてます」なんて言う人もいる。
でもその人は、芸人の仕事で食っていけるだけの収入がなかったとしても、「どうも、芸人の◯◯です!」と自己紹介をして、「芸人」という扱いでテレビに出ている時点で、「芸人」なのだ。
だから、私は開き直ることにした。
「ライター」と書かれた名刺を持って、ライターとして取材に行く。
自分が書いた記事が、名前とともにメディアに掲載され、それによって原稿料をいただく。
だから、後ろめたいことなんて何もなくて、私はライターなのだ。
誰が何と言おうとも。
星野源さんの『働く男』の一節には、「文章の才能はない」と言われながらも、書くことを仕事にしてきたことについて、こんなことも書かれていた。
—–
才能があるからやるのではなく、
才能がないからやる、という選択肢があってもいいじゃないか。
そう思います。
—–
才能って何なんだろうか。
努力しなくても自然とできることを「才能」と呼ぶのだろうか。
それなら、私は自分に文章の才能があるとは、思わない。
ライターになる前にも、仕事で少しは文章を書いていたとはいえ、本職のライターとして何年も仕事をしてきた人たちと比べたら、実力はまったく及んでいない。
それでも、何年も仕事をしてきた人たちと肩を並べて、同じ「ライター」として、同じ媒体で記事を書いたりもするのだ。
自信なんてまったくないが、もし自分が頼む側だったら、「まだ実績も浅いですが……」なんて自信なさげにしている人間に仕事を頼みたいとは思わないから、自信満々に「できます!」と仕事を受ける。
だが、自分がまだまだ、という自覚は十二分にある。
仕事で書くもの以外にも、毎日誰に見せるためでもない文章を書いて、ライティング講座に通い、毎週一本原稿を提出し、フィードバックを受ける、というのも半年ほど続けている。
昨日と比べて今日はこれができるようになった! というような、目に見える劇的な変化があるわけではないので、「少しは進歩しているのだろうか?」と、時々不安になる。
でも、どんなものでも、翌朝目覚めたら、いきなりものすごく出来るようになってました、なんてことはない。
まずは今ある仕事に、丁寧に向き合う。
フィードバックをもらったら、同じ指摘はなるべく受けないように努める。
実力が足りていないなら、せめて締め切りは守るとか、こまめに連絡するとか、当たり前のことではあるけど、できる範囲のことをきちんとやる。
待っているだけで新しい仕事が向こうからやってくるようなことはないので、自分からも営業をかけていく。
「過去に書いたものを見せてください」と言われたときにすぐ見せられるように、過去の執筆実績もWeb上にまとめておく。
仕事以外でも、毎日必ず文章を書くようにする。
そんな、ひとつひとつの、小さな積み重ね。
これをひたすら続ける。それしかないのだ。
ぱっと見ではわからない、一日1ミリ程度の変化だったとしても、一ヶ月続ければ3センチくらいは積み上げられる。
1ミリなんてやってもやらなくても変わらないよ、と思って何もしなければ、一ヶ月後も同じ場所のまま。
だから私はこれからも、自信満々にライターと名乗り続けて、毎日の小さな変化を積み重ねていこうと思う。
いつの日か、後ろめたい気持ちゼロで「ライターです!」と名乗ることができる日がくるまで。
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