爪は口ほどにものを言う
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記事：江口雅枝（ライティング・ゼミ日曜コース）
今ほど指先が人に見られる時代があっただろうか。
「爪、きれいですね」
スマホ時代になって、指先が人目につく機会が格段に増えた。そのおかげもあって、ネイルケアをしておくと、とりあえず爪だけは褒められる。
初対面でいきなり「髪きれいですね」とか「肌きれいですね」は、一歩間違えると生々しさとセクハラ感が出てしまうけれど、爪は自由だ。
別に美人でも美人じゃなくても、爪がきれいだと相手も褒めるポイントができて会話しやすいし、たとえ「爪」限定でもきれいと言われれば嬉しい。
本当はズボラな性格の自分も「指先まで気を配っているんですね」なんて言われることもある。
電車に乗れば、ズラリと座席一列みんな揃ってスマホを持ち、片手でスピーディーに操作する若い女性から、ひとさし指でゆっくりタップしている年配の女性、そしてちょっと疲れた顔のビジネスマンまで、みんなその手にスマホを持っている。
そんな時ついつい見てしまうのが、使っている機種でもなくスマホカバーのデザインでもなく「指先」だ。
オフィス向けのナチュラルカラーをほどこした上品なOLさんの指先、学生らしくキャラクターを描いたネイルアートがインパクトを放つ指先。社交ダンスでもやっているのかな？ と思わせる、真っ赤なネイルが美しいご年配の女性。
そんな彩り豊かなネイルの中に、すっぴん状態で短く切り揃えた爪が清潔感を感じさせる指先を見つけると、看護師さんなど、医療関係者かな？ とネイルができない職業を妄想したりしてしまう。
畑仕事をしていた母の指先や、幼いころあやとりや折り紙を教えてくれた祖母の指先。ネイルケアなんてする暇もないほど忙しく自分を育ててくれた指先。
なにげなく眺めていた電車の中の、みんながスマホを持つ手元をみているだけでも、いろんな指先からつながっている物語があるように思えた。
ここ数年間、ジェルネイルと呼ばれる、爪専用のジェルを特殊なライトで瞬時に固めて仕上げるネイルが主流となって、従来のマニキュアのように乾かす時間が必要なく、デザインの幅も広がったことで、ネイルケアをする人が増加。
ネイルケアに無頓着だった私自身も、さすがに自分の結婚式くらいは爪もちゃんとしないと、と思って、ジェルネイルを体験。つるっつるツヤッツヤの質感が何週間もきれいに保てるその仕上がりに、気に入って今では３６５日毎日ジェルネイルを付けている。
仕事先での名刺交換はもちろん、タブレットをつかって話しをする時にも、指先というのは、常に見られている。ズボラな自分には、ネイルケアをしているだけで、ずいぶんと安心感が増した。
もともと、じんましんが出来やすい体質で、かゆくなると爪で皮膚をひっかいてしまう癖があった。かきむしると余計にかゆくなり、赤く傷になったり、血が出たり、肌を傷つけてしまうことも多かった。
しかし、ジェルネイルをしてみると、爪の先がほどよくコーティングされて丸みを帯びるので、仮にかゆくて皮膚をひっかいてしまっても、傷になりにくく、肌へのダメージがかなり解消された。
そのことを通っているネイルサロンで話してみたら、実はアトピーの方々にも、ジェルネイルは推奨されているという。
長く伸びた爪先は鋭く、炎症を起こしている皮膚を刺激して悪化させてしまうことがあるため、ジェルネイルでケアしておくことで予防になる。
おしゃれとしてのネイルだけでなくて、そんな健康上のメリットもあったのだ。
目は口ほどにものを言う、ならぬ
爪は口ほどにものを言う。
「爪、きれいですね」
夫と、付き合う前はじめて食事に行ったときに、会話にのぼったのも、爪の話題。
合コンでも婚活でも失敗つづきだったという夫の、着眼点がよかったのか、
爪トークが盛り上がって、今でもよくそのときの話しをする。
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