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3回留学した僕が、留学とかセミナーで人生を変えるのをあきらめた理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西田博明(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「この女の子は、うれしくて笑ってるんじゃないんです」。
ニュースキャスターが、そういった。
 
ノルウェー留学から帰国した、2001年の冬。
画面の向こうでは、少女が、ケラケラ笑っていた。
 
対テロ戦争が始まってすぐ、
アフガニスタンの、医療施設。
 
 
小学生ぐらいだろうか。
柔らかそうな金髪、真っ青な目、すべすべのほっぺ。
ほんとに、天使みたいな、可愛い女の子だった。
 
そしてその女の子は、どこか……
僕が留学先で恋をした女の子、マリアナに、
顔立ちが似ていた。
 
年の離れた妹っていわれても、
不思議じゃないくらい。
 
 
「マリアナに会いたい」
「あの子も、マリアナみたいな、きれいな女性になるんだろうな」
 
 
そんなことを想いながらニュースを見ていた。
 
 
そして、キャスターは、さらに言葉をつづけた。
 
 
「実はこの女の子は……」
 
 
次のキャスターの言葉が、
さえない高校生だった、僕の何かを変えた。
 
 
そして、20年近くたった今、
僕は異文化理解の講師として、
海外でも、日本でも、仕事をしている。
 
 
世界を知りたくなった僕は、
僕は結局、高校、大学、社会人と、
3回の留学をした。
 
そして、コーチング、セラピー、瞑想……
日本でも海外でも、いろんなセミナーやプログラムに参加した。
 
今だって天狼院の、「人生を変えるライティングゼミ」
に参加して、かなり真剣に、学んでる。
 
 
だからこそいえる。
 
 
セミナーや留学で、人生は変らない、と。
 
 
 
16歳、高校2年生
僕は、友達作りの下手な奴だった。
いつもクラスの隅っこにいる、目立たないやつだった。
周りの人は、僕のことを、「変な奴」と、笑っていた。
「お前たちこそバカなんだ!」と思いながら過ごしていた。
寂しかった。そして苦しかった。
 
 
「ここには僕の居場所はない。」
そう思った。
 
 
だから、留学に応募した。
 
 
1年間、ノルウェーに行くことになった。
 
 
 
英語だってほとんど話せない。
 
ノルウェー語を教えてくれる塾なんてなかったから、
現地では、自己紹介を学ぶところから始まった。
 
 
留学先の高校には、
一緒にノルウェー語を学ぶ、「外国人」が4人いた。
 
 
クロアチアと、ソマリアからの難民だった。
みんな、もう何年かノルウェーにいる、
ノルウェー語の先輩。
 
「ヒロ、元気?冬の準備できてる?あったかい服はちゃんとある?」
「ノルウェー人はね、シャイだけど、お酒飲むと一気に変わるよ」
「ヤイロっていうところに、そこそこいいスキー場があるよ。」
「私の誕生日パーティー、来てくれる?」
 
 
言葉についても、ノルウェーの文化についても、
いろんなことを教えてくれた。
 
 
その中に、
看護学科で学ぶ、年上の女性がいた。
 
青い目、かわいらしくカールした金髪、すべすべの肌。
 
美しい人だった。
廊下ですれ違うと、ニコッと笑いかけてくれる人だった。
シャキッと胸を張って歩く人だった。
 
 
クロアチア出身。年齢は20歳ぐらい。
その年齢で高校生をしているということは、
祖国では、学校に行けなかったんだと思う。
 
 
 
彼女のいる教室に行くのが、楽しみになった。
ランチタイムに顔を合わせるだけで、なんだかウキウキした。
彼女が他の男のことしゃべってると、いてもたってもいられなくなった。
 
 
今だからわかる。
あれは、僕の初恋だったんだと。
 
 
じゃあ1年間で、何が変わったか?
人生は、変わらなかった。
 
ノルウェー語が話せるようになって、
文化の違いが、分かるようになってきただけ。
 
 
僕はやっぱり、さえない高校生だった。
1年間海外に行ったって、別人になれるわけじゃない。
人生が変わるわけがない。
 
 
日本の学校に戻って、勉強を開始した。
 
そんな時アメリカで、9.11同時多発テロが起きた。
 
 
貿易センタービルに飛行機が突入する映像を見ながら、
足が震えた。
 
「アメリカのロブとレイチェルは大丈夫かな」
「もし戦争が始まったら、僕の友達が徴兵されるのかな」
 
ノルウェーで出会った、世界中の留学仲間のことが、心配だった。
 
 
そして、アフガニスタンの戦争が始まった。
 
 
ある日ニュースを見ていると、
 
 
アフガニスタンの医療施設恵、
初恋の人、マリアナにそっくりな女の子が、
笑っていた。
 
 
 
「この女の子は、楽しくて笑っているんじゃないんです」
キャスターが言った。
 
 
 
「空爆を受けて、それから、ずっと笑い続けているんです」
 
 
……その女の子は、発狂してしまっていた。
 
 
他人事に、思えなかった。
 
好きな人の妹が、発狂させられたような気がした。
好きな人のご近所さんが、爆撃されているような気がした。
 
あの人がもし家族を失ったら、どんな顔で泣くんだろう。
そしてその傷は、あの人の人生を、どうねじ曲げてしまうんだろう。
 
 
そんなことは、許せなかった。
 
 
まだ無力な高校生。
 
 
平和どころか、クラスメイトともうまくやれない高校生。
その反動で、クラスメイトを見下している、高校生。
 
そんな自分に、
何ができるかはわからなかったけど、
何かをしたいと思った。
 
 
もう、一生、この気持ちは忘れられないと確信した。
 
 
 
そして、20年。
 
 
誰とでもうまくやっていける力をつけたいと、
チリ、コスタリカ、フィリピン……
いろんな国で暮らした。
 
 
僕に何ができるかを探して、
いろんな勉強をした。
 
コミュニケーションを学び、
異文化理解を学び、
自分の傷に向き合った。
 
あの、気を狂わせて笑っている少女のことが、
忘れられなかった。
 
 
そして、今。
 
 
若者を海外に連れて行ったり、
海外から来た人たちに、異文化理解を教えたり、
そんな仕事をしている。
 
 
少しだけ、ほんの少しだけだけど、
平和の種をまけていると思う。
 
 
まだまだ、自分ではコミュニケーション苦手だなって思うけど、
そんな僕を支えてくれる人たちに出会えた。
応援してくれる仲間がいる。
気を許せる、友達がいる。
 
あの時のあの思いが、
僕の人生に、方向を与えてくれた。
そしてそれが、僕をここまで連れてきてくれた。
 
 
1年間では、人生は変らなかった。
どんなセミナーにいっても、人生は変らなかった。
 
 
だけど、人生の方向を、
ほんの2~3度ほど、変えてくれた。
 
違いでいえば、ほんの数ミリだけど、
 
人生を進めば進むほど、その2~3度は、大きな違いを作っていく。
 
1年ごとに、5年ごとに、10年ごとに、
1メートルにも、10メートルにも、100メートルにもなっていく。
 
 
そう、人生は変らなかった。
だけど、方向が変わった。
 
 
だから僕は、セミナーや留学で、
人生を変えようと思わない。
 
 
だけれども、
その体験が、どう僕の方向を変えてくれるのか、
そこに興味がある。
 
 
そして、そのちょっとの違いを大切にして、
時間をかけて、大きな違いにしていくことを、
大切にしている。
 
 
セミナーや留学が変えてくれるのは、
人生じゃない。
あなたの、方向性なんだ。
 
 
マリアナには、結局、
僕の気持ちを打ち明けられなかった。
 
留学最後の日、
「日本でも頑張ってね!グッドラック!!」
マリアナにハグをされて、首筋にキスをされた。
 
 
彼女と、付き合うことはできなかったけど、
彼女に、いつか言いたい。
 
 
あなたに出会ったことが、
20年かけて、
僕の人生を、ここまで連れてきてくれたんだよ、と。
 
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2018-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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