ライティング・ゼミは人生のラストチャンス
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:前田 政哉(ライティング・ゼミ平日コース)
「あのバンド、最近若い子に人気があるみたいだね」
ライティング・ゼミの提出が終わってほっとしていた私は、飲み屋のマスターと音楽の話をしていた。
そのバンドは、高校時代に軽音楽部で一緒にバンドをしていた池川くんが所属しているバンドだ。卒業してからは連絡も取っていなかったし、自分が好きなジャンルではなかったので、あまり気にしていなかった。
バンドの活躍は目覚ましく、街を歩いていると、ロックフェスの広告のラインナップに彼のバンドの名前が載っているのを見ることが増えていた。高校生の頃、大好きでライブにもよく遊びに行っていたバンドとも共演している。
そんな友人の活躍を見ると、嬉しい気持ちもあるが、悔しさと情けなさの気持ちでいっぱいになった。
気持ちが落ち込むと、お酒を飲む量が増える。その週は特に沢山お酒を飲んでいた。私は決してお酒が強くない。お酒を飲むとすぐに酔いが回り、悩んでいたことがどうでもよくなって、寝てしまう。そしてまた朝を迎え、仕事に行くという日々を繰り返していた。
毎日忙しく働いているが、何も自分の将来に繋がっていないんじゃないかと感じることがある。
バンドでメジャーデビュー、出版社で自分の好きな写真家の写真集を出版、イタリアンレストランをオープン、一部上場企業の課長に昇進。
これらは全て、私の身近な友人の近況だ。今年で31歳。私も彼らのように何か成し遂げていても良いはずだが、現実はまったく違う。長時間労働、低賃金のサラリーマン。
絶望的な気分で過ごしていたが、ライティング・ゼミの提出期限がまたやってきた。
毎週月曜日の23時59分までに提出しないといけないことは、頭ではしっかり理解していいる。忘れていた訳ではない。見て見ぬふりをしてしまっていた。こうやって都合の悪いことを、お酒を飲んで忘れようとする性格が、私が成功していない理由であることは十分に頭では理解している。
なぜこんなに期限ギリギリしか課題に取り組むことが出来ないんだろう。小学生の頃は、夏休みの宿題は最初の一週間んで終わらせていた。中学生のときも夏休みの前半には終わらせていたはずだ。
ギリギリに課題を提出するようになったのは、おそらく高校に入ってからだ。授業に全然ついていけなかったが、追いつこうと勉強をするわけでもなかった。なんとなく疲れて帰って寝てしまう。難しいこと、めんどくさいことから目をそらす癖がついてしまった。
どんどん出来ないことが増えていく。わまりの友人はいろんなことにチャレンジしている。私は他人と比べられることを嫌って、自分を表現したり発言すたるせず、ボロが出ないように目立たないように大人しく過ごしていた。
就職して働きだすと、注意されたり怒られたりすることが多くなった。よく出来る社員ではなかったので、評価されたり褒められたりすることがあまりなかった。
疲れた休日は、図書館に吸い寄せられるように向かい、たくさんの本を借りて帰ってきた。なぜこんな本を読んでしまったりするのだろう。
「本を読んで偉いね」
小さい頃、本を読んでいると褒められたことを思い出した。子供のころは、漫画を読んでいたりゲームばかりしていると怒られたが、本は読んでいるだけで褒められた。
小学校の頃、住んでいる町の作文集に載せてもらったことが何回かある。各小学校の各学年から一人だけ選ばれる作文集だ。自分の文章が、ちゃんとした形で紙に印刷された最初で最後の経験。その時の気持ちは全く覚えていないが、たくさん褒められたと思うし、心底嬉しかったのだと思う。その作文集はずっと家の本棚にあった。それを見ると誇らしい気持ちになっていた。
私はとても単純なことを欲していたのかもしれない。
褒められたい。
今になってようやく、なぜ私が本に囚われ続けているのかわかった気がする。ずっと書いてみたいという感情が自分のどこかにあったが、なぜそう思うのか理由を考えたことがなかった。きっと私は文章を書いて、また褒められたいんだ。
大学入試を受ける時、無意識に文学部を志望していた。母はどんな本でも面白がって読める人で、登場人物が多く、物語が長すぎて私には読みきれなかったドストエフスキーのカラマーゾフ兄弟でも本当に面白がって読む。祖母は、国語の先生で、趣味で短歌の歌集を作っていたり紙芝居なんかも作っていた。そういえば晩年は小説を書いていた。
そんな人たちのDNAが、ほんの少しでも私の中にあるのではないか。私の中には、文章を書く能力が眠っているのではないか。もし私の中に文章を書く能力があるのならば、早急に目覚めて欲しい。
私は今、ライティング・ゼミの課題提出に追われている。
もっと良い文章が書けるようになって褒められたい。雑誌とかに掲載されて、凄いねって言ってもらいたい。自分の本が出版されたら本当に最高だと思う。
今日は月曜日、時刻は23時ちょうど。また提出がギリギリになってしまった。
提出しなかったからといって、誰かに怒られる訳ではない。でも、ライティング・ゼミの課題提出から逃げ出してしまっては、今までの自分に逆戻りだ。ギリギリになっても毎週出し続けよう。
天狼院書店のライティング・ゼミがラストチャンスだと思っている。
絶対に逃げ出さない。
文章を書いて、また褒められるようになるために、書き続けよう。
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