メディアグランプリ

顔になりたかった絵


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:服部動生(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
※このお話はフィクションです。
 
はぁ、僕はどうしてこうブサイクなんだろう。
幼稚園の壁に貼られた絵は思いました。
せっかくならもっと上手に書いてくれればいいのに。
周りには友達や家族を描いた絵が並んでいます。
絵は自分でも、自分がなんの絵なのかわかりませんでした。
周りの絵は何も言いませんが、なんだか笑われているような気がしてくるのです。
そうだ、僕は顔の絵になろう。かっこいいお兄さんの絵になってやるぞ。
 
「はーい、集まって」
先生が声をかけて、皆がお遊戯をしている間にえい! っと向きを変えました。
どうかな、こっちの線が眉毛で、こっちのぐるぐるがほっぺに見えないかな?
けど、みんなが帰る時間になっても、誰も気付いてくれません。
やっぱり顔には見えないんだ。
 
次の日、お絵かきの時間がありました。
「今日はお母さんの絵を描いてみようね。早く終わっちゃったら、お父さんを描いて待っててね」
先生が言うと、皆クレヨンをもって楽しそうに画用紙に色を塗っています。
 
お? あっちのおさげの女の子、もう終わったみたいだ。よし!
絵は思いっきり力を入れました。すると、画びょうが取れて、女の子の前にヒラヒラ落ちていきました。
女の子は新しい紙が来たと思って、よくわからずにクレヨンで塗っていきます。
黒いクレヨンでグルグルと黒い丸を書いてくれました。
 
「あら、あぶない、あぶない」
絵は先生にすぐ見つかって、壁に貼り直されてしまいました。
これで、なんだか目みたいな模様がついたぞ。
でも、また顔には見えません。
よし、次は鼻を描いてもらうぞ。
 
次のお絵かきの時間も、えいっと壁から落ちました。今度はおかっぱ頭の男の子が拾ってくれました。
先生に見つかる前に早く!
男の子は赤いクレヨンで何本か線を引きました。
先生に見つかって、またすぐに壁に貼りなおされてしまいます。
この前女の子が書いてくれた黒丸の下で、二本の線がぶつかっています。
うん、鼻に見えなくもないね!
 
絵はだんだんと嬉しくなってきました。もし自分が完成したら、どんな顔になるんだろう。皆が帰った後の真っ暗な幼稚園で一人考えて笑っています。絵は一人でも寂しくありませんでした。だって、次のお絵かきの時間が楽しみでしょうがなかったからです。
 
次のお絵かきの時間、やっぱり絵は早く終わった子のところにひらひら落ちていきました。
さあ描いて描いて、白い歯がキラっと光るかっこいい口がいいな。
けれどその子は茶色いクレヨンをもって、口を描いて欲しかったところをぐしゃぐしゃに塗りつぶしてしまいました。
なんだか地面を書いているみたいです。
 
「ああ、またこの絵が落っこちてる」
今度もすぐに先生に見つかって壁に戻されます。
ひどい、これじゃますます顔に見えないや。
絵は泣きました。余計なことをしなければよかった。そうすれば、まだ下手な絵で済んだのに。もっと訳が分からなくなって、これじゃあ絵の具をこぼしたのと同じだと思いました。
 
けれど、それを見ている坊主頭の男の子がいました。
あ、君は!
その男の子は、壁の絵を最初に描いた子でした。
君がもっと上手ければ!
男の子は先生を呼んで来て、絵を外してくれるように頼んでいます。
男の子は絵をクルっと丸めて、カバンの中に入れました。
どうなるんだろう。もう捨てられるのかな。
絵はかっこいい顔になることもできず、ただ泣いていました。
 
「ターちゃん、迎えに来たわよ」
「おかあさーん。あのね、僕、絵描いたんだよ」
「どれどれ?」
男の子は丸めた絵を広げて、お母さんに見せました。
「良く描けてるじゃない。すごいわ」
「そう?でも先生や友達はあんまり褒めてくれなかったよ」
「いいのよ、人や動物さんが描いてあるよりか、なんだかわかんないけど、この絵はとっても面白いわ」
「ほんと?!」
「本当よ、はなまるあげちゃうわ」
「やったぁ!」
どうして僕は褒められてるんだろう。こんなぐちゃぐちゃなのに。
男の子はお母さんの自転車の後ろに座って帰りました。そのとき、男の子はもう一度絵を広げて小声で言いました。
 
「やったよ、お母さん笑ってくれたよ」
そうか、人の顔じゃなくても、僕は人を笑顔にできる絵なんだ。
絵は初めて、自分が絵でよかったと、ほんの少し思えました。
 
「額縁なんて大げさじゃないか」
お父さんが言います。
「いいじゃない、ターちゃんの最初の絵だもの」
 
 
 
 
***
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2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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