非リア充の救いは漢文にあり!!
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記事:鈴木亮介(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ああー、くっそムカつく!!」
8月の仙台の七夕のとき、電車はお祭り帰りのカップルでいっぱいだった。
浴衣をまとった少し上目づかいの女の子と茶髪に染めたイケてる男のペアが電車にあふれていたのだ。
当時、僕は彼女もいない浪人生で、そんなリア充たちに電車の隅に追いやられて、ひっそり英単語帳をめくっていた。
その構図だけで、もう既に卑屈な気分だ。
そのとき予備校では難しめの模試ラッシュで、解けないイライラが溜まっている中、祭りムードでイチャイチャしたリア充に囲まれるというダブルパンチである。
この世には神も仏もいないのか。
そんな悪態つきまくりで、何とかやり過ごした七夕だった。
しかし、浪人生は再度同じ経験しなければならない。
そう、クリスマスだ!
クリスマスも同じように、聖夜を過ごすリア充たちに電車で囲まれる。
12月末の受験生は、ただでさえ入試が近くてピリピリして、頭がイッちゃいそうになっている。
それに加えて七夕のようなリア充パンチを受けたら、イライラが爆発して発狂するのは目に見えていた。
クリスマス前にそんな激しい不安を抱きながら、センター試験の過去問演習をやっていたら、僕はある真理を見つけてしまった。
それはまさに、地獄の淵で見えたかすかな光だった。
その真理を見出したきっかけは、2014年のセンター試験の漢文の文章だ。
この漢文の話を、僕なりの解釈を交えながら、ストーリーを要約すると以下のようになる。
むか~しむかし、中国に江南という村があり、たいそう良いタケノコが採れることで有名であった。毎年、旬の季節になると村人たちはせっせとタケノコを掘っていた。当然、甘くておいしいタケノコが好まれ、苦くて不味いタケノコは嫌われてしまう。そのため、甘いタケノコは村人に重宝され、苦いタケノコは見向きもされず取り残されたままになった。
ここまでは、至極当たり前の話だ。
しかし、タケノコの視点から見ると、この状況は一変する。
甘いタケノコは、自分が美味しくて人間にとって価値があるからこそ無残にも刈り取られてしまう。一方、苦いタケノコは自分が不味くて人間にとって魅力がないからこそ、傷つけられずに天寿を全うできる。
そう考えると、甘いタケノコは自身の魅力ゆえに自らを傷つけているようなもので、苦いタケノコは自身が「持たざる」からこそ幸福を得られるのだ。
この文章を読み終えた刹那、僕はその真理を導き出した。
この「苦いタケノコ」理論を人間に応用すると、こうなる。
カッコいい男子や可愛い女子は小学生のときからチヤホヤされて、思春期になるとさらにモテまくるから、「モテる」ことで承認欲求を満たされて、より一層「イケてる感じ」を出したくなる。その結果、男子は毎朝ヘアアイロンで前髪を整えることに精を出して、女子はスカートをまくってどんどん短くすることに躍起になる。
いつしか不良グループに入って、そのグループ内で付き合い始めて、さらにグレる。
そうやって、思春期のダークサイドにゆっくりと堕ちていく。
そう、甘いタケノコが自分の魅力ゆえに自らを滅ぼすように。
ふんっ、『耳をすませば』みたいな、美男美女が付き合い出して、ともに夢に向かって歩き出す的なストーリーは現実にはねえんだよ!!
現実は、イケメンと美女ほど、中学でチャラつきだして、オシャレや恋愛に溺れるんだ。
ひっひっひ。
あー、そういえば小学校で一番かわいかったあの子は中学生になって急にチャラつきだして、不良の男子と付き合ってたなー。そしてこの前、電車で久しぶり会ったとき、めちゃくちゃケバくなってたなー。
一方で、甘酸っぱい青春とは無縁だった非リア充たちは、恋愛に消化できないエネルギーを、勉強と部活につぎ込んで、世間的にまっとうな中高時代を過ごすことができる。
「イケてない」からこそ、オシャレにも気を遣わず、異性の目も気にせず、グレることもない。
そうだ!! 僕らは苦いタケノコなのだ!!
むしろ、「持たざる」ことに誇りと感謝の念を持つべきなのだ!!
漢文の最後はこの言葉で締めくくられている。
「これは荘子の『無用の用』、つまり無価値に見えるものこそ実は重要な役割を果たしている、という格言の良い例ではなかろうか」
うん! 中国の古代思想家である荘子様が言っているのだ!! これは間違いない!!
よし、来たるクリスマスでカップルに囲まれたら、こう心の中でつぶやいてやろう。
ふん、いいだろう。どうせ僕は恋愛市場では、さえない浪人生で服もダサいし、全く需要がないゴミくずですよー。
でも、恋愛になんか時間使わずに浪人時代を受験勉強にささげられるんだ。
そう考えたら、クリスマスで恋人とイチャイチャ過ごすより、よっぽど人生有意義ではないか!! 幸福ではないか!! 勝ち組ではないか!!
くっくっくっく、ひゃっはっはっはっはっはっはっは!!!!!
こうして、クリスマスを迎えた。
クリスマスの夜、僕は意気揚々と予備校を出た。
案の定、予備校から駅に向かう道で、カップルらしき男女を複数見かけた。
そのとき僕は、漢文から得た知恵ゆえに、優越感と啓蒙欲を抱いていた。
山奥にこもって悟りを開き、再び山を下りてきた説教者のような心情だ。
君らは何を浮かれているんだい? 「苦いタケノコ」を知らないのかい?
僕が教えてさしあげようか??
だが電車に乗ったとき、七夕で味わった衝撃が再び僕を襲った。
白いモコモコしたマフラーをした女の子とベージュのダッフルコートを着たオシャレな感じのイケメン。
もう、絵に描いたようなリア充だった。
それに対して、ジャージ姿のみすぼらしい僕。
ぬあああああああああああ!!!!!
嫉妬と羞恥心で気が狂いそうになった。
僕は気が狂って、凶暴な虎にでもなってしまいそうだった。
そう、「苦いタケノコ」理論はもろくも崩れ去った。
結局、頭の中でこしらえた理論は、リアル世界の視覚刺激には勝てなかったのだ。
中国の古代思想に威を借りた独りよがりな理論に陶酔し、それにすがりつこうとした自分が情けなくなった。
「持たざるから幸せ」なんてただの屁理屈で、現実世界では全く役に立たないのだ。
詐欺に引っ掛かって、自分は騙されていたと気づいた瞬間のような、自業自得で行き場のないやるせなさを感じていた。
ストレス溜まって狂いそうなときに、ふっと、とてつもなく素晴らしい考えにたどり着くことが僕にはよくある。
なんだ、僕は天才か? 、と。
でも、それは自分が都合よく捉えているだけで、実際には全くの錯誤に過ぎないことがほとんどだ。
精神状態が最悪なときに、キラキラして見える考えに良いものなんてない。
いやー、気をつけよう、気をつけよう。
以上
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