親のふり見て我がふり直せ―男と女のミスコミュニケーション―
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:YUKA(ライティング・ゼミ平日コース)
「私も欲しい」
実家に帰って家族で夕食を食べていた時のこと。その日は久しぶりに帰った娘である私のリクエストでしゃぶしゃぶを食べていた。
つけダレは二種類。オーソドックスなポン酢とゴマダレだった。
冒頭のセリフは、母親が、父親がポン酢を自分の取り皿に分けているタイミングで言った言葉だった。
しかし、父親はそれが自分に向けられた言葉だと思わなかったのか、ポン酢のふたをパチンと閉め、母親の手の届かないところに置いた。
「欲しいって言ってるのに何でくれないの?」
母は明らかに怒っている。
「え? ポン酢のことだったの? 主語がないからわからなかったよ」
ときょとんとする父。
「ポン酢使ってるときに言ってるんだからポン酢に決まってるじゃない! もう!」
一気に険悪なムードになる我が家の食卓。
く、くだらない。
客観的に見れば、本当にくだらない喧嘩だが、その二人の会話の伝わらなさを見て私は面白いなーと思った。
ちなみに、うちの両親は仲がいいと思う。60歳を過ぎて、子どもたちも独立し、二人で旅行をしたり、ディズニーランドに遊びに行ったりしている。
そんな、40年近く連れ添った夫婦でも、ちょっと言葉足らずなだけでこんな喧嘩になるのだ。
それを客観的に見ている娘の私からすれば、母はちゃんと主語を入れて言えばよかったのだし、父は、「気づかなくてごめんね」とか、最初の時点で「何が欲しいの?」ときくとかすればなんにも喧嘩になることではない。
「お母さん、お父さんは別に意地悪しようと思ったわけではないんだからさー、単に意味通じてなかったんだって。そんなに怒らないであげてよ」
と私が父に助け舟を出す。すると父も
「そうだよー! お父さんが意地悪なんてするわけないじゃないか。いつもやさしいよなー」
と自分を援護する。
それをきいて、怒っていた母も思わずふふふ……と笑い出した。娘のナイスアシストで仲直りした二人である。
そんな二人のやり取りを見て、どんな親しき中でも「わかって」「察してよ」では伝わらないんだなと思った。でも、親しいからこそそのように考えてしまう部分もある。
特に、男性と女性では脳みその作りが違うというし、思考の仕方が違うと言われている。それなのに言葉で説明せずして「わかって」「察して」は無理な話なのかもしれない。
とまあ、目の前で行われる人のコミュニケーションを見れば、「あー、すれ違ってるな」「もっとこう言ったらいいのに」と客観的に気付くことができる。
だがしかし、自分のこととなるとどうだろう?
接する男性の(特に親しい関係であればあるほど)言動にモヤモヤして、なんでわかってくれないの? ふつうわかるでしょ、察してよと思ってしまう。
数日後、丁度仕事の研修でとある大学教授の話を聞く機会があった。そこで、その教授は人間の発達の専門家として脳のお話をされていたのだが、余談として男女の思考の違いによる奥様とのすれ違いを話されていた。
その教授の話によると、女性の方が男性よりも脳の「共感」に関わる部分が物理的に大きいということだった。
物理的に大きいのだから脳の仕組み的にも女性の方が共感しやすいのは当たり前で、同じレベルを男性に求めることは難しいことなのかもしれない。
自然と共感できてしまう女性は「言わなくてもわかるでしょ、共感できるでしょ」と思って自分の感覚で伝えようとする。
対する男性は「ちゃんとわかるように言ってくれないとわからないよ。正解は何? 超難問クイズかよ」と感じているらしい。
男性は別に女性に意地悪しようとは思っていないし、ちゃんとわかりやすく言ってくれたら叶えてあげたい、女性に喜んで欲しいと思っているのだ。
そういう違いがあるのだから、前提を「ミスコミュニケーションは起こるのが当たり前である」として、我々女性も、男性に「ふつうわかるでしょ?」とは思わず、どういう言い方をしたらわかりやすいのか? 伝わらないときは何が伝わっていないのか? といろいろ試してみて情報を集める実験、くらいの気持ちで接していくと、コミュニケーションをとっていくことがもっと楽しくなるのかもしれないな、と思った。
自身の体験の中で主観的に物事を見ているときはなかなかそれに気付けないものだけど……本当にちょっとしたことですれ違う両親の姿を見て、そんなことに気付いたのだった。
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