私の働き方バイブル。出会ってしまった1冊の本
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記事:かまち幸子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「ちょっと待ってください! 話が違います!」
その辞令は突然だった。
いや、途中まで決まっていた辞令が直前で変更になったのだ。
京都支社で働いていた私は、大阪支社への転勤を命じられた。それも西日本最大規模の大阪支社だ。
しかも、正式に「今回の君の異動はない」と告げられていた後の出来事だった。
大阪支社と言えば、全国で一番評判の良くない支社だった。
知り合いの本社メンバーからは、クレームが多い、問い合わせが多い、行きたくない支社NO1だと聞いていた。そんな場所に異動になった私。しかも初めての異動。受けるしかなかった……
4月1日、着任。
まずは自分の席を探す。京都支社とは桁違いに広いオフィス。人の数も3倍以上いる。
自分の新しい上司だと思われる人物に声をかけるも、彼も着任したばかりで私の座席は知らないと言う。
同僚に聞いてみると、段ボールが置かれた席を指さし、「あっち」と言われる。
そこは、後から付け足されたような机で、同僚との物理的距離がある「離れ小島」だった。
この時点で、大阪支社のメンバーが「新しいものを受け入れない性質」ということを理解した。
それでも私は、早く仕事を覚えようと離れ小島から本土へ話しかけに行く。
本土ではみんな忙しそうにしており、一番年下である私の話は聞こうともしない。
「自分で考えて」と先輩らしい言葉を突き返されるも、先輩の頭の中にある完成イメージを共有してくれないので、いくら私が想像してやったとしても結果に×が出るのだ。そんな日々を繰り返していた。
また、自分が一番嫌だったことがある。
大阪支社では、残業と休日出勤が当たり前の文化があった。みんな夜遅くまで働いている。
「今日残業しておくか、日曜日に出社するか、どっちにしよう……」
私には理解できない相談を先輩たちがしている。
しかし私はもっと驚いた。
月曜日の朝、パソコンを開くと、休日出勤中に送信した先輩からのメールがあった。
「〇〇の件、送ります。ご確認ください」
……嘘でしょ?
その内容は、緊急性も低い、重要性も低い、やってもやらなくてもいいような内容だった。
彼らは平気でそれを「仕事」と呼び、貴重な時間を費やしていたのだ。
何かがおかしい。
何かが足りない。
何かを変えたい。
私は離れ小島から飛び出し、駆け込み寺という名の本屋に助けを求めにいった。
そこで出会ってしまった1冊の本。
タイトルが、もう、答えだった。
私は、長くなった通勤時間に何度もそれを読んだ。毎日読んだ。
退屈で仕方なかった電車の中で、ニヤニヤが止まらなかった。
本土の出来事が、ちょっとだけ抽象化されて書いてあるこの本に、共感が止まらなかった。
そして私が大阪支社に呼ばれた意味を考え、この本とともに行動することを決意した!
それは先輩と2人で残業していた時のこと。
「自分で考えて」と言ったあの先輩だ。
終日会議と打ち合わせが続き、私は仕方なく残業をしないといけなかった。
夜8時を過ぎ、先輩がパソコンとにらめっこしながら固まっている。
困り果てた先輩は、私のところにやってきて「エクセルの関数がうまく使えない」と相談してきた。
どうやらエクセルに自信がなくて、しばらく悩んでいたそうだ。
エクセルは事務職の最大の武器みたいなもので、私にも苦い思い出があり、悔しさからパソコン教室に通い続けた過去がある。だから先輩が躓いた部分がよくわかるため、そのノウハウを伝授した。
その日をきっかけに、先輩と話をする機会が増え、他のメンバーともお互いの仕事を見せ合う日々が始まった。そこで分かったことは、全体で見た時に「やっていることがダブっていること」だった。
野球に例えて言うと、ピッチャー1人に対してキャッチャーが2人、でもファーストはいないようなものだ。こんな野球チームでは、いくらピッチャーが優秀であっても試合には負けるだろう。
キャッチャーは1人に任せて、もう1人はファーストを守れるようにやることを変えなければいけない。
私は自らファーストに立候補した。
また同じことを繰り返す仕事(定型業務)には、時間をかけない工夫も必要だ。
これまた野球に例えると、筋トレをするシーン。
各自がいろんなやり方で毎日筋トレをしているのであれば、いっそチームに1台筋トレ用マシンを買ってしまえばいい。すると全員が効率的にトレーニングをできる。実際の仕事ではマシンは買えないが、知恵のある人がフォーマットを作って、誰がやっても同じものが簡単に作れる仕組みを作ってしまえばいいのだ。
そうして、1冊の本を握りしめながら、息継ぎなしに走ってきた。
気付けば大阪支社勤務も2年半が経った。
今では休日出勤している同僚はいない。残業をしているメンバーもほとんどいない。
離れ小島という席はなくなり、私は本土に移動した。日本地図でいうと京都あたりに座っている。
私の働き方バイブル、
今でも何度も読み返す。
私の背中を押してくれた、この1冊。
『生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』
著者:伊賀泰代
発行所:ダイヤモンド社
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