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チーム天狼院

誰か私の隣の非常識なマッチョを黙らせてくれ《川代ノート》


 

 

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記事:川代紗生(天狼院スタッフ)

 

 

非常識である。

非常に、非常識である。

何が非常識って、隣のマッチョの上腕二頭筋である。

 

いやー、この1年で運動不足がたたって、ついに自宅にいるのに飛行機に12時間乗ったあとみたいに身体がガチガチになってしまった。足のむくみがひどく、ストレッチしてもなかなか治らない。どんどん身体が衰弱していくような恐怖を感じた私は今年、ついに近所のジムに通うことにした。

そのジムはいわゆるヨガとかエアロビとかを真剣にやっているようなところではなくて、最低限のマシンと運動スペースが用意されたシンプルな設備だった。私にとってはそのほうが都合がよかった。爽やかでにこやかで健康的なトレーナーさんにあれこれと指導してもらうような至れり尽くせりの場所では、自分の壊滅的な運動神経があまりに情けなくなって、とてもじゃないが通い続けられないだろうと思ったからだ(もちろんこういう状況なのでなるべく人と接したくないというのもあった)。

 

だから、誰とも話す必要がなく、誰もおしゃべりなんぞせず、きちんと人数制限されており、距離を保ちながらそれぞれ黙々と身体を鍛えている、そんなストイックなジムを探した。そして、ちょうどいいところが通いやすい場所に見つかった。

入会時、ジムのお姉さんに説明を受ける。ジムでのおしゃべりは禁止です。マスクは絶対に外さないように。トレーニングが終わったら必ず消毒すること。トレーナーに用がある場合は受付で予約してください。ルールを破ったら即退会もありますので。おお、いいじゃない、いいじゃない。そうだよこれだよこれ、こういうの。誰も周りのことを気にしない、お互いがお互いのモブになり合う、あくまでも通りすがりのジム会員AとBであって、ジム仲間をつくってわいわいしたりとかそういうのは絶対なし。そういうのを求めてたんだよ!

 

……とまあ、お姉さんの説明に安心して入会を決め、ひとりで行って誰とも話さず目すら合わせずまっすぐにエアロバイクと筋トレだけして帰る、というルーティンができて数ヶ月。身体を動かすというのはこんなにも爽快なことだったのかといまさらながら(アラサーになったからこそ?)気がつき、徐々に運動が楽しくなってきた……わけ、だが。

なんだけどさ。

このまま順調にいくはずだった私の肉体改造計画が、いま、ここで終わりを告げようとしている。

 

マッチョである。

非常識な筋肉を持ったゴリゴリのマッチョがいるのである。

いや、いるのであるどころじゃないよ。

いるっていうかもう、ほとんど全員マッチョなのである……!

 

いや、「ストイックなジムがいい」という希望で選んだのは私だ。でもこれは盲点でしたよ。なんですれ違う人揃いも揃ってみんな信じられないレベルのマッチョなのよ……!

 

私がよく行く早朝の時間帯には、多くてだいたい4、5人程度しかいないのだが、かなりの確率で非常識レベルのマッチョなのだ。村上春樹の小説『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる笠原メイになぞらえて松竹梅でマッチョ度を測定するとするなら(めちゃくちゃ面白いので気になる人はぜひ読んでください)、「松」マッチョが3人、「竹」マッチョが2人といったところだろうか。日や時間帯によって、スーパー「松」レベルのマッチョがいたりすることもあるのだが、常識的な筋肉を持つ「梅」レベルはかなり少ない。私と同年代くらいの女性もたまーにいたりするのだが、まあ限られている。だいたいはかなりやりこんで肩幅がジョジョみたいに広く、分厚い胸筋を見事にまとった、お前それ荒木飛呂彦が作画したんかよとつっこみたくなるような男性マッチョたちだ。

 

で、ですね。それはいいんですよ。若干肩身が狭いくらいでべつに迷惑行為をしているわけじゃないし、むしろこちらも励まされるというか、「私もいつかあんな筋肉を……!」と思ったりもするわけですよ。ストイックに毎日身体を鍛える姿勢に刺激を受けたりもするわけですよ。

 

けどさ、けどさ、きみたちマッチョ同士で無言で張り合うのはやめてくれんか!!!

と思うわけですよ! わたしゃ、あなたがたの筋肉から発せられるオーラと威圧感だけで押し潰されそうだよ。

 

というのもですね、いや、聞いてくださいよ、私はよく背筋や胸筋を鍛えるマシンを使っているのだが、トレーニングの途中、マッチョの圧を感じることがあるのだ。

 

具体的な並び順はあんまり覚えてないけど、背筋鍛えるやつ・胸筋鍛えるやつ・腹背筋鍛えるやつといろいろ器具がジムのスペースのなかに並んでるとしますよね。で、私がはじっこのほうで地味にふんふんと筋トレしてるときにもさ、ちらっと視界に「松」マッチョの筋肉が見え隠れするんですよ。もりっとした上腕二頭筋やらふくらはぎやらが見えちゃうわけですよ!

 

で、そういうチラリズムマッチョ配置になってもただ黙々と筋トレを続けられるケースもある。それはまだいいほうだ。が、困るのはマッチョが唸り声を上げ始めたときなのだ。

 

「うっふうー。おあっ。おあーっし」などと、重りを上げるのに合わせて(マシンを動かすのに合わせて)ひとりのマッチョが言い出したらもう勝負のゴングが鳴ったも同然である。どういう理屈なのかはわからないが、気がつかないうちにどこからともなく別のマッチョも「うんっああー。うぉえーし。ああーっし」と返事を返し始める。はい、こうきたらもうマッチョ同士のコール&レスポンスは誰にも止められません。

 

私はまだ常識的な筋肉の持ち主なので(マイナスの意味で非常識な筋肉かもしれんが)、そんなにハードなトレーニングに挑戦できないから、長年鍛え続けているマッチョたちの気持ちを慮ることはできない。だから、その場で起きていることを描写するしかできないのだが、とにかくマシンを動かすときの「うああーっし」がどこからともなくはじまったらあとはどんどん連鎖していってしまうのである。まさにマッチョの輪唱がごとく、はじめはスペースの隅っこでだけ行われていたコール&レスポンスは、気がつけばジム全体へと広がっていってしまうのだ。

 

「うああーっし」「おあーっし」「うっぬううう」「ぬおおおおっ」「ぬっ……はあ」「うああーっし」「ふんっ」「おあーっし」「ぬっ!!」「うああーっし」「ぬあっ!!」

 

……とまあ、気にしないようにしようと思ってもそれでもなお耳の隙間から滑り込むように「うああーっし」はやってくる。なぜ。なんでだよ。めちゃくちゃ小さい囁き声っていうか、ほとんど吐息レベルの音量のはずなのになんでこうも気になるんだよこの筋トレの声ってやつは!! え? 私が気にしすぎなんか? もうそうなると私もどうしたらいいかとんと検討がつきません。知らない者同士であるはずの人たちの無言の圧力がこれほどに緊張感に満ちたものだとは。「おああーっし」がはじまるとジムはピリッとしたムードに満ち始め、そこはかとない戦いの雰囲気が宿りはじめる。大丈夫かこれ。私ここにいて大丈夫かこれ! だんだん不安で落ち着かなくなってくる私。これ私いていいですか?「うああーっし」は私も言ったほうがいい感じですか? とついぞいちばん近くの「松」に聞きそうになったがあまりに真剣な顔で筋トレしていたので断念した。

 

もうすごいときなんて、そのマッチョの輪唱がなぜか上の階にまで連鎖してるもん。私の通うジムには階段があって、その階ごとにマシンの種類が分かれているのだが、なぜか「うあああえええーっし」がうっすらと上の階から聞こえてくるのである。えええ! いやあなた別のリングのはずでしょうが! と心の中のツッコミが止まらない。しかもちょっとずつ張り合ってくるんだよね。最初のほうは「おっ……し」くらいなのにさ、だんだん下の階との連携がとれてくるのかわかんないけど

 

「うっし」(下の階)

「ぬおっ……」(上の階)

「うああーっし」(下の階)

「ふんっ……おおっ……」(上の階)

「うえあああーっし」(下の階)

「ふんっ……うっぬ……!」(上の階)

「ふおおおーーっし」(下の階)

「うぬおお……っっっああっしゃあっ、うえあああーーっし」(上の階)

 

いやいやいやええええ!? 上の人大丈夫!? 血管破けるんじゃないの? 上の階で何が起きてるの? あなた本当にジムで鍛えてるだけなんだよね? 得体の知れない生物と戦ってるわけじゃないんだよね? と心配になってくるしさ、もう自分の筋トレどころじゃなかったわ。とほほ。

 

というわけで、筋トレに通い始めて数ヶ月。私の身体にはいまだこれといった変化は起きておらず、最近は忙しくなってきたこともあって、しばらくお休みしている。峰不二子のように非常識な二次元ボディを手に入れられる日はまだまだ遠い。

 

けれど、それでも大の運動音痴だった私が少しずつ運動好きになってきて、ジムに行けなくても家でちょっとだけ筋トレしようとか、体を動かすことを楽しめるようになったのは、なんだかんだそういったマッチョたちの戦いを見たからだろう。っていうかそうだね。最初はびびってたけどだんだん慣れてきて、だんだん「松」「竹」「梅」どんなマッチョがいるかな……。とワクワクしながらジムに向かい、まずはマッチョたちの名残を探すのが習慣になっちゃってたし。マシンに設定されたおもりの数字をチェックし、「おおっ、155キロ……!? さっきまでここには相当なマッチョがいたに違いない……」と、なかやまきんに君よろしくマッチョ探偵ごっこをするのもこれまた楽しい。ストイックに自分の体を鍛える姿はやっぱりかっこいいし。

いつか私も非常識に美しい11字腹筋をぶちかましてコール&レスポンスのプレッシャーにも耐えられるようになりたいものだ。

 

 

 

 


❏プロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)

ライター。 天狼院書店スタッフ。ライティング・ゼミ講師。東京都生まれ・早稲田大学卒。WEB記事「親にまったく反抗したことのない私が、22歳で反抗期になって学んだこと」(累計35万PV)等、2014年からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。レシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。天狼院書店で働く傍ら、ライターとしても活動中。

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