チーム天狼院

「座右の銘はなんですか?」に答えられなくて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:鳥井春菜(チーム天狼院)

 

 

「座右の銘」という言葉が、なんとなく苦手だった。

 

初めて真剣に考えたのは、たぶん就職活動のときだ。採用面接で「あなたの座右の銘はなんですか?」というのがよくある質問の一つだと知って、その答えを考えてみたのだけど、これが本当に思い浮かばない。

 

「七転び八起き」「失敗は成功のもと」「初心忘るべからず」などなど……

座右の銘としてよく挙げられる言葉は、ネット検索すれば簡単に出てくる。だけど、オーソドックスな言葉を選ぶのも面白くないし、第一全然しっくりこない。それぞれいいことを言っているのに、なぜか「座右の銘」という枠組みに当てはめられると、なにやらわざとらしく優等生っぽくなってしまうのも残念な気がする。

 

そういうわけで、色々考えるうちに、私は「座右の銘」という言葉そのものがなんだか苦手になってしまった。全然もしっくりくるものが見つからないし、そもそもなぜ、全員が持っている前提で聞いてくるのだろう? と苛立ちすら覚え始めて、しまいには「なに? 座右の銘ってないとだめなの?」 と誰にともなく反抗的な気持ちに。

 

ただ幸いなことに、結局、就職活動中にその質問をぶつけられることもなく、私はそのまま「座右の銘」問題を忘れていった。

 

そんな私が、ここ最近、「あれ?」と思っている。

もしかして、これって、座右の銘ってやつじゃない……? そんな言葉に出会ったからだ。

 

きっかけは、大学時代の先生と再会したこと。当時所属していた研究室の先生で、生徒の間違った答えも「なるほどですねぇ」と否定せずにやんわり正解を教えてくれるスタイルの授業がツボだった。お久しぶりです、と挨拶をして、仕事は頑張っていますか? なんて近況の話を振ってもらう。ちょうど、なかなか上手くいかないなぁと思い悩んでいるときだったので、いやぁ……と歯切れの悪い返事になってしまったのだけど、そのとき、

「いやいや、そんなこと言って、また虎視眈々と、でしょう?」

 

茶化すように言って、先生は笑った。当の私は、本当にこのままでいいのかしら? 私はどうしたらいいのだろう? と迷走中だったので、先生の言葉にまたも歯切れ悪く返事をしながら、内心「先生には私のことがどんな人間に映っているんだ?」とギャップを感じていた。

 

だけども、その後、その言葉が、なぜだかふいに頭によぎるのだ。お風呂から上がって髪を乾かしているとき、職場まで歩いているとき。日常の中のなんの変哲もない瞬間に、そういえば、あんなこと言われたなぁ、と思い出すのである。

 

虎視眈々。
意味は、虎が獲物を狙うような鋭い目つきでチャンスがないか常に様子を窺っていること。

 

私の大学時代を知る先生には、そういう風に見えてるらしい。だけど実際、今の私はどうだ。まず、自信がない。どこに進みたいのかわからず、悩むことが常態化してきて、前向きな気持ちが萎んできているのではないか。

 

虎視眈々。
もしかして、そういう姿勢こそ、自分に足りていないんじゃないか……? すぐに完璧にならなくてもいいし、自信がなくてもいい。だけど、ダメはダメなりに、姿勢を低くして、目だけは外さずにある時チャンスを掻っ攫う気持ちだけでも持つべきなんじゃないか。快晴の前向きさじゃなくても、じっとりと粘り強い信念で。

 

虎視眈々。
そう言われて、すぐにはピンとこなかったけれど、後々じわじわとその意味が私の中で広がってしっくりと馴染んでいく。何より、自分自身が「そうでありたい」と思うようになっていた。しばらくこの言葉を携えて歩きたい、そう思った。

 

こうして、私は自分だけの「座右の銘」に出会った。しっくりくる言葉が見つかると、「座右の銘」という言葉の存在意義もおのずと分かるようになった。

 

そもそも「座右の銘」というのは、昔の皇帝が自分の座っている場所の右側に、先人の教えとなるような言葉を石などに彫って置いていた、という話からきているらしい。自身の右側というのは、信頼している者へ預ける場所のようで、そこに自分の指針とする言葉を置くことで、難しい判断にも迷わず、精神的に支えられていたのかもしれない。

 

そんな風に、「座右の銘」というのは、その人の内部に深く入り込んで力を与え続けてくれる言葉なのだ。普段からこういうことを意識しています、というような単純な努力目標ではなく、迷ったときや挫けそうなときに思い出してグッと踏ん張れたり、自分を奮い立たせたりすることができる言葉。つまり、自分の弱い部分を補ってくれる言葉なのだと思う。

 

私はこれまで、「虎視眈々」という言葉にはむしろマイナスのイメージを持っていた。「静かにじっとチャンスを狙っている」という意味から派生して、「ずる賢さ」「粘着質さ」「陰湿さ」などものじめっとした印象を持っていただから。

でも、そこがいいと思えるようになった。ずる賢くても、溌剌としてなくても、そんな状況でもあきらめずになんとかチャンスを掴もうという姿勢は、とてもリアルで、一見マイナスに思えても実は強く尊いものだと思うようになったからだ。そんな風に感じるようになったのは、社会という場に出て、私自身の考え方、生き方が変わってきたからかもしれない。

 

要するに、人生の「酸い」の部分を多少なりとも味わわなければ本来の意味での「座右の銘」には出会えないのかもしれない。「座右の銘」は急拵えで見つけてくる言葉ではなく、自分の心の弱い部分を、誰かが「でもさ、こういう風に考えてみなよ」とそっと埋めてくれた言葉なのだ。

 

「座右の銘」は、なくても全然生きていけるが、あると案外頼もしい。
あなたも、必要なときに必要な言葉に出会えますように。

 

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