【笑いは、暴力だ!】人を笑わせることって、むずかしい。《三宅のはんなり京だより》
笑いって、暴力だ。
先日、友達が主宰するコント演劇を観てきた。「ゴリラが殺害される」という場面から始まり、名探偵やら刑事やらが出てきて、舞台はお屋敷から宇宙まで移り変わる、ハイテンションギャグコメディーだった。設定の奇想天外さだけじゃなくて、ギャグや構成がいちいち洗練されてて、ものすごーーく面白かった。
もともと漫才やコントを見ても人より笑えず、「今のってどういうギャグだったの……?」とか聞いてしまうタイプの私にとって、50分間笑い続けるという状況自体がすごいと思った。
そこから「笑いって何なんだろう」なんてことを考えたのだけど、
結局、「笑いは暴力だ!」という結論に達した。
私は「笑い」ってのは、背景知識を作者と受け手が共有しているとこに、作者がその知識にひねりを加え、受け手がそのひねりをほどいて初めて成立するものだと思っている。
例えば、
『「No Smoking」を「横綱ではない」と訳した妹。家族は惜しみない賞賛を送った。妹は激怒した。』
という話がある。私はこの話にクスッと笑ってしまったのだけど、
この話は、「横綱」が「sumou」の「king」ってことを知ってないと笑えない。
その「横綱」が何なのかっていう知識を、作者も受け手も持ってて、かつそれに作者がひねりを加えてストーリーにして、受け手もそのひねりをほどく形で「ああ、なるほど」と思って、笑う、に至る。
星新一や、『聖☆おにいさん』の作者はこのひねり方の天才だ!と思う。
『鴨川ホルモー』は京大生になってから読んだほうが笑えたのも、この理屈なんだろう。
だけど、「クスッ」じゃなくて、発作的に「ぶはっ」と爆笑するときは、その「ほどく」スピードが反射レベルで速い。暴力を受けて、痛い!と思うスピードと一緒だ。
これまで演劇だけじゃなくてたくさんの本や漫画や映画に笑わせてもらったけれど、
『銀河ヒッチハイク・ガイド』『もものかんづめ』『ラヂオの時間』『ホーム・アローン』『サマータイムマシン・ブルース』……「興味深い」なんて面白さじゃなくて、もう、発作として勝手に笑ってしまうくらい面白かった。
勢いに任せて、ごんごんごんごん笑わせてくる。こっちも「なんだそりゃーーー」って言いながら引き込まれてしまう。
そのとき、受け手は笑おうと思って笑ってるわけじゃない。でも、笑ってしまう。
作者は受け手の気持ちなんか無視して笑わせにかかる。
これって結局、受け手の気持ちを無視して殴ってくる「暴力」と一緒だ。
ほんとの暴力は痛いから嫌がられ、笑いは痛くないしむしろ快感だから好まれているだけで。
相手が殴って反射的に痛いと思うことと、相手が表現して反射的に笑うことって、構造として同じなんだなぁと私は思う。
たとえば暴力を喧嘩に使う子どもたちは、にらめっこで喧嘩することもできると思う。
にらめっこは「普段あんな顔の子がこんな顔してる!」という笑いを起こすけれど、
にらめっこで負けた方が痛い思いをさせられるというルールがあったら、絶対笑わないようにしようって思う。でもいつかどちらかは笑ってしまう。
笑いが喧嘩の武器に使われる日は来るのだろうか。ヤンキーさんがにらめっこで笑わせ合ってるとか素敵だと思うのだけど、どうだろう。
何となーく、世の中で、映画や小説で「笑えるもの」より「泣ける感動するもの」が多かったり、「笑える話」より「真面目な話」の方がえらい、みたいな雰囲気がある。
だけど「笑わせる」ってのは、他人のことを100%考えないとできないむずかしーーい作業で。
知識をひけらかすのは自分が持ってるものを表現するだけだし、共感させるのは他人の感情を表現するだけ。
もちろんそれらもものすごく難しいと思うけど、笑わせるには、他人の知識量を知って、それにひねりを加えるという二重の手間がいる。成功させるのは、圧倒的に難しい。
それに何といっても、受け手が笑ってくれないと、結果はゼロ。「面白かった」なんて言葉じゃ足りない。「笑い」っていう発作がいる。
そのシビアさもまた、難しさの理由の一つだ。
そんなわけで「笑い」ってすごくすごく難しいし、もっと世の中で「笑い」が評価されたらいいと思う。もっとみんな「笑い」を愛そう!と思う。
糸井重里さんが「なにかにつけて、「ユーモア」というものが、大事だなぁと思うんだよねー。」と言っていたのに共感する。
誰かを貶めて笑うとかそんなんじゃなくて、誰かに寄り添った上で面白いと思わせる「笑い」ってものすごいから。
人を笑わせられるってすごい。人を笑わせるのって難しい。
笑いは暴力だ、なんて言ったけれど、暴力は喧嘩が強くないと成功しないのに対して、笑いは笑わせる技術がうまくないと成功しない。
ギャグもツッコミもうまくない私は、ひたすらに面白い友人たちを見て「ちくしょーいいなー」なんて思いながら、笑って彼らに屈服するしかないのである。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をして頂くだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。イベントの参加申し込みもこちらが便利です。