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すべての夫はATMである?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:かもめ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「風俗もダメなんですか?」
真面目そうな七三分けの相談者が不満そうな顔をした。
「妻から性交拒否されているのに、風俗もダメなら、男はどうすればいいんですか!」
妻への怒りを、目の前の弁護士にぶつけてくる。
 
日本人は、欧米に比べ、格段にセックスレスの夫婦が多い。
某統計によると、半数以上の夫婦が最近1年以内に性交渉がないという。
原因としては、仕事で疲れているから、出産後なんとなく、というものが多い。
なんとなく頻度が減り、マンネリ化も手伝って、間が空くと再開するハードルが上がってしまうというのが実情なのだろう。
双方ともにやる気がなければよいが、一方のみ、欲求不満となっている場合は、浮気のリスクが上がる。特に男性は風俗通いが始まることが多い。
浮気が発覚すれば家庭不和、最悪の場合、離婚にも繋がりかねない。
 
私は、弁護士として、数多くの離婚事件を手がけてきた。
セックスレスに悩む男性の相談者から、妻が性交拒否しているから離婚できますよね、と聞かれることがある。しかし、性交拒否したからといって、直ちに離婚ができるというわけではない。
裁判で離婚が認められるためには、性交拒否が原因となって夫婦関係が破綻し、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると認められるような場合でなければならない。性交拒否は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」という要件を判断するための、一つの事情になることはあっても、それだけで直ちに離婚事由になることはないのだ。
やはりセックスレスは、夫婦の問題として、互いに向き合って解決していくしかない。向き合うことを放棄して、安易に、パートナー以外の異性と性交した場合は、妻から三行半を突きつけられ、さらに、慰謝料を請求されるリスクがある。
 
出産後、セックスレスになってしまうケースは多い。妻が心身不調になったり、育児に追われ、それどころではなくなるからであろう。
男は、種付けを終えたら用無しなのか?
カマキリの場合、交尾した後、メスがオスを食べてしまい、出産に備えて栄養を蓄えるという話は有名である。
人間の場合、さすがに共食いはない。命まで取られることはないのだ。
 
大丈夫! 夫にはATMという役割がある。
 
結婚した後、妻が夫の給与口座を管理していることがある。妻が生活費を把握し、夫には毎月定額の小遣いを渡すというシステムだ。夫が管理するよりも、夫婦円満に繋がりやすいようだ。
女性は、安定を好む生き物。定期的な収入を自分で把握できると安心する。
逆に、夫が口座を管理して、妻に一定額の生活費を渡すやり方はお勧めしない。臨時の出費が必要となった場合、妻はいちいち夫に許可を求めなければならなくなるし、生活費が足りなくなると、夫から無駄遣いするなと文句を言われる。夫が、誰のおかげで生活できていると思っているんだ、などと言おうものなら、妻の不満は地下のマグマのように蓄積していく。
夫は、ATMに徹する方がよいのだ。
 
「先生! 男性はそんなに悲しい生き物なんですか?」「男って不利ですよね」
七三分けの相談者は不満そうである。
 
いえいえ、そんなことはない。
 
例えば、イクメンという方法もある。
仮に、妻の両親が手伝ってくれるとしても、子育てを任せっきりにするのは良くない。できるだけ多く参加すべきである。仕事に専念できる、などと喜んでいる場合ではない。気がついたらATMの役割だけになってしまうリスクがある。
仕事を削ってでも育児に参加すれば、妻も負担が軽くなって喜ぶし、夫も、子どもと関わる幸せを感じることができるはずだ。
 
それに、男性は力持ちである。重い物を持ってあげることもできる。
最近、草食系男子が流行っているが、やはり、男は強くなければならない。
筋トレをしてお嬢様抱っこができればなお良い。
 
「なんか、便利屋みたいですね」「私だって、夜泣きする子どものために、ミルクを作ってあげたりするし、ゴミ出しだってしますよ」
七三分けの男は、ムキになって反論する。
 
甘いな。だから三行半を突きつけられるんだよ。
私は内心つぶやいた。相談料をもらってお説教をするほど野暮ではない。
じゃあ、奥さんはあなたの何倍ミルクを作ったと思う? あなたがゴミ出しする前に、ゴミを選別し、ゴミ袋に入れ、ゴミ袋を買ってきてストックしておいたのは誰なのか?
 
妻や子のために、ATMとなって金銭を供給し、イクメンとして子育てに参加したり、重い荷物があれば作業員として嫌な顔一つせずに運んであげる。
それが夫というものではないか。それだけの大役を与えられて、なぜ、不満なのか。
それで、妻が1週間に1回、いや、1ヶ月に1回だけでも、笑顔を見せてくれればそれでよいではないか。性交渉を望むのなら、さらなる努力が必要なのは言うまでもない。
私は、自分自身に言い聞かせるように、力説した。
 
 
 
 
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2019-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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