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メディアグランプリ

ある日「私の脳はゆで卵になった」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:天草野黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日のことだった。
 
「あ、私の脳がゆで卵になった」
 
そう、まさにそんな感覚だった。
あの時、私の頭に浮かんだ言葉だ。
 
それは、久しぶりに本でも読んでみようかな……
と買っていた小説を1ページ読み始めた時。
 
「あれ? 読めない。なんだか頭に入ってこない」
 
気がつけば30分くらい1ページ目を開いたままだった。
次のページをめくれないでいる。
 
いつもはスラスラと脳に染み込んでいく文字。
その文字が風景にかわって、心は物語の中に入って行く。
それなのに……今日は文字が記号のままなのだ。
 
おかしい。なんだか、私はおかしい。
異変に気がついた瞬間だった。
 
というのも、小さい頃から本が大好きだった。
学校の行きも帰りも、片道5キロを歩きながら本を読んで通学していた。
本に囲まれていたくて、学生時代は図書館司書の資格も取得した。
 
それくらい本が好き。
もちろん、大人になってもそれは変わらなかった。
 
そんな私が、本を読めなくなった。
 
少し前から、頭にも身体にも鉛がつまったような感覚があった。
しかし、毎日におわれていて見ないふりをしていのだ。
私は藁をもつかむ思いで、病院にいってみた。
 
うつ病だった。
 
病気になった理由も思い当たる。
その頃、両親が共に入院していたのだ。
片道田舎まで3時間を休日には通う。
 
突然の呼び出しに、夜中往復して1,2時間ほど仮眠して出勤。
当時は責任ある仕事をしていたので、休めないと思い込んでいた。
そんな生活をおくっていた。
 
夜は、疲れているから早く眠ろうと思っても眠れない。
 
「夕べ、話しかけたら3分もせずに寝てたよ」
友人にそんな驚きの言葉をもらうほど快眠だった私。
そんな私が、眠れなくなっていたのだ。
 
全てがおかしくなっていた。
ミスが増え、いつもは何でもない事に時間がかかる。
1つのファイルをさがすのに1時間かかったりしていたのだ。
自然と残業も増えて、できない自分がますます嫌いになる。
 
ああ、病気だったのだ。
怠け者になったからじゃなかった。
病気なのに、どこか少しほっとする自分もいた。
 
うつ病だと認識して、会社をお休みした。
久しぶりに時間に追われない休日。
逆に不安がおしよせる。
 
何をしていいかがわからない。
お腹も空かない。
 
ああ、でもこれじゃきっと良くならない。
出来る事を探した。
 
最初は、朝日を強制的に浴びるためにカーテンをあけて眠ることにした。
午前中時間がかかっても、味噌汁を作って飲む事。
夜、決まった時間にお風呂にはいること。
 
少しずつトンネルの中の真っ暗な闇に光がさす。
心が闇から灰色になり、少しずつ青空が見えてくる。
 
薬のおかげもあって、少しずつ体も心も楽になってきた。
数週間たって、仕事にも復帰できた。
 
しかし、本はまだ読めるようにならなかった。
実は本を読む事は予想以上に集中力が必要なのだ。
 
本を読みたい!
でも読めない。
 
そんな時に代わりになってくれたのがカメラだった。
 
読書は長い時間、集中力の持続が必要となる。
その点カメラは一瞬の集中だ。
 
パシャッとシャッターを切る。
自分の感動した世界が、1枚の写真の中に一瞬で納まる。
 
思った以上にいい絵が撮れた瞬間。
「あ! その写真いいね」
そんな言葉をもらうと、うれしさ倍増だ。
 
部屋に飾る、何気ない花。
ウォーキングで歩く、四季折々の風景の変化。
本と同じで物語を感じる。
 
固まってしまった脳が、少しずつほぐれていく気分だった。
 
もうひとつ本の代わりになってくれたのが映画だ。
映画も読書より集中力を使わない。
 
私の頭の代わりを、巨大スクリーンがはたしてくれるのだ。
そして、笑う事は病気にはいいらしい。
できるだけ笑いが盛り込まれた映画に通った。
そして、他の人と笑いを共有する。
 
うん、いい感じ。
 
時には思いっきり感動的な映画を見て涙を流す。
心の曇りを洗い落してくれるようだった。
 
ああ、映画っていいな。
読書の時間を映画に費やすようになった。
 
あれから10年以上経過した。
おかげで本もやっと、かなり時間をかけて読めるようにはなってきた。
 
それでも、ゆで卵のように固まってしまった脳は以前とは違う感覚だ。
 
その代り、好きな物が増えた。
カメラ、映画。
病気の休暇の頃、時間を費やして作った料理。
 
「人間万事塞翁が馬」という諺がある。
病気になったことを完全に「良かった」とは言い切れない。
けれど、写真も映画もこれほど好きにならなかったかもしれない。
 
ゆで卵になった私の脳。
卵かけごはんの生卵のように、主役級の使い方はきっとできない。
しかし、固まってしまった脳はきっと別の使い方があるのかもしれない。
 
出来ない事は、別の道を見つけるきっかけにもなる。
 
例えば、ゆで卵を使って作る、ミモザサラダのように。
使い方しだいで、美しい彩りにもなれるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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