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記事:堀井キミカ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「自分の戦時の服を脱ぎ、自分の昔着ていた服を着た。
窓に近づき髪を直し、鏡に向かって化粧をした。
門を出て戦友に会うと、戦友はみな仰天した。
12年間いっしょにいたが、木蘭が女だとは知らなかったのである」
(「漢詩 ムーランの詩」http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/choes/etc/kansi/mulan.html (2019年11月1日閲覧)より)
 
1998年に公開され、アニメーション界のアカデミー賞とも言われるアニー賞を受賞した「ムーラン」は、来年2020年にその実写版が公開予定のため、その名を聞いた人も多いだろう。
日本での知名度はかなり低いが、アメリカでは続編も公開されるほどの人気っぷりで、よく「観たら意外と面白かった」と言われるような映画である。
 
ムーランの物語は、中国の民間伝承を基につくられており、その原作から考慮すると時代は南北朝時代、およそ4世紀末から6世紀末の中国。
主人公のムーランは、着飾ったりなんかするより、馬に乗って草原を駆け回る方が好きで、少しドジな一面もあるが、知恵と勇気に溢れており、足を負傷している自分の父にも従軍招集が下されたのを受け、老いた父に代わって戦争に赴き、やがて国の侵略を目論むフン族を打ち倒して皇帝から宝物を下賜された後、帰郷する、というストーリーだ。
 
あらすじからも分かる通り、父親思いで優しく、芯の強さに裏打ちされた行動力に溢れるムーラン。
彼女は王族の出自ではなく、また、最終的に恋仲になった従軍先のシャン隊長も、軍人であって王子様などではないが、意外にもムーランは8人目のディズニープリンセスと数えられている。
白雪姫やシンデレラといった、王族出身者や王家に嫁いだ女性たちが列挙されている中、ムーランだけは公式において未だに類を見ない特例として、ディズニープリンセスとしてカウントされている、少し珍しいプリンセスである。
 
私にとって、この「ムーラン」は最も好きな映画の一つである。
実写版が来年公開されるとのことで、みなさんにも予習がてら、映画や彼女の魅力を知ってもらえたらと思う。
 
言うまでもないが、面白くなかったり人気がなかったりしたら続編なんて誰もつくらないし、わざわざ22年越しに実写映画化なんてしない。
続編があるものは、必ず「成功した作品」なのだから、みなさんと一緒に来年公開の実写版「ムーラン」を是非とも楽しみ待ちたいと願うばかりである。
 
さて、何かを好きでいるということは、他のものには無い特別な魅力があるということだ。
それに注目すると、彼女には頼れる「魔法」というものが一切ない。
魔法が無いから、頼れるのは自分しかいない、という「強さ」と「現実味」がある。
 
「待て待て、夢と魔法の王国の作品なんだろう……?」
「一応、プリンセスだったんじゃ……」
 
と思われるかもしれないが、事実なのである。
 
一つずつ解説してゆこう。
 
まずは現実味に関して。
魔法が無いのだから、言うまでもないが、これはただただ映画と現実世界が同じような条件であるということである。
一回死んでも見知らぬ男のキス一つで生き返ったり、呪いを解いてくれる魔法使いもいない。
一人の少しドジな人間が、戦争のために己を鍛え上げ、国を救ったというストーリーだ。
現実でも十分ありえる。
 
ムーランが体力などに自信をつけた後、一直線で体術の会得が出来たようには、なかなか現実では難しいにしても、このサクセスストーリーは誰にでも起こり得る。
なぜならこの映画は魔法が一切存在しない世界だから、ムーランも私たちも同じスタートラインなのである。
そのため、観ている私たちが、ムーランに自分自身を重ねて映画を楽しむことが出来る。
それは、「あなた」でも十分ありえる話なのだ。
もう王子様に見初められるなんて空虚なことを望まなくて良い。
 
また、強さに関していえば、彼女は戦争の準備としての訓練に耐え忍び、実戦経験を豊富に得たため、映画の序盤よりクライマックスで、メンタルやフィジカル共に数億倍も強くなった。
こんなにも強い「プリンセス」なんてこのムーランをおいて他にいない。
しかも、他のプリンセスには必ずチラつく「魔法」という要素には一切頼らず、という特異な条件のもとにあってのこの成果である。
そのために一人で努力し、「成功は自分でつかみとる」という姿勢が、強く貫き通されている。
これが22年前に公開された映画なのかというほど、自立した女性の姿が、そこには描かれている。
 
ムーランを好んで観ているから、たまに他のプリンセスものを目にしても「よくこんな魔法が溢れた説得力の無い幸せに感動出来ていたものだ……」と性格悪いような感想が湧いてきてしまうほどだ。
 
何度でも強調したいのだが、この作品はディズニープリンセスものであるにもかかわらず、とても現実的で、自分の力で成功を収めるといった非常に三次元的な人間の少女が主人公なのである。
だから15作品弱もあるディズニープリンセスの映画の中でも、シンデレラ、美女と野獣、アラジンと次いで、ムーランが実写化に選ばれたのも、昨今の社会のニーズにぴったりマッチしたからではないだろうか。
 
努力、努力のプリンセス。
しかし、そこには強さだけではない、心から父を想う優しさからくる「けなげさ」をどうしても感じてしまう。
映画が終わっても王家との結びつきが一切なかった彼女が「プリンセス」と言われる所以は、きっとここに由来すると思うのだ。
 
戦争へ駆り出されることになった老病の父の身代わりに、男でも音を上げる訓練に一人、女性であることがバレないよう入隊し、始めは周りに馴染めずいじめられながらも耐え抜き、女性ゆえの体力の無さから一度は除隊されかけるも、意地と知恵でのし上がり、機転を利かせて勇敢に敵と対峙、最後には中国全土を救った一人の少女。
 
皇帝からも褒美を賜り、誰にも告げずに家を飛び出してから、はや幾月。
おずおずと帰郷したムーランを、名誉を重んじる父は果たしてどのように迎え入れたのだろうか……?
 
それは1998年版のアニメ「ムーラン」を観てからのお楽しみ。
この感動は、ガラスの靴がシンデレラの足にピッタリ合った時と同じくらいの感動だと思っている。
ハンカチをお忘れなく!
 
また、次の実写版「ムーラン」は筋書きがアニメ版と大分異なっているらしいのだが、どんな自立したカッコイイ女性像が描かれるのだろうか?
 
それは私も含めて、全員、2020年公開までのお楽しみ。
 
22年前、私たちを奮い立たせるには十分過ぎるほど、勇敢で自立した、カッコイイ姿を魅せてくれたムーラン。
今度は、どんな姿で私たちの前を先導してくれるのだろうか。
 
早く、もう一度彼女に会いたいものである。
 
 
 
 

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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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