メディアグランプリ

言葉の応酬を映像で観た衝撃は、考えている以上のものだった


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記事:河瀬佳代子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「何故あなたなんかと出会ってしまったんだ」
 
夫婦の会話。
それは、夫婦関係が続く限り、ある。日常に絶え間なく発生している。
それを敢えて文章に書き出してみたらどうなるのか。恐らくは膨大な文字数になるはずだ。しかも大抵の会話は脈絡がないはずなので、もしそれらの文を読み返したら、
 
「あれ? なんで自分はこんなこと言ったんだろう」
 
というセリフの1つ2つが見つかる確率は高い。
 
自分は年に100本以上映画館で映画を観ているが、毎年観客として参加している東京国際映画祭で、『マリッジ・ストーリー』という作品を観た。その中で、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーが扮する、ニコールとチャーリーの夫婦が激しく口論するシーンがあった。
 
最初は穏やかに話しましょうと、ゆるりと始まったはずの話し合いは、徐々に相手の欠点や自分の不満に移っていく。そして最高にヒートアップしたところで、冒頭のセリフが出た。結婚生活を根底から覆すセリフだ。映画のはずなのに、まるで彼らが本当に言い争いをしているのではないかと思うくらい、その会話はナチュラルに流れていた。
 
この映画に限らず、恐ろしいのは、勢いに任せて無意識に発した言葉は、意図のあるなしに関わらずそこにしっかりと存在してしまうことだ。例えば、
 
「何故あなたなんかと出会ってしまったんだ」
 
というワードを、軽いつぶやきくらいの感覚で発してしまったとしても、それを受けた相手は非常に重く受け止めるということがあるかもしれないということだ。
 
何故あなたと出会ってしまったのか。
どのようにでも受け取れる文面ではある。肯定的にも、否定的にも。
肯定的に「あなたと出会ったからこうして今の自分がある、感謝している」という意味なら良いのだが、逆に「あなたと出会ったがためにこうして苦境に立たされている、迷惑だ」と受け取ったら、両者の関係は最悪のものになってしまう。
 
この場合は当然ながら、「あなたと出会わなければよかったのに」というニュアンスを含んでいる。互いに存在を否定している言葉を、感情に任せて投げつけているところを、私たちはあまり見る機会はないのが普通だろう。しかしながらこうして改めて見せつけられると、言葉の応酬が如何に強烈であり、胸に残ってしまうものなのかがわかる。
 
昔から、言葉には魂が宿っていると言われている。では、近くて遠慮のない間柄で激しい言葉が行き交ってしまったらどうなるか。
 
夫婦のように、日常でお互いを知り尽くしている関係だと、その応酬は更に過激になっていく。それはまるでジャングルのゲリラ戦のようだ。常に相手の近くにいる分、相手のいいところも欠点もよく知ることになる。そんな相手と口論になって、予想もしなかった強い言葉が出てきたとき、それがわざとではなかったとしても、よく知っている相手からの的確な攻撃だけに、深く傷つくことになる。
 
それを映像で見事に表現していたのが、『マリッジ・ストーリー』だった。ニコールとチャーリーは、何の迷いもなく相手を攻撃していた。「我を忘れて」と言った方がいい。映像を観ていると、あたかも観客側の、自分たちの会話のような錯覚すら感じるくらい、これでもかと互いに傷つけていた。
 
「あなたはあの時、〜〜だった。私が〜〜したのが間違いだった」
 
そんな言葉が飛び交う。でも、それは全て終わってしまったことなのだ。
 
過去のことがあって、今がある。今が嫌であれば、それは過去の積み重ねだ。
私たちが相手を攻撃する瞬間は、過去に自分がどうだったかなんてことは考えもしないで平気で罵詈雑言を浴びせる。しかしそういう姿を映像で観てしまうと、まるで自分のことのようで、いたたまれなくなってしまった。
 
あなたの姿って本当はこんななんですよ! と見せつけられた時の気恥ずかしさは、頭で考えている以上のものだった。「人の振り見て我が振り直せ」と言うけど、今回この映画を観たことで、自分が予想以上にきつい言葉を相手に投げつけていたかも、とか、あの人は多分すごく傷ついたかもしれないな、と、少しでも思い返すことができたかもしれない。
 
反省します、もうこんなことはしません、と人はいくらでも口では言えるけど、では何を持ってそれを実感するかはその人次第だ。本を読んだり、意見を聞いたりすることでもいいが、視覚に訴える反省材料はかなり訴えてくるものがあった。視覚からの情報は強烈で、時に愕然とさせられるから怖い部分もあるが、映像を観ることで言葉の持つ重みに気が付けたことは大きかったように思う。
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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