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子供は最高のコミュニケーションツール

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:門田彩(ライティング・ゼミ特講)
 
 
彼らとの出会いは、住んでいるマンションの目の前の和食ダイニングだった。
当時まだ生まれて半年ほどの息子を連れて、夫婦で夕食をしていた時だ。
息子と同じくらいの女の子を連れた女性に
「お子さん、何ヶ月ですか?」
と声をかけられた。
初対面の赤ちゃん連れ同士で、このフレーズで声をかけるというコミュニケーションに、ようやく慣れてきた頃だった。
声をかけてくれたママは、大人数のグループの一人だ。
「今日は、親戚の集まりなんです。この子が0歳で、まだ遠出ができないので、ここで集まることにしたんです。実は、目の前のマンションに住んでいて」
なんと、私と同じマンションに住んでいるのだ。
さらに、住んでる階まで同じと分かると、「今度いっしょに、この店で食事をしましょう」と約束をして、連絡先を交換した。
こうして、彼女とのご近所付き合いが始まり、ファミリーでよい付き合いをさせていただいている。
私にとって、彼女は初めてできた、ご近所付き合いのできる友人だ。
 
私たち夫婦は、子供が産まれる数年前から同じエリアに住んでいた。
地域には、会えば挨拶をする程度の知り合いしかいない。
夫婦で食事をしている時に、他のテーブルのお客さんと交流するきっかけは、そうあることではない。
今では、ちょっと近所を歩いていると、たいてい知り合いに会うくらい、地域に知り合いが増えた。
知り合ったきっかけは、全て「子供がいる」ことだった。
 
近隣の保育園に生後2ヶ月で通わせ始めたので、ママ友のほとんどは保育園の知り合いだ。それに加え、頻繁に利用するスーパー、クリーニング屋さん、飲食店……と、近所で立ち寄る場所それぞれで、店員さんと顔なじみになった。
 
保育園帰りに通るカレー屋のインド人のおじさんは、店を通りかかる子供にチュッパチャプスを渡している。息子は、毎日のようにチュッパチャプスをもらっている。
私は、子供が産まれる前も、その店で食事をしたことはあったものの、数年の間で、片手で数える程度の回数だった。
カレーはとてもおいしくて、種類は豊富なので、飽きることもないので、次第に保育園帰りに食事をして帰ることが増えた。
おじさんは、息子のお気に入りのおもちゃを隠すそぶりをしてあやしてくれたり、抱きかかえてくれたりして、可愛がってくれている。
ある日、おじさんが、一枚の写真を見せてくれた。
「この子は、14歳。この子は10歳。これは奥さんね」
その写真は、そのおじさんの家族の写真だった。
「インドには年に2回くらい返る。テレビ電話で話せるから、便利だね」
と持っているスマホを指さした。
そんな交流をするうちに、そのカレー屋は、すっかり居心地のいい行きつけの店となった。
 
子供の存在の偉大さは、常々感じているが、特にその威力を、人とのコミュニケーションにおいて実感している。
コミュニティの幅を広げるだけでなく、人とのつながりを深まるきっかけも、息子は作ってくれた。
 
仕事がきっかけで知り合い、夫婦で数か月に一度食事をするような間柄だった女性は、私にとって、少し緊張する相手だった。
少し歳が上で、仕事にまっすぐなので、時に厳しいからだ。
同じくらいの時期に、お互いに子供が生まれた。
私が彼女から学ぶことばかりだったが、私の方が、少しだけママ歴が長いことで、「先輩ママ」になったのだ。
「保育園って、どうやって探したの?」
「私、もともと出不精だから、全然外に出ないんだよね。子供とどこに遊びに行ってるの?」
彼女から出てくる質問に、いくらでも答えられる。
いっしょに遊びに行くことも増え、ついに、いっしょに海外旅行に行こうという話が出るまでになった。
子供が生まれるまでは、「仕事相手」だったが、「ママ友」になったことで、彼女との距離は、ぐんと近づいた。
 
男勝りな40歳独身女子、歯に衣着せぬ物言いで、周囲との衝突も恐れない。
彼女を敵には回したくない、と誰もが思っている同僚が、子供好きであることは、息子が生まれてから初めて知った。
「新作送ってよ」
顔を合わせれば、必ずこのフレーズが出てくる。
そして、このフレーズが出てくると、どんな言い争いをした後でも、お互い笑顔になってしまうのだ。
「新作」というのは、息子の動画のことで、息子の日常をスマホで撮影した動画を心待ちにしてくれているのだ。
彼女は残業中に、息子の動画を見て、リフレッシュしているらしい。
彼女のそんなかわいらしい一面を見れたことがうれしくてたまらない。
 
すっかり息子は、私のコミュニケーションツールとして活用されているわけなのだ。
息子は、おそらく一般的な二歳児よりは、たくさんの大人と接触しているだけあり、人見知りも、場所見知りも、ほとんどしない。
息子は、時々思い出したように、私の知り合いの名前を出し、「今なにしてるかな?」と言う。
そんな時は、その人に、「今息子が、『なにしてるかな』と言ってたよ」と連絡をしている。
誰もが、そのことを喜んでくれるからだ。
 
子供の力は偉大だ。
この魔法の力は、いったい何歳まで有効なのだろうか。
きっと、うちの息子は永遠だ、と親ばかの私は信じている。
 
 
 
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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