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あなたの弱みは何ですか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:溝口直己(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「こ、こ、こ、こ、こんにちは!」
クスクス声があたりから聞こえる。これが起こるたびに心が締め付けられた。
「こ、こ、こ、こ、こんにちは? あはは! こんにちはも言えないのか」
真似をされるのは慣れっこ、なんて思える時は一度もなかった。
「なんでみんなみたいに話せないの?」
本当にいるのか分からない神様に、何度聞いたことか。
「なんで僕だけ言葉が出てこなくて生まれてきたの?」と母に、どこに当たっていいのか分からない感情を何度思いきりぶつけたことか。
「吃音症とは、話し言葉が滑らかに出ない発達障害なの」
小学校の時に、学校の保健の先生が教えてくれた。
頭が真っ白になり、体が宙に浮いたような、自分が自分でない何者かに乗っ取られたような感覚になった。
そして家に帰るいつもの道で声を出して、泣いた。
僕は吃音症だった。
 
保育園の時は覚えていない。記憶があるのは小学校から。
子どもは素直だ。自分と違うものにはとても敏感であり、興味が湧く。
「きゃー! 逃げろー! あいつに触られたら喋れなくなるぞ!」
たちまち僕の周りには誰もいなくなり、逃げこむように図書館へ行った。
 
今なら分かる。悪気があってからかっていないことに。
ただ純粋に面白いものに興味があっただけなのだ。
ただその当時は分からなかった。ただただ自分の人と変わった話し方を恨んだ。
 
中学校、高校、どこに行っても言葉が話せないのを笑われるのは続いた。
その時には、僕は人前で話をするのを辞めていた。
「どうしたら自分に話を振られなくてみんなの輪の中に入り、友達になったように見られるか?」
そのことだけを考えていたように思う。
僕を守ってくれたのは、唇が引きつった作られた笑顔だった。
「周りの人に合わせて、なるだけ目立たなければ生きていける」
そう思うしか、その当時は自分が生きていくのを認められるだけの材料は揃わなかった。
 
「お前いいなー! 人と違う喋り方なんて目立てるし、最強の個性やな!」
インドのガンジス川の側の、ゲストハウスに響き渡った声が僕を変えてくれた。
 
僕は大学生になり、ひとり旅に出るようになっていた。
タイやカンボジアなどの東南アジア、アメリカ本土やカナダ、そしてインドへ。
それは自分でも分からない何かから逃げるかのように、日本の外へ出て行った旅であった。
海外に行けば、自分の喋り方を気にする人なんて誰もいなかった。
それがとても嬉しくて、初めて今までの自分の人生から解放されたような気になって、たくさんの人と話し、そして仲良くなった。
カンボジアでは、現地の人に自信満々でアンコールワットまでの道を聞き、自転車で朝日の中を進んだ。
タイではその当時評判になっていたトムヤムクンのレストランに行き、意気揚々と注文し、声にならないほど美味しい料理を味わった。
 
「人生は変わった」
ひとり旅の最終日の夜に、現地の屋台でビールを飲みながらそう思った。
 
しかし日本に帰ると、また人の目を気にし、できるだけ人との違いが分からないように暮らす生活に戻った。
「人生はそう簡単には変わらない」
その事実に僕は再び心を閉ざしそうになっていた。
 
そんな時に行ったインドでの出会いが僕を変えた。
よくインドは「呼ばれた人しか行けない」とか「インドが生き方を変える」と言われることが多いと思う。
でも僕を変えてくれたのはインドで出会った日本人であった。
 
「デリー空港ぶりだな!」
お昼にガンジス川について、どこの宿に泊まろうかと考えていた矢先、溢れかえった人々の中から見知った顔が現れた。
インドの入国の際に仲良くなり、つたない英語で一緒に観光ビザを取った青年だった。
 
「面白い人がいるんだ」と言われ、半ば強引にガンジス川の端っこの、さらに日本人は通らないであろう道を通りとあるゲストハウスについた。
「海外まで来て、しかもインドで日本人と一緒にいなくていいかな」
と心の中で思いながらゲストハウスの中へ入って行った。
 
そこに僕の人生を変えてくれた彼がいた。
「サッカーボール持ってるやん!」
僕を見るなり彼は目が輝き叫んだ。インド人と仲良くなるために日本から持ってきたものだった。
「インド人とサッカーしよう」
僕とは10歳以上離れているであろう彼は、まるで少年のように嬉しそうにガンジス川へ歩いていく。
 
日が沈む頃には、40人くらいのインド人と4人の日本人が「いい試合だった。明日もサッカーしよう」と笑ってさよならしていた。
 
夜になりゲストハウスに戻り、他に行くとこもなかったので僕もそこに泊まることにした。
2階のフリースペースに行くと、彼は今日の楽しさを思い出し、味わっているこのように幸せそうな顔をしていた。その顔は今でも忘れられない。
 
「僕には吃音症という病気があります」
何故話したのかいまだに自分でもわからない。でも突然に言葉に出ていた。こんなこと生まれて初めてのことだった。
「話したいことはたくさんあるのに、言葉が口から出てきません。それで今までいじめられたり、笑われたりして人と話すのが苦手なんです。どうしたらあなたみたいに幸せそうな顔になれるんですか?」
 
すると彼は間髪入れずに目をキラキラさせながら関西弁で言った。
「お前いいなー! 人と違う喋り方なんて目立てるし、最強の個性やな!」
「人と違うということはそれだけ、長所が際立っているということ。産んでくれたとーちゃんとかーちゃんに感謝せなな!」
 
僕は言葉を失った。
そして目の前の景色がビックバンのように弾け飛び、朝日が山から登っていくように心が生き生きしていくのに気が付いた。
 
「僕はこのままでいいんだ。言葉がうまく話せないことが長所になるんだ!」
そう気づかせてもらい人生は変わった。
 
彼の目はいつまでも太陽のように輝いていた。
 
僕は今カメラマンをやっている。
今でも言葉はうまく出てこない。
でも「こ、こ、こ、、こんにちは!」で笑顔をくれる。
「あ、あ、あっちに行ってみようか」で笑って走って来てくれる。
 
その瞬間を狙えるのは僕だけだ。
 
「最大の弱みは最大の強みになる」
あなたの弱みは何ですか?
 
 
 
 

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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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