メディアグランプリ

こどもに会えない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:谷口智実(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
子供に会えない、というと、みな、どんな場面を想像するだろうか。
一時期、子供に会えない、会えないと思っていた。
子供は不登校だった。今もである。ただ、少し会えるようになった。
 
私の場合の、子供に会えない、というのは
自分の子供で、一緒にくらしているにもかかわらず、話す機会がなかった子供で、
朝もおきず、夕方はねているので、結果話せずにいる日ばかりたまった。
寝顔だけみててもしかたなくて、
週末は起きている時間にあえるのだが、
昼間になってようやく起きてくるので、こちらと勢いも気持ちもちがう。
わたしは、「ようやく起きたのか」という気持ちで、
むこうは、まだまだ起きたてで、頭も体も寝すぎのためか、ぼーっとしていた。
平日は、私は朝9時夕方5時の会社員なので、朝と夕方、夜以降にしか会えなかった。
私が見るのは、子供の寝姿くらいだった。
 
会えない、しゃべれないのがつらかった。
学校には行かない、朝は起きない、夕方も寝ている。
いろいろな不登校のパターンがあると思うが、友達との接触もとくにないので、本当に家族のなかに閉じられていた。
朝、6時半から8時まで声をかけたり体をゆさぶっても、がんこに起きなかった。
二度寝が好きだと言っていたが、目をつぶって、どれだけゆさぶらても起きないのは、
本当は起きてるのではないのか……? という気持ちがわいて、しつこくしてみたがおきなかった。
家に帰ると、夕方は寝ていることが多かった。
テーブルには食べた弁当箱や、レンチンのおかずの食べた形跡がある。
昼か午後にたべたのだろう。
夕方、食べたのなら、おなかもいっぱいで、眠れる。というわけで、また会えない。
夜自分が寝るときまで起きないことも多かった。
 
一緒に暮らしているのに、不登校の子供と暮らすのは、意識のない、入院している子供と接しているようだった。
 
医療機関などどうしても行かなくてはいけないとき、午前に起きられる保証がないので、午後に予約をいれる。
土日に行きたい遊びがあっても、本人もいいね、と言っていても、本当にいくのかどうかは、直前までわからなかった。ふいっと、やっぱり行かへん、というと、行かなかった。親が年をとって頑固になる、ってこういうかんじなのかな、と思った。わたしも親で、年をとっているのに、失礼な話だ。
土日のおでかけが、小さい子供のいる時のように、日中の3,4時間になった。
 
これだけ不満を書くことができる。
不登校になるなんて、いくら不登校の子供がふえた、ひきこもりの大人がふえた、と言っても、周りの身内は、心配になるだろうし、不安だったり怒ったりするだろうな、と思う。不満というか、私自身、病気のように、エネルギーが枯渇していた。
 
だが、こうやって不満を書いていながら、ふと気が付く。子供は中学生になっているのだ。12年は子育てをしていることになる。すると、あと8年したら成人で、10年したら、確実にどこかに行ってしまうのだ、と。
いや、このままひきこもりのニートになるかもしれないし……という危惧はおいておく。
 
具体的にどこかに行ってしまうのか、独立なのか、家にいるのかもわからないが、彼は、もう、どんどん一人で過ごす時間を増やしていくのだろう。
というと、今の状態と似ているようにも思う。
わたしは、一人でも楽しい、ということをもう一度みつける時期にきているのだ、と思う。
 
子供も働いて、一日10時間ほど仕事にとられ、趣味に時間を使うようになる。家にいる時間も減るし、子供が何をしてどのように日中をすごしているのか、本当にわからなくなることも増えるだろう。
 
その予行演習と思えばいいのか?
今、子供は家にいて、でも、意識はなくて(寝ているので)、なので、私はこどもとコミュニケーションがとれなくて、さびしかった。
せめて勉強したら……せめて●●したら……という提案もスルーされる。聞いていないのだ。
だけど、いつか、本当に、どこかに、意識も体も行ってしまうのだ。
そしたら、わたしは、こどもとどんなふうにコミュニケーションをとるのだろう?
 
何も思いつかなかった。
となれば、私と話して、楽しい、意味がある、価値がある、という私に、私がなれば、またいつか、私は子供と話せるようになるのかもしれない。
 
最近は、冬になったというのに、夕方起きている時間が増えてきた。
そうすると、少し会話ができるようになる。
本当に短いしょうもない会話だが、かえってくるのが、ありがたい。
実のない会話でも、人はすくわれるのだな、と思う。
植物でも育てたほうがいいのかもしれない。
 
不登校の子供と過ごしていて、この文章を書いていると、あらためて、自分自身が「閉じる」ボタンをおされやすい人間だったのかなと思った。
この人がいると起きていたくなっちゃうのだよね、という金曜ロードショーみたいな、人間になりたいな、と思った。
 
 
 
 
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2019-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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