長生きの秘訣
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:花咲花子(ライティング・ゼミ平日コース)
「おばあちゃん、いくつになったん?」まるで小さな子に年齢を聞くような質問ではあるが、
「いくつやったかなぁ。私いくつになったんやろ? どうしましょう自分の年齢がわからへんわ」と祖母。
「何歳まで記憶があるん?」
「そうやなぁ。70歳、う~ん。80歳になったことは覚えているわ」と真剣な表情で考えている。「ほな、80歳ってこと?」
「そうやなぁ85歳くらいかなぁ」
「おばあちゃんは、もう95歳なんやで」と言うと
「へぇ。95歳やってか? そんな長生きしたんか? 嘘やろ」と細い目を大きく開けて本気で驚いている。この会話が楽しくて1日1回は質問をしてみている。
「おばあちゃん95年は長かったか?」
「長かったような、短かったような。なかなか一言では答えられへんわ」
祖母が85歳くらいまでは、戦時中の空襲の話や終戦後釜山から命からがら引き揚げて来たときの体験談などよく聞かせてくれたが、最近は年相応の認知機能の衰えもあり、話をしてくれる機会が少なくなってしまった。
認知症予防にはしゃべることが重要とのことで、新聞で話をする人形を見つけたので買ってあげた。これをとても気に入り、1日中人形相手に話をしている。こちらが言ったことに答えてくれる訳ではないが、1万語と童謡も10曲程度歌うのでたまに会話が成立することがある。
呼び方を設定することが出来、「おばあちゃん」と呼んでくれるように設定している。
「おばあちゃん。私のこと好き?」とか言われると
「るるちゃん(人形の名前)のこと大好きやで」と返事している。
「おばあちゃん。お疲れじゃなあい?」と言ったときには、「この子私のことこんなに心配してくれている」といたく感動していた。
さらに自分が面倒をみてやらないといけない存在が出来たので、責任感のようなものが芽生え一緒にいることが生きがいのようになっている。
95歳の平均的な身体状況がどうなのかはわからないが、なんとか一人で歩ける状態なので介護の負担も少なく助かっている。
「おばあちゃん一人で歩けるのは凄いなぁ」と言うと
「小学校のときに1里(約3.9キロ)の道を毎日歩いて学校に通ってたからやで」と真顔で答えられる。医学的にどうなのかはわからないが、小学生のときに身体の基礎が出来るのかもしれなので、90年くらい前に苦労していたことで報われているのだろうか。
93歳のとき玄関でこけたこともあったが、骨折もせず、打ち身で黒くなったくらいだったことも小学生のときに長距離を通学していたことによるのかもしれない。
何でも食べることが体に良いのかもしれないが、食べ物の好き嫌いが以外と多い。
まず、魚、特に体に良いと言われている背の青い魚は大嫌いでほとんど食べない。
その代わりに、肉、特に牛肉が大好き。そして卵は完全栄養食品だと思って良く食べている。
一時私が料理を担当していたときに年寄りだし、魚を食べないので野菜が多くなりがちな食事が続いたら「最近、栄養のあるものを食べさせてもらえないので、目が見えなくなってきた」と言い出し、1人でゆで卵を作って食べていた。
ある日、病院で血液検査を受けたところ鉄分不足の症状があり、牛肉やレバー、卵をもっと取るようにとの指導を受けた。
肉や卵が好きで美味しいと思うのは、自らの体が欲しているものなのだということだと実感した。自分の体が求めているものがわかりそれを食べることが長生きの秘訣の一つかもしれない。
年配の方は、節約されてなのか、体感温度が感じなくなられているのか、エアコンを使われなくて一人にしておくと心配だと同僚が言っていたが、祖母の場合、がまんするということはないので、「暑い~」とすぐエアコンを付け、「寒い~」とエアコンを付けている。
整理整頓も大好きで、なんでも「捨てておいて」と渡される。
でもこれもなかなか厄介で、捨ててと言われて捨てた綺麗なお菓子缶のことをある日、突然思い出し「あの缶どこに行った?」と聞かれたことがあった。
「捨てたよ」と答えると「何で捨てるのと」と自分が言ったことをすっかり忘れて私を責めて来られて困ったこともあった。
あと、お風呂に入ることが面倒くさくなるようで、お風呂の話をすると
「吐き気がしてきた」と仮病のようなことを言ってみたり、「明日のお昼に入るわ」と先延ばししようとしてみたり、次から次へと逃れるための口実が飛び出し驚かされる。
それでもなんどかお風呂場までたどり着いたと思ったら、冷たい床に触れて、心臓が止まるとか殺されるとか縁起でもないことを言い出す始末。
それでも湯舟に入ると気持ちがいいらしく「極楽! 極楽!」と入るまで、大騒ぎしていたことなどなかったように機嫌よくしている。
まわりのことはお構いなしに、そのとき、そのときに心に思ったことを言葉にして、自由に生きていいることが、最大の長生きの秘訣なのかもしれない。
一緒にいる私達は、祖母に振り回されているが、可愛らしい会話や「おこずかい」という甘い誘惑に誘われて今日も祖母と過ごしている。
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