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メディアグランプリ

忘れられないお客様


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中野(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「お邪魔します」
 
丁寧に挨拶をしてお店を訪れた70代くらいのご夫婦。
 
このご夫婦との出会いが、私の人生にとって重要な意味を持つことになる。
 
あれは2011年10月のこと。
憧れのインテリアコーディネーターになるという夢を叶え、インテリアショップで働きだしてちょうど1年がたったころだった。
 
そのころの私は、研修期間を終えてようやく家具の接客に入れるようになっていた。しかしまだまだ経験は浅く、提案なんて全然できていなかった。
 
ちなみに私たちの店には「あるルール」がある。
それはお客様に失礼のないように、準備練習ができている人から順番に接客に入る「接客順位」というシステムだ。その名の通り、順位が上の1番、2番、3番という順に接客に入る。1番の人の接客が終わったら、次のお客様は1番の人がまた入るというルールだ。
 
上位の人は常に忙しいが、下位の人は中々接客するチャンスすら巡って来ない。経験を積むには順位を上げなければならず、そのためには準備練習をするしかない。
 
この時の私の接客順位は5番目。
5人中5番目。最下位だ。
 
そんな頼りない接客順位最下位の私が、このお客様の担当をすることになる。
 
その日はいつになくお店が混み合い、4番目の接客順位の人まですべて接客に入ってしまっていたので、私しか入れる人がいなかったのだ。
 
でももちろんお客様にはそんな裏の状況なんて関係ない。お店に立っている以上全員がプロだと思っている。
「お客様に失礼のないようにしよう」
そう自分に言い聞かせ、持っている知識を出し尽くし精一杯対応した。
 
そのご夫婦はとても丁寧に笑顔で話してくれて、お二人とも優しい空気をまとわれていた。
 
「家具が古くなってきたので買い替えたいと思っていたところ、チラシが入ってきたので来てみました」ということだった。ご自宅はお店から車で1時間ほどのところ。電車とタクシーを乗り継いで来てくださったそうだ。
 
わざわざ足を運んでくださったことに感謝が込み上げ、このお二人にいい家具をご紹介したいと思った。
 
私なりに色々考えて、必死におすすめの家具を紹介した。
そして30、40分ほど話をしたころ、お客様がこうおっしゃった。
 
「中野さんが紹介してくれたテーブルとソファ、買います」
 
びっくりした。普段の打ち合わせだと何度かやり取りしてからご注文をいただくケースが多かったので、何十万円もする家具をこんなにすぐ決めていいものかと不安が押し寄せてきた。
 
するとそのお客様はこう続けた。
 
「中野さんの人柄に惚れました。中野さんがいいというものなら間違いないと思います。それをください。」
 
とても嬉しかった。と同時に、半人前な私の提案で本当に大丈夫かと怖くなった。思い浮かぶ限りの注意事項を説明し、ご理解を頂いた上で販売することになったのだ。
 
お客様はとても満足した様子で帰られていった。
私も初めて自分のコーディネートでご注文をいただき、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 
そして商品が入荷後、お客様の家に家具が届けられた。ちゃんと納まるか不安だったが、届けた配送スタッフから「お客様とても喜んでくれたよ」と聞き、ホッと胸を撫で下ろした。
 
それからしばらくは何事もなく過ごしていたのだが、ある日お店に電話が掛かってきた。
 
あのお客様だった。
 
「家具の高さが合わなくて……。テーブルの脚を長くすることはできますか?」といった内容だった。
 
私は焦った。
「どうしよう。あんなに喜んでくださったのにがっかりさせてしまった」
そんなことを考えながら、急いでお客様のお家へ向かった。
 
「私の言うことを信じてくれたのに、きっと怒っているに違いない」
インターホンを押すのがとても怖かった。
 
勇気を出してお客様のお家へお邪魔すると、お二人とも変わらない笑顔で迎えてくれた。
そして家具が置いてある部屋に案内してもらったのだが、実際に使われている様子を見て私の提案が間違っていたことに気付かされた。
 
私が紹介したソファは、奥行きが深く傾斜がついているので、足の悪いお二人にはとても座りにくそうだった。そしてその角度がついた背の高いソファに座りながら、低いテーブルに載っているお茶に手を伸ばすのが大変なのだと、お使いになっている様子を見て初めて気が付いた。
 
それでもお客様は文句ひとつ言わず、背もたれにクッションを置いたり、板を使ってテーブルを高くしたりとご自身で工夫して使われていた。
 
見た瞬間、申し訳ない気持でいっぱいになった。
 
私は商品の素材の取り扱いに関する注意事項しか伝えてなかったのだ。このお二人が普段どんな風に暮らしていて、この家具をどう使いたいのかを何も聞いていなかった。
 
販売員失格だと思った。
 
テーブルの脚を伸ばすことは物理的にできなかったので、返品や交換もできるとお伝えしたのだがお客様は「できないならしょうがないです。これでも十分使えるのでこのままでいいですよ」そうおっしゃったのだ。
 
しかし、それでは申し訳なさすぎると思い、何度か交換を申し出た。
「大丈夫です。それよりこんなことで遠くまで来てもらって申し訳ないです。お仕事頑張ってね」とたくさん果物やお茶を出していただいた。
 
最後まで笑顔で優しいお二人だった。
 
その帰り道涙が止まらなかった。
心の底から申し訳ないと思った。
 
残念な思いをさせたのに何もしてあげられなかった。
怒られるかもしれないと、自分のことばかり考えていたのが本当に恥ずかしかった。
 
そしてこの日の出来事が私の接客スタイルを大きく変えることになる。
 
「お客様一人一人に寄り添った提案をする」そう決めたのだ。
 
ひとつひとつの家具は良くても、その人に合うとは限らない。その家具がお客様のお家でどう使われていくのか、暮らし方にあっているのか、先を見据えた家具選びができているか。
 
その人に合ったベストな提案をしようと心に決めた。
 
それがあのお二人に対する私のできることだと思った。
 
そしてがむしゃらにやり続けて、接客順位はいつしか1番目になっていた。
失敗することももちろんあるけれど、それ以上に沢山の感謝の言葉をいただけるようになった。
そして一番嬉しいのが「中野さんに相談に乗ってもらいたい」とお客様からの指名が増えたことだ。
 
接客に対する信念を与えてくれたあのご夫婦のことを忘れずに、これからもお客様に寄り添った提案をしていこうと思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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