『自分が何者かを説明する時に、職業や肩書は名乗らなければいけないだろうか』
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記事:高遠にけ(ライティング・ゼミ平日コース)
なぜ、人は自分を説明するときに『職業』を答えるのだろう。
私は19歳の頃、芸術系の専門学校に通っていた。
専門学校2年を迎えるころから、周りは確実に、将来の進路を決め始めていた。
みんな、将来なりたい職業があってこの専門学校に通い始めた訳であって、その職業を目指してかんばってきたのだ。
私は1人、焦っていた。
繰り返し提出を求められる進路調査票を、ずっと埋めることができずにいた。
漠然と目指したい業種はあったが、なりたい職業がなかった。
正確に言えば、やりたいことが多すぎて『何者』にもなりなくなかった。
だって、『何者』かになってしまえば、別の何者かにはなれなくなる。
例えば公務員を目指したら、サッカー選手にはなれなくなるように。
どうして1つの職業に就いたら、他の道は選択できないのだろう。
1つの職業しか選べないことが、どうしても納得がいかなかった。なぜなら私は『エンタテイメント』に携わる仕事なら、なんでもしたかったから。
「マネージャー」「カメラマン」「編集」「ライター」「ゲームクリエーター」
全部がしっくりこなかった。
私は一括りにすると『エンタテイメント』に人生を支えられてきた。
音楽や本、映画、ゲーム……。
これらがなかったら、自分は無だったと力強く言える。
特に自分を形成したものが音楽や本だった。
思春期の漠然とした不安、孤独を救ってくれた。
だからずっと、この音楽と本に携われる世界に行きたいと思っていた。
自分がプレイヤーとして音楽を弾いたり、小説を書いたりすることは想像が出来なかったから、その世界のはしっこにでも、喰らいついて生きていきたいと思っていた。
その世界に携われるのなら何者でもよかった。
卒業間近になっても、私の進路調査票は白いままだった。
先が決まらない私に、先生達は困惑していたのではないかと思う。
それから私は大勢の反対を振り切り、勢いで上京し、今に至るまで転職を6回行った。
イベント企画制作だったり、冊子の編集だったり、ゲーム運営だったり……。
現在はweb業界の仕事にたどり着いたが、想像した未来とはかけ離れた職業に就いている。
ただ、6回変化した就職先は、全てエンタテイメントに関わる仕事だった。
職業なんて何でもよかった。私の肩書も何でもよかった。
ただ昔、救われたエンタテイメントを誰かに届ける仕事がしたかった。
きっと他の誰かもまた、救われるはずだから。
一度だけ、エンタメ系の仕事に就いて無気力に襲われた出来事があった。
東日本大震災だ。
世の中は自粛ムードに溢れ、当時はコンサートやイベント等が軒並み中止となり、当時の私が所属した会社では、メルマガやSNSを配信することもしばらく禁じられた。
何も発信することもできず、何も言葉をかけることができなかった。
それでも当時エンタメ業界にいた人々は、ただやれることを粛々とやっていた。自分たちにできる限界を感じながらも、変わることなくできる範囲で、エンタメを提供した。
「いつもと変わらずコンテンツを出してくれてありがとう」
ある日、当時私が運営していたエンタメ系のwebサービスのカスタマーに、そんなメールが届いた。
意味はあったのだと思った。届いていたのだと思った。
そうしてまた、私はエンタテイメントに救われた。
今も、私は自分の職業が答えられない。
自分が何者なのか、職業や肩書で名乗ることができないでいる。
職業そのものが、自分の性格の一部みたいに捉えられそうでしっくりこない。
不真面目な性格なのに、血液型がA型であるせいで、真面目と決めつけられるように、職業で自分を説明することが全然自分に似合わない。
けれどそれで良いと思っている。
誰かが就いた型にはまった職業など必要ない。
自分でなりたい職業を作り、自分で名乗ればいいじゃないか。
なりたいものになればいい。やりたい道を進めばいい。
きっと今、就職に悩んでいる学生もたくさんいるだろう。
しがみついてでもやりたいことがあるなら、とりあえず職業なんか気にしないで突き進めばいい。
全く違う職業でも、全部がいつかなりたい自分に繋がるはずだ。
モスバーガーでアルバイトしたことも、ゲームにハマって学校をさぼったことも、なぜか関係なかったことが、今の仕事に役立っていたりする。
何者にもなれなくて肩書きもないけれど、今も進路調査票を提出したら真っ白だろうけれど。エンタメ探検家、くらいは名乗れるかもしれない。
人が作った職業になんてならなくていい。「サッカー選手」だとか「ユーチューバー」だとか、そんな立派なものでなくていい。
「人生探究家」とか「昆虫収集家」だとか、なりたいと思うその道を突き進んでいけば、そのうち答えは出てくる。
回り道でも、いつか何かの為になって返ってくるし、一歩一歩少しずつ、「何者」かになれれば、きっとそれでいい。
その道の先で誰かに少しでも喜んでもらい、喜んでもらうことで自分も元気が出る、そんな『何者』かが自分の理想なのではないかと、今はそんな風に思っている。
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