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メディアグランプリ

一人のみは瞑想


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: Todd (ライティングゼミ平日コース)
 
いつの頃からか、たまに一人で飲みに行くようになった。あまり酒が飲める方ではないので、それほど多くない。しかも飲みたいと思っても、一人で入りにくいお店も多い。年を重ねたせいかあまり気にならなくなっているとはいえ、やはり入りやすいところと入りにくいところとある。では入りやすい場所はどこか?
 
インターネットで調べてみた。一人飲みに最適っていう口コミを信じてやや大きめのダイニングバーが出てきた。さっそく入ってみた。
 
ところが、団体客が騒いでいる。二次会できたのだろうか。BGMもそんな団体客に負けじとうるさい。全く最適な店じゃない。なんとなく周りの目が気になってしまい、居心地が良くなくて落ち着かない。周りが気にしているかどうかはわからないが、一人で飲んでる寂しい中年男の絵ができてしまうので、何も注文せずとりあえず出ることにした。
 
またネットで検索してみる。
ヒットした。今度はさっきとは違いバーだ。照明が薄暗く、お店にはバーテンダーが二人。テーブルにはろうそくが置いてある。そしてバーカウンターの後ろにもろうそくがいくつかあり、本棚がある。図書館をイメージしたバーだ。メニューも英語の本に紙でメニューが貼り付けてあるものだ。
今度は良さそうだ。
先ほどの店と違い、店内はそれほど大きくなく、後ろに複数人で座れる席とあり、団体用の席はあるが個室になっているので目線が気ににならない。BGMも落ち着いた曲だ。周りには数人の客がいた。一人できている人も何人かいた。
さっそく席についた。なんとなくビールを飲む気には何となくならず、ウイスキーを頼んでみた。バーテンもただ注文を取るだけでしつこくない。自分もあまり喋る気はない。時としてただ黙って飲みたくなる時がある。今日がその時なのだ。
 
「おまたせしました」
 
バーテンが頼んだウイスキーを持ってきた。そして付け合わせのチェイサーとナッツを持ってきた。そしてバーテンダーはそっと離れて別の仕事をしていた。
 
ウイスキーを口に含んだ。喉が心地よくひりひりするシングルモルトだ。バーテンダーはいなくなり、一人の時間になった。
バーテンダーの後ろの本棚を眺めてみた。インテリア映えする本がいっぱい置いてある。その中のろうそくに目を凝らしてみた。ゆらゆら火が揺れている。
 
その火に目を凝らしてみた。周りの物音が小さくなってくる。火を見ながら物思いにふけった。
会社のこと、家のこと、浮かんでは消え浮かんでは消えていく。結論は出ない。
 
また別のことを考える。やはり浮かんでは消える。
会社の嫌な上司の顔が浮かんだ。そして彼に言われた嫌なことも浮かんだ。しかしそれもまた消えていった。同僚に言われた嫌味が浮かんだ、今度はちょっと長い。いろんな事例を思い出しそれに対して頭の中で反論している。
 
「あなたに何がわかるんだ」
「あなたには関係なんだろう」
 
頭の中にいる、その同僚の偶像に向かって一生懸命反撃している。
またろうそくを見て、ウイスキーを口に含んだ。
するとまた消えていった。
気がつくと多くのことを思い浮かべて、時にはそれに対して反撃して、消えていったことに気づいた。
 
今度は何が頭にいるのか? 何もない。しばらくして、ただバーのカウンターでウイスキーを傾け本棚のろうそくを見ているだけの自分を自分の頭の上、お店の天井から見ている絵が浮かんできた。それはただ中年男が一人カウンターで酒を飲んでいる絵だ。それ以上のものはない。その自分が何を考えてウイスキーを口に含み、ゆらゆらと揺れるロウソクを見ているか?知る由もない、今自分を見ているのは自分ではない自分だから。その自分の周りにはよくみると他の客もいる。いろんなことをうるさすぎない声で話している女性2人組、男と女の二人組、同じように一人カウンターに座っている人、一人はバーテンダーと談笑し、もう一人は自分と同じく、ただ静かにろうそくを見ながらグラスを傾けている。
 
意識がカウンターに座っている自分に戻った。
他の客が自分のことを気にしていただろうか? いやしていない。みな自分あるいは自分たちのことで一生懸命だ。かまっている余裕はない。
さっきの居酒屋で感じてた居心地の悪さはなんだったんだろう? 自分の気のせいなのか?
おそらくそうだったんだろう。誰も自分のことを気にしている余裕はない。物思いの前半に出てきた上司や同僚もそうなんじゃないか? 立場上、あるいは気まぐれで余計なことを言っただけで気にする必要はないんじゃないか?
そう思えてきた。
そしてまた元の自分に戻る。ウイスキーがなくなりかけていた。
 
「もう一杯いかがですか」
 
ずっと黙っていたバーテンダーが話しかけてきた。
 
「いえ、大丈夫です。お会計お願いします」
 
そう言って、会計を済ますと、店を出た。
 
自分から意識が離れたり、戻ったりするのを繰り返し、酒とろうそくの明かりも手伝って自分の中に溜まっていた物が整理されたようだ。
 
「また来よう」
 
そう思うと家路を急いだ。
 
以来、モヤモヤと思いが整理できなくなると一人静かな店で酒飲むようになった。
このように一人バーで瞑想することが習慣になった。
 
 
 
 
***
 
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2019-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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