メディアグランプリ

不思議な縁が繋ぐ人生の応援歌


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イマムラカナコ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「ちょっと、ええですか?」
そのおじさんは、私の斜め前の4人掛けのテーブルに一人で陣取っていた。
さっきから、たまに目が合うな。
目が合うたびに、何となく愛想笑いで会釈をした。
知らない顔をするのも、何だか失礼な気がして。
すると、おじさんは、何故かその度に片方の口角を上げるのだ。
 
祖父が田舎から遊びに来ていたので、せっかくだから出かけようと、地元近くの観光地まで来ていた。
名物料理を食べさせてくれる店に入って、久しぶりの再会で盛り上がっていたときだった。
そのおじさんが、話しかけてきたのは。
 
正直、しまったと思った。
おじさんは、ちょっと強面だった。
何か因縁をつけるつもりかな。
あんまり私と目が合いすぎたから、不快だったのかも。
ちょっとドキドキしながら、
「えーと、どうかされましたか?」
と尋ねてみた。
父も母も、キョトンとしていた。
二人からは、おじさんは見える位置ではなかったから、急に話しかけられて何事かと思っていたようだった。
 
「突然話しかけてすんません。さっきからご家族で話してはるのを、見せてもうてまして。なんや、仲のええご家族や思うて。私、バイクに乗って全国旅しとるんですわ。そこで、ぎょうさん友達作ってます。ここで会うたのも何かの縁。良かったら、記念に写真撮らせてもろうても構いませんか?」
そんな感じの関西弁で、おじさんは強面からは想像できない、はにかんだ笑顔を見せたのだ。
 
確かにここで会ったのも何かの縁だ。
そう思った私たちは、おじさんと笑顔で写真に収まった。
おじさんは、写真ができたら必ず送るからと、うちの住所を控えた。
家に帰ってからも、うちの家族は、今日会った一風変わったおじさんの話題で持ちきりだった。
今頃は、バイクでどのあたりを走っているのだろう。
父と同じぐらいの歳じゃないかな。
大阪まで無事に帰れますように。
今日会ったばかりなのに、何故か、おじさんのはにかんだ笑顔で心が温かくなった。
 
それからしばらく経って、おじさんは律儀にも写真を現像して送ってくれた。
私が大学生の頃だから、もう20年以上前の話だ。
今のようにスマホで写真を撮って、すぐに送れる時代ではない。
あの日の、おじさんと私たち家族が笑顔でそこにいた。
写真も嬉しかったが、私が驚いたのは、同封されていたおじさんの手紙だった。
なにしろ、赤い丸印がたくさんついているのだ。
 
おじさんが、あの日私たち家族に感じたこと。
おじさんの家族のこと。
全国で、更にたくさん友達ができたこと。
おじさんが、出会いについて思うこと。
そして、それぞれの文章の強調したいところに、全て赤い丸印が記されていたのだ。
 
こんな手紙をもらったのは、初めてだった。
おじさんの真っ直ぐな性格が伝わってくるような、とても熱のこもった手紙だった。
手紙で涙が出そうになったのは、初めてだった。
 
それから、私とおじさんの文通が始まった。
仕事の合間を見つけては、やっぱりバイクで旅をして回っていること。
ユースホステルなどに泊まって、若者と触れ合うのが楽しいこと。
奥さんとは一生大恋愛中だから、あなたもそう思える人と出会えることを願っていると真面目に書かれていたこと。
還暦を迎えたと言って、おじさんを慕う沢山の人たちとの集合写真が送られてきた。
 
節目節目で、おじさんは赤い丸印のついた激励の手紙をくれた。
大学を卒業して就職したとき。
結婚を決意したとき。
娘が生まれたとき。
私が何か報告するたびに、必ず胸を打つ熱量で返事をくれた。
 
何かあったときは、おじさんの赤い手紙を読み返していた。
そうすると、まるでおじさんが隣で話しているようだった。
実際には、一度しか会ったことのないおじさん。
思えば、おじさんの赤い丸印付きの手紙は、人生の応援歌だった。
 
人の縁とは不思議なものだ。
どんなに遠く離れていようとも、世代が違ったとしても、心が通じてさえいれば、その人のことを身近に感じることができる。
家族とは違うが、思い出すと心が温かくなる存在がいることは、得難いことだと思う。
 
「福岡の私の娘」
私のことをそう呼んでくれたおじさん。
結婚式の時、サプライズで「祝 御結婚」と刻まれたトロフィーを贈ってくれたっけ。もちろん赤い丸印の手紙付きで。
こっそり式場の担当者の方へ頼んでいたようで、全く知らなかった私は号泣してしまったけれど。
 
自分に繋がる人に全力で愛情を傾ける人。
それが、今も変わらぬ私のおじさんに対する印象だ。
その愛情が伝わって、周りの人を笑顔にできる人だ。
手紙の赤い丸印は、相手の幸せを願うおじさんの情熱だ。
 
人と人とが繋がることの醍醐味を、おじさんは応援歌付きの赤い手紙で教えてくれた。
おじさんほどの熱意や情熱は、発することができないかも知れない。
けれど、少しは人の気持ちに寄り添える人間になりたい。
些細なことで一喜一憂する私には、まだまだ修行が必要だけれど。
バトンリレーのように、私もそんな想いを繋いでいけたらと思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事