子育ての悪夢は最高の親孝行だった
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子育ての悪夢は最高の親孝行だった
記事:松本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
毎日、様々な相談を聞かせていただいている。
13年の相談業務の中でも、子育てや家族関係のお悩みはあとを絶たない。
子育ての相談でダントツに多いのが「感情をコントロールできずに子どもに当たってしまう」というものだ。
子どもの行動や言葉に感情を掻き立てられて、怒りや悲しみの感情をどうにも止められなくなる。気づいたら感情を爆発させてしまった方もきっと多いだろう。
子どもは悪魔だ。
親の負の感情を引き出す魔術を使う。
自分が長年ひた隠しにしてきた負の感情を、いとも簡単に浮上させる力を持つのだ。
理性で押さえてきた感情も、子どもたちの手にかかればコントロール不能となり、溜めてきた量と同等レベルの怒りとなって目の前の小さな子に向けられる。
そして、それをどうしてもコントロールできない自分を責めてしまうのだ。
私も感情をコントロール出来ずに悩んだ一人である。
ここで少しだけ自分の子育てのときを振り返ってみよう。
長男はひどいアトピーで生まれてきた。
そんなふうに生んでしまったのは、今までの自分の食生活などが悪かったからだ、という思い込みを自ら作り、自分を責める材料にしていた。
子どもは3歳までに一生分の親孝行をするってよくいうけど、とんでもない。
親孝行どころか、私を苦しみのどん底に突き落とすのだ。
その時は悪夢の中で苦しみを一人で抱え、誰にも助けてもらえないと思い、今振り返ると
私はノイローゼだったのだと思う。
子どもを産む前は、子どもとの生活は幸せな毎日になると思っていた。
なのになぜ子育てが悪夢になってしまうのか。
子どもとは、自分の想い通りにはならない生き物である。
赤ちゃんの時期、多くのお母さんたちは昼も夜もなく赤ちゃんに振り回される。
授乳期には、好きな時間に寝ることも許されず、好きな時間に食事をすることも許されず
トイレにも思うように行けず、風呂にもまともに入れない。
この「自分の思うように動くことができない」というストレスを、世のお父さんたちはどれだけ理解しているのだろう。
ギャーギャー泣いている子どもを前にどうしたらいいか分からなくなってしまう。そんなときに「うるさいんだよ。早く泣き止ませろよ」なんて言われたら、そこまでに築き上げてきた信頼というバッテリーがあれよあれよと減ってきて、夫に対する信頼度数は充電切れを起こすのだ。
こんなとき、この世は悪夢にしか見えない。
充電切れを起こしてしまったら、まるで抜け出せない迷路に嵌ってしまい、さまよっているような気持ちにさせられるのだ。
「自分の自由になる時間がまるっきりない」ということが、これほどのストレスになるとは!
子育ての悩みは尽きない。
沢山のお母さんたちのお話しを聞きながら、
いつも自分自身の子育ての時期の悪夢を、懐かしく思い出す。
私の目の前で悩みを語っている方たちは、私だ。
正確に言うと「過去の私」だ。
子育ての悪夢に嵌っていた20年前の私が、出口が見えない見えないと泣いているのだ。
泣いている人が「過去の私」なら、今の私は20年後の未来の私だ。
未来の私は今、苦しくて泣いている私にこう言うのだ。
「その悩みは、のちにあなたへの贈り物だったと気づけるようになるから大丈夫よ」と。
心配しなくても大丈夫。未来を信じて大丈夫。
だって私は20年後の未来を見てそう言っているから。
抜け出せない迷路に嵌って出口を見失っているとき、この世の悪夢は終わらないように感じてしまう。でも、実はずっと続くものは何一つなく、いつか終わりが来るということだ。
悪夢の子育てから20年。
今、振り返ってみると、あのときの悪夢が懐かしくて愛おしくて抱きしめたくなる。
あの悪夢を見せてくれたうちの小さな悪魔ちゃんにもう一度会いたくて仕方がない。
もしタイムマシーンがあるのなら、迷いなくあの悪夢の時代に戻ってみるだろう。
タイムマシーンで20年前のあの悪夢の時に行き、キリキリと眉間に縦じわを刻んでいる若かりし自分に「その悩みは、のちに愛と思えるようになるから大丈夫よ」と言って背中をさすってあげるのだ。
みんな頑張っているんだ。そしてあのときの私も頑張ってきたんだな……。
あの辛かった時期には、なぜ私がこんな目に合うのか、と自己否定していた。
でも、そんな体験も人生を彩るパズルのピースの一つで、いつかそのピースがぴたっと嵌ったとき、全ての繋がりが物語となるように人生は出来ている。
あの時の悪夢を体験したからこそ今の私があり、その体験からの経験が今の私の仕事にも繋がっている。
20年前の悪夢は、実は私にとって最大の親孝行だったのだ!
子どもって3歳まで一生分の親孝行をするってよくいうけれど、本当にそうだと今は思える。その時期に体験させてもらえた経験は、私に大切なパズルのピースをくれていた。
今日もいろんな相談を聞かせていただいている。
目の前の悩んでいる人は「過去の私」だ。
そして過去の私にこういうのだ。
「その悩みは、のちにあなたへの贈り物だったと気づけるようになるから大丈夫よ」と。
今日も、可愛い悪魔ちゃんの話を聞く。悪魔ちゃんから贈られたパズルのピースが数十年後に沢山の愛をもたらすことを信じて。
***
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