これからフィルムカメラを始める友人へ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:雨辻ハル(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
「今見ているこの景色をフィルムに残したい」
外を見ているとこう思うことが多くなった。歩いている時、車に乗っている時、部屋から外を見つめている時。カメラを始める前だったら絶対に思わなかったことを、最近思うようになってきた。
Twitterやインスタで見ていた写真家さんたちが、カメラを始めるとなんでもない日常が楽しくなると言っていた意味がようやく分かってきた。確かに写真を撮るようになってから日常の見方が変わったような気がする。
影、水溜り、木漏れ日、アスファルトの模様、空に浮かんでいる雲、鉄塔などなど。私の周りに存在している全てのものが輝いて見えるようになった。カメラを始める前までは気付くことのなかったものが、カメラを始めたことによってそれらの存在感が増してきているように感じる。世界はこんなにも素晴らしいもので溢れているんだなと感じることができるようになったのは、フィルムカメラのおかげだと思っている。
フィルムカメラとの出会いは今から1年前。たまたま訪れた朝市でフィルムカメラが売られていたのを見つけた。もともとフィルム写真の柔らかい雰囲気が好きだったということもあり、フィルムカメラがずっと欲しいと思っていた。興味津々に売られているカメラをじっと見ていると、店主のおじさんが、このカメラだったら状態も良いからフィルムさえあればすぐ写真が撮れるよと言ってくれた。そのカメラが、僕のフィルム人生で最初に手に入れたフィルムカメラ、MINOLTAのフィルムカメラだった。
パッと見たときの安っぽさはどうしても否めないが、これにしようと決めた。どこかおもちゃのように感じられるボディ。どこへでも持ち運ぶことができるくらいの軽さ。チープさのあるシャッター音。このカメラの至るところに心が惹かれるものを感じたからだ。
1番はじめに買うカメラは、値段や機能よりも、持ち運びたいと思うかどうかで選べという言葉を思い出した。まさにこのMINOLTAのカメラは私にとって、持ち運びたくなるカメラだったのだ。
この日から私のフィルムカメラ人生がスタートした。
まるで恋人のように遊びに出かける時は毎回持っていっていた。その時に見つけた風景だったり、友達の表情だったり、何枚も何枚もフィルムにおさめていった。どんなに些細なことでも自分の感情が動いたら、すぐにカメラを構えてシャッターを切った。
この瞬間を逃してしまったらもう同じ瞬間は2度とやってこない。そう思いながら自分の思い出を忘れないように写真を撮り続けた。この1年で撮った写真を見ると、そのときの記憶が蘇ってくる。何年経ったときに見返しても、同じように記憶が蘇るだろう。
この人生を歩み始めて、フィルムカメラはエッセイだと思うようになった。
エッセイは何気ない日常に目を向け、それを切り取って作品にしていく。楽しかったこと、綺麗だなもの、怒り、悲しみなど、日常で心を動かされたことを書いていく。また日常にあった出来事、上司に怒られたこと、周りにいる面白い人のこと、綺麗だと思った情景など、何を書いてもいいのだ。
フィルムカメラも同じようなものだと思う。撮影するものに決まりはない。題材は自由だ。
心を動かされた情景、友達と遊んだこと、雑踏、落ちているゴミ、夏の入道雲、夕焼けなど、フィルムに写してしまえばそれが作品になる。
なんでもない日常が楽しくなるという理由はここにあると思う。日常の切り取り方次第で、なんでもないものを特別な作品にすることができるのだ。自分が生きているこの世界はこんなにも美しいものなんだということを、自分にも周りにも伝えることができる。
しかし、どんなに周りに題材があるといっても、アンテナを張っていないと気付くことができない。いつも焦っていては周りにあるいいことを見逃してしまう。心のゆとりを忘れないことが大切なのだ。たまには違う道を使って帰るくらいの余裕を持つことが大事だと思う。
私はカメラを始めて、下ばかり向いているのではなく、顔を上げることが多くなっていた。上を見る余裕ができたのだと思う。今まではどこか俯きがちで下ばかり見ていたが、それじゃもったいないと思えるようになった。
そう思えるようになったことで、空を見る回数が多くなった。昼は入道雲の荒々しさ、夜は星々の煌めき。今まで下を向いて歩いていたときには気付くことのなかった空の美しさに目を奪われるようになった。カメラを始めていなかったら、興味すら持っていなかったと思う。毎回見せる顔が違うのもまた楽しかったりする。
日々をいかに切り取ることができるか。フィルムの面白さはここにあるのだと思うし、難しいところでもある。
1年の中で、特別な日なんてわずかしかない。大半がなんでもない日々である。カメラを始めたことによって、何気なく過ごしていた日常が、突然輝いて見えるようになる。この長い人生の中でこんなにも素晴らしいことはないと思う。
フィルムカメラは自分の世界はこんなにも綺麗なものなんだということを教えてくれる。たくさんの何気ない瞬間を特別な瞬間に変えてくれる。感性の赴くままにシャッターを切って欲しい。
ようこそ、フィルムカメラの世界へ。《終わり》
***
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