スターバックス
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
私はスターバックス(以下スタバで省略させていただきます)のグッズをたくさん持っている。バックやタンブラー、マグカップなど。それらを公私ともによく使っているため、相当なスタバ好きだと思われている。今でこそ落ち着いたが、一昔前まで、新作グッズの発売日には開店前の店頭に並び、ひとしきり買った後に、
「帰りに取りに来ます」
と言い残して仕事に行くという生活をしていたので無理もない。しかも店内で行われるコーヒーセミナーにもよく参加していた。
「そんなにスタバ好きならコーヒー好きなんだよね?」
よく聞かれる質問だ。そして相手の期待している答えはこうだ。
「はい、もちろん!」
でも実際の答えは違う。
「いや、コーヒー好きじゃないんですよねぇ」
当然相手の頭の中は「???」状態。逆の立場だったら私でもそう思うだろうし、相手の一瞬言葉に詰まって「なんでスタバ行くの?」という返答にも慣れっこだ。
私がコーヒーを好きではないというのは、今も昔も変わらない。そしてスタバにコーヒーを飲みに行っているのではないというのも今も昔も変わらない。
何故スタバに行くのか?
それには私の大学時代に遡る。
私は小学生の頃から今でも放送されている「世界ふしぎ発見」という番組が大好きだった。放送時間まで起きていられず見逃した翌朝は、
「どうして起こしてくれなかったの!」
と、母に言いがかりをつけるのがお決まりのパターンだった。その頃から海外へ行ってみたいと思っていた。
それから数年、大学2年生の春休みにそのチャンスが訪れた。私の大学は県立大学であり、その県とアメリカのモンタナ州とが姉妹都市である。そのため学生の希望者が春休みにモンタナ州立大学に行き、1ケ月の英語研修を受けるというプログラムが行われていた。その年、何故か私のクラスの複数人がそのプログラムへの参加を表明し、私の仲良しだった友人も含まれていたため、親に頼み込み参加することにした。正直アメリカよりもヨーロッパに興味があったのだが、それでも初めての海外にワクワクが止まらなかった。
パスポートを持つのも国際線に乗るのも始めた尽くしの旅。そんな飛行機の中で、添乗員さんからこんな提案をされた。
「国際線は、乗り継ぎ時間を多めに取らないといけないので、シアトル空港で6時間くらい時間があります。時間内に戻って来られるならシアトルの街に出かけてもいいし、空港内で過ごすなら、スターバックスというシアトル発祥の有名なカフェがあるから、そこでラテという飲み物を頼んでみたら」
その当時すでに、日本の都会にスタバは存在していたが、田舎の私達には「スターバックス」という店の名前も「ラテ」という飲み物も未知のものでしかなかった。
英文科の学生達はタクシーでシアトルの街に出掛けたが、栄養士の卵集団である私達は、英会話に明るくない。となれば、もちろんシアトル空港内に留まるという選択肢しかない。せめて添乗員さんの提案にのろうと、ぞろぞろと空港内を練り歩き目的のカフェを探した。お馴染みのあのマークを見つけ、さっそくミッション開始。
「Hi!~~~」
テンション高めに声をかけられたものの、すでに何を言っているか聞き取れない。流れからして、「何を注文されますか?」であることは間違いない。ということで、
「ラテ、プリーズ」
誰一人としてこれ以外のフレーズを使うことができず、スタッフはこれを6回も聞くことになる。
「じゃあまとめて頼んで!」と思われていたに違いない。
私達は、ドキドキしながら手に入れたその「スターバックスラテ」なる飲み物を、
「熱っ」
って言いながらすすった。蓋に穴が開いているというカップに出会ったのも初めてだった気がする。
とても興奮していた。初めて海外で英語を使った瞬間だった。中学校1年生から英語の授業を受けてきたし、英語のスピーチコンテストに参加したし、英検の2次試験で英語を話したこともあったけれど、それらとは全然違う。私のつたなすぎる英語を使って、アメリカのお店で、アメリカの飲み物を手に入れ、それを今飲んでいるという事実に、得も言われぬ感動を覚えたのだ。今まで苦手意識しかなかった英語だが、英語って私達と同じように普通に生きている人が使っている言葉なのだと実感した。
初めて飲んだラテという飲み物も給食の時に出ていたコーヒー牛乳と味は似ていたが全く別の飲み物で、それも異国の文化に触れた気がして妙に嬉しかった。その後の1ケ月、半分はホストファミリーの家で、半分はホテルからモンタナ州立大学に通い、英語の勉強と様々なアクティビティを体験した。英語は相変わらず苦手で、授業を受けたからと急に口から飛び出してくるわけもなかったが、ボディランゲージを組み合わせて、私は毎日ホストファミリーやお世話をしてくれるスタッフとの会話を楽しむことができた。当たり前だが、海外の人も言葉や文化が違うだけで、私たちと同じ人間なのだということを実感できたおかげだと思う。ホストファミリーは私のボディランゲージに対して「You are actress!(あなたは女優ね)」と面白がってくれた。英語がちゃんと話せなくても、伝えたいという気持ちがあれば、コミュニケーションがとれるのだという自信になった。
私はこの経験を通して、海外を憧れの場所としてではなく、自分の手が届く場所だと認識することができた。初めてのスタバでの経験が、私の海外への壁を壊し、海外は特別なものではないということを教えてくれたからだ。
今でも、年初めの1年の目標を決めるとき、何かをじっくり考えたいときにはスタバに行く。それはコーヒーを飲みに行くためではなく、新しく挑戦したことで自信を得たときの気持ちを思い出したいからだ。
「コーヒー好きじゃないのに、なぜスタバに行くの?」
と聞かれたら、こう答えている。
「スタバの雰囲気にお金を払っているんです!」
その意味は、スターバックスが私の原点回帰の場所であるという意思表示。スタバには季節によって魅力的な飲み物が発売されるけれど、ちゃんと考えたいときのメニューは決まっている。
「ラテ ホット トールサイズで!」
≪終わり≫
***
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