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メディアグランプリ

「お互い様」の威力。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:すがまゆうこ(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
ピコン。
朝八時。珍しい人からラインが届いた。
「解体業者の外人、きた?」
隣の老夫婦の家の、その隣の奥さんからだ。
「電源を貸してくれっていうの。こういうのは、業者が発電機とか持ってくるべきじゃないの?」
「なんでうちが電気貸さないといけないの?」
「嫌なんですけど。貸さなくていいかな」
私が返信をする間もなく、立て続けにラインが届いた。
どうやら、お隣さんは突然来た、外国人の解体業者の方に対して怒りが収まらないらしく、貸してやらない、と断ってやった。とのことだった。
 
隣の老夫婦は、今住んでいる土地を売って、近くのマンションに引っ越す。家の取り壊しの前に、カーポートを取り壊しに、解体業者が来たのだ。
 
確かに、ちょっと前に、うちのインターホンが鳴った。
「オハヨウゴザイマス!」
インターホン越しに見えるのは、解体業者の代表だという女性だった。
その女性の、エキゾチックな顔立ちは、同郷かと思い声をかけると
「ブラジル人です。二世です」
流暢な話しぶりからは外国の方とは思えず「日本語がお上手ですね」と声をかけた。
そんな不躾な質問にも関わらず、彼女は人なつこい笑顔を見せ、丁寧な挨拶をしてくれた。
 
どうやら、この彼女が、うちの隣の隣のお宅に挨拶に行ったときに、発電機を忘れてしまったから、電源を数分貸してくれないか、とお願いをしたようだ。
「断ったのに、すぐ終わりますからってカタコトの方々に言われた……もう、外国人、信用ならないから貸さない!」
最後に彼女達の悪口を言ってこのラインは終わった。
 
「外国人だから」「信用ならない」
そんな決めつけとも思われる言葉を目にし、ふわっと、フラッシュバックのように、突然18歳の私が現れた。
 
沖縄の高校を卒業して、進学のために上京した。
当時、私は沖縄なまりが強かった。地方出身のあるあるかもしれないが、田舎者と馬鹿にされないよう、一生懸命「標準語」を話そうとし、なまりがでないよう、必要なこと以外は口を開かなかった。
 
大学に行き、いろんな人と出会った。
「ねえ、沖縄って信号あるの?」
今日会った、初めての人に唐突に聞かれた。あるに決まってる。1993年だぞ。
「うん、あるよ」「え? じゃあ、コンビニは?」「うん、あるよ」
「横断歩道ないんでしょ」「あるよ」
「えー! なんにもないとおもっていた」
初めて会う人には、この類の質問を何度もされた。しまいには、「日本語上手だね」と言われたこともあった。さすがに、その質問は無視した。人を小馬鹿にしている。
 
「内地(本土)にすんでいる私」と「島国の沖縄に住んでいる田舎者のあなた」
「何でもある、日本の中心」と「なんにもない、日本の端っこ」
当の本人はそんなつもりはないかもしれないが、私にレッテルを張りつけ、田舎者を馬鹿にした質問だ、と当時の私は拗ねに拗ねていた。
だが、突然「沖縄出身」が輝く日が来るのだ。
 
安室奈美恵さんの登場だ。
安室さんの人気が爆発すると、とたんに私に対する質問事項が変わった。
安室さんは知っているか? 安室さんはどこに住んでいたの?と。
安室さん以外にも、ガッキーや仲間由紀恵さんなど、沖縄出身の女優さんが大勢輝いてくれたおかげで、田舎者扱いされていたのが、手のひらを返したように一変したのだ。
私は、彼女たちのお陰で、次第に意地悪な質問をされることはなくなった。
 
とはいえ、先ほどの外国の女性は、「日本に住むブラジル人」というレッテルが、プラスに覆るような有名人が現れるわけもなく。
恐らく、今まで何度も、「日本人のわたし」と「外国人のあなた」とレッテルを張られた、失礼な質問なり態度なりをされてきたのではないだろうか。
そして、いま、お隣さんが、外国の人だからと決めつけて悪者扱いをし、馬鹿にした、ラインの文字を読んだ時に、私はあの頃を思い出して、キュュウっと、胸の奥が痛くなったのだった。
 
お隣さんとの価値観、の違いなのかもしれない。よそはよそ、うちはうち。
私はこう思い、行動しようと思う。
生きていく上で、いろんな人に迷惑をかけることもあれば、かけられることもあるだろう。
表と裏。太陽と月。陰と陽があるように。物事は二つの側面がある。迷惑をかけている人がいれば、迷惑が掛かっている人がいる。
私だって、知らず知らずのうちに迷惑をかけることだって、これから先、絶対にある。
だからこそ、命に関わる事、多額の金銭がかからないことであれば「お互い様」と思うようにして、助けるようにしている。
 
人の行動は、巡り巡る。
私が意地悪をしたら、いつかどこかで誰かに同じような意地悪をされるであろう。
私は意地悪をされて嫌な思いをしたくない。だから、相手にも極力、意地悪はしないようにしている。
 
私の生まれ育った沖縄には、「ゆいまーる」という精神がある。
「ゆいまーる」とは、沖縄の方言で「助け合う」という意味だ。当たり前のように、困っている人がいれば「お互い様」で、手を差し伸べたり手を引いてもらったりする。
「どこどこの誰々」といったレッテルを張って、相手によって態度を変えることはしない。
私は、そこで育ってきた。胸を張って言える。
 
無事に解体工事も終わった。帰り支度をしている解体業者の皆さんに、冷蔵庫にあった缶コーヒーを数本持っていった。暑い中、数時間とは言え、疲れただろう。
 
「ありがとう!」
朝と同じ、明るく照らす太陽のような笑顔で、大きく手を振って、解体業者の皆さんは帰っていった。
 
「お互い様」
その気持ちだけで、私たちは、どこの誰だろうと、笑顔で繋がることができるのではないだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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