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メディアグランプリ

「壁際」から向き合う世界


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:畑澤直希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
壁際が好きな人は世界中にいる。それが、国際交流の経験から得た学びの一つだ。
 
大学生の時にフィリピン人の女性と付き合っていたことがある。国際交流プログラムで知り合い、意気投合。総勢で300人近い青年たちが集まる企画であったが、立食パーティや文化交流のタイミングで輪の中心にいることが苦手だった私は、常に人の輪から離れ、壁際にいた。隣を向けば、毎回同じメンツが揃っていた。言語や文化が異なるにも関わらず、集団が苦手な人は苦手なのだと、かなり感動した。その中の一人に彼女がいた。一目惚れであった。
 
そこから猛アプローチをした。拙い英語しか話せない自分は、周りの外国人の力を借りて文章を考え告白した。ドラマや映画でよく耳にする「アイラブユー」は、自分の言葉でいうとなんと不細工か。とても恥ずかしかったが、拙い英語からその意図を汲み取ってくれた彼女に本当に感謝したことを覚えている。
 
それからプログラムも終盤を迎え、それぞれの国に戻る日がきた。40日間一緒に過ごした友人たちと別れる瞬間は、いつかまたどこかで会えると分かっていても寂しい。そんな中、彼女とも離れるタイミングが近づいてきた。哀しい顔は見せないように、別れの言葉を告げる。すると、またすぐに会いたいと言われる。あ、そう、じゃあ行こうかな、と思い、すぐにフィリピンに向かった。そう、私は非常にチョロい。
 
彼女の住む街はフィリピンの首都マニラからバスで約4時間北上した場所にある田舎町であった。異国での長い旅路を経て、ついに彼女に会う時間になった。彼女の、「え、まじで来たの、正気?」という顔が忘れられないが、気づかないフリをした。恋は盲目だった。
 
その日の夜は彼女の父親の誕生日で、夕食会に招かれた。両親と軽い挨拶を交わした後、また壁際にいた。そうしていれば、大抵好意を持った人間しか近づいてこないだろうと思った。一種の処世術だ。すると、片言の日本語が話せる年配の男が一人近づいてくる。
 
「こんにちは。今ちょっと話せますか?」
 
まさかこの場で日本語を話せることになるとは。思わず気持ちが高ぶった。
 
「なんでここに来たのですか」
 
彼女に会いに来ましたと、陽気なテンションで答えようとしたその矢先、
 
「ここ、昔日本人がフィリピン人に悪いことした土地であること、知っていますか? どう責任とってくれるんですか?」
 
かなりヒートアップした口調に変わっていた。よくよく思い返せば、彼は私に話しかけに来た瞬間から一切笑っていなかった。まずい、とパニックになってしまった。
 
「昔したことへの責任はどうとってくれるんですか!」
 
男の怒気が止まらない。これは逃げられないと思った。
 
自分が生まれる前に起きた悲惨な出来事について、どう説明すればいいのだろうか。ニュースでは歴史問題がことあるごとに取り上げられているが、正直どこか自分ごとに捉えることができなかった。
 
恥ずかしながら、私はその時初めて歴史に向き合っていた。謝れば済む話なのか、そもそも何を謝ればいいのか。自分の発言が日本人の総意として取られてしまうのではないか。一瞬のうちに、いろんな考えが頭によぎった。
 
「一日本人として過去の過ちを反省したい。これからまた同じ過ちを繰り返さないように、私たちの世代から交流を止めず、お互いの理解を深め、友好的な関係性を作っていきたい」
 
これが、私が出した答えだった。過去の話から、未来に焦点を当てたかった。
 
「でも過去に大変な過ちを犯した!」
 
男の口調は止まらない。彼は、常に過去に争点を当てていた。目の前の私を見ていないのだ。それから1時間くらい永遠と同じ話題を繰り返していたところ、見かねた両親が仲裁に入り、居た堪れない気持ちとともに一人ホテルに帰った。
 
そんな騒動もあり、帰国後すぐに彼女から別れを告げられた。小さな田舎の街だったから、日本人を連れてきたことできっと変に注目を集めてしまったのだろう。とても申し訳ない気持ちになった。
 
今を生きる私は、過去の出来事に対してどう向き合えばいいのか。そして、今何ができるだろうか。帰国してから、何が正解だったのだろうと振り返っていた。
 
覆水盆に返らず。過去に起きた事は、直すことはできない。ただ、水をこぼした事実を理解し、溢れないように、慎重にお盆を運ぶことは必要だと思う。
 
一方で、水を溢さないか気にしすぎると、強く交わることができない。背景に捉われず、目の前の相手と向き合い、理解すること。この簡単そうで難しい積み重ねによって、少しずつお互いの関係性が創られていく。
 
海外に出ると、自分が「日本人代表」ということに気づかされる。海外で向き合う人たちは、向き合った日本人から印象を受け取る。それぞれの代表の発言、行動の一つ一つが、彼らにとっての日本人を創り上げる。そして、日本代表のバトンは未来に続いていく。まずは今の自分の態度が、未来の印象を創っていくのだろう。
 
生まれた背景が違う。歴史の認識が違う。言葉や文化が違う。「違い」によって、お互いを理解することが難しいと感じてしまう。でも、世界には自分と同じく壁際が好きな人もいる。どんなに違うと思っていても、人間どこか根底で似ている部分もあることを、壁際という世界の辺境から学ぶ。正面からでも、壁際からでも、きっと向き合える。
 
 
 
 
***

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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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