あえて見ない、という選択
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記事:岡本 サキ(ライティング・ゼミ日曜コース)
みなさん、目はいいだろうか?
私は、小学校高学年から視力が落ち始めた。原因は、おそらくマンガとテレビゲームだ。
そして、メガネをつくった。でも、それを四六時中かけているのは恥ずかしかったので、授業中や遠くを見るときに使っていた。
コンタクトレンズをするようになったきっかけは、スポーツのためだった。
小学校から部活でバスケットボールをしており、メガネでは動きにくい、けれど裸眼ではよく見えない。そこで、親にお願いしてコンタクトレンズをつくってもらったのだ。
初めてコンタクトをしたとき、世界が一変して見えた。
一緒に試合に出ているメンバー、ベンチの先生、応援してくれるお母さんたちの顔がよく見える! 点数も、残り時間もよく見える!
チームメイトの表情がわかるので、パスも出しやすい。ベンチで先生が送るサインも見える。
以前よりも積極的に動けるように感じた。
ご存知のとおり、コンタクトレンズには、ハードとソフトの2種類がある。
私は乱視の度数が強かったため、その矯正に適しているハードレンズを使っていた。
使ったことがある人は分かると思うが、これがその名のとおり、なかなかハードな使い心地。
風が吹いて目にゴミが入ったときや、レンズが黒目からズレて白目の奥のほうに回り込んでしまったときなど、涙なしには解決できない。
でも、よく見えたのだ。私にとっては。
その後、20代半ばまでハードレンズを使っていたが、ソフトレンズでも乱視矯正できるものがでてきて、そちらに乗り換えた。
異物が入っている違和感もなく、つけ心地もとてもよかった。ハードレンズほどハッキリと見えるわけではないが、まったく生活には支障がないレベルだ。
そのとき、思ったこと。
見え過ぎないと、ラクだな……。
そう、ハードレンズのときは、とにかくよく見えたのだ。
人のちょっとした表情の変化、物のカドが揃っていないこと、チラッと目に入った他の人のパソコンの画面、床に落ちているホコリやゴミ。
見えると、気になる。気になると、やがてイライラしたり、落ち込んだりしてくる。
でも、ソフトレンズにしたら、見えるは見えるけれど、そこまでハッキリとは見えない。だから、無理に見ようとしなくなった。
みなさんの中にも、人のちょっとした表情の変化が気になる方はいないだろうか。
私は、どちらかと言うと、そういうことに敏感であるほうだ。
その人の表情から、あまり機嫌がよくなかったり、イラついている様子などを感じ取って、必要以上に気にしてしまう。
しかし、いつもそれを気にしていると、自分の神経がもたない。家に帰って、ドッと疲れがでるときもあった。
それを少し和らげてくれたのが、ソフトレンズだ。
物理的に見え過ぎなくなったことで、他人を気にすることが少なくなったのだ。
私たちの目は、精度の良すぎるカメラである。
高性能なばかりに、本当は見たくない、見なくてもいい欠点が見え過ぎてしまう。
ケータイのカメラ、特に自撮りでそれを経験した人も多いだろう。私もそのひとりだ。自分のシミやシワが、これでもかというくらい突きつけられる……。
その、精度の良すぎるカメラをバージョンダウンして、「あえて見ない」という選択をしてみるのも、現代社会には必要な場合もあるのではないだろうか。
あえて見ない選択を、無責任と思われる方もいるかもしれない。
困っている人がいるのに、あえて見ない。
やるべきことに行き詰まり、先送りにしたいので、あえて見ない。
たしかに、そのとおりである。
しかし、考えてみて欲しい。
みんな何かしら悩みを抱えている現代社会で、まず自分が、無理をせずに生きられるような精神状態にすることが先決ではないだろうか。
他人のことを思いやり、心配できる人はもちろん素晴らしいが、それは、自分に余裕ができてからすればいいこと。
自分がボロボロなのに他人を助けようとしても、どこかで歪みが生じて、結局共倒れになってしまう可能性がある。
まず自分をいたわること。
それに有効な方法が、私にとっては、「あえて見ない」という選択だった。
そのことで、無駄に神経をすり減らすことが少なくなり、自分に余裕ができて、他の人におおらかな気持ちで接することができるようになった気がする。
上司が怒っているのか気になる、部下が何を考えているのか分からない、子どもが言うことをきかない、友達が自分だけ誘ってくれない。
生きていれば、気になって心配になることは山ほどある。
でも、気にし過ぎないこと。世の中を見過ぎないこと。
カメラの精度をあえて落として、自分に見せない、気づかせない。
そして、日々を大切に、自分を大切に生きていく。
それで十分、と私は思う。
***
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