メディアグランプリ

壁一面の本棚には夢の世界が広がっている。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 伊織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
最後の一ページをめくる。巻末のページは決まって次回予告だ。名残惜しいが、次回予告とにらめっこをしても仕方がない。わたしはそっと本を閉じた。
次の巻が発売されるまで約二ヶ月。二ヶ月もの間、このワクワクをどこにしまっておけと言うのだろうか。
 
わたしは漫画が大好きだ。それは子供の頃から、大人になった今でも。むしろ大人になってからの方が、漫画に対して感じる魅力が多くなっているかもしれない。
 
漫画は世界旅行だ。
「もしも魔法があったら」
「もしも幽霊がいたら」
「もしもスポーツがとても上手だったら」
そんな世界、実際にあるわけはほとんどないのだけど、一度ページをめくればその夢の世界に連れて行ってくれる。
移動することなく別の世界を体験できるというのだから、世界旅行よりも素晴らしいものかもしれない。
 
昔は周りの友達もみんな漫画を読んでいた。毎週月曜日には
「◯◯カッコよかったよね!」
「次はどうなるんだろう! 早く続きが読みたいよー!」
なんて友達と語り合っていた。
小学校高学年くらいになると、自分の考えたストーリーで自由帳に漫画を描き始める人もたくさんいた。みんな漫画が大好きだった。
しかし、いつからか周りの友達は漫画を読まなくなっていった。読まなくなっただけであれば良い方で、
「まだ漫画なんか読んでるの? 漫画って子供が読むものでしょう?」
とか、
「漫画を読むことしかやることないなんて可哀想。もっと楽しいことがいっぱいあるのに!」
とか、漫画を読んでいるだけで哀れまれたり疎ましがられることも増えていった。
どんどんとみんなが漫画から離れていく中で、わたしはずっと漫画を読み続けていた。
 
みんな漫画の魅力が分からないなんてもったいない。子供ではなく、大人にしか分からない漫画の魅力があるというのに。
子供の頃は特別なにも思わずに読んでいた何気ない物語も、大人になってから読み返してみると夢がたくさん詰まった不思議な世界のおはなしなのだ。
 
主人公はただの学生。だけど実は世界を救うヒーローで、隣のクラスのあいつは魔王。一見ありきたりに思える物語でも、その奥に広がる世界に決して同じものはなく、どれも作者の個性の滲み出た素敵な世界だ。
わたしはそんな十人十色の世界が大好きだ。
 
その世界の住人も素晴らしい。いつもわたしに勇気をくれる。
平凡な主人公の努力を見て、一緒に頑張ろうと思った。
主人公の師匠の言葉で励まされた。
優秀な主人公の先輩からは、物語に取り組むための姿勢を学んだ。
普段は主人公に嫌がらせをしてくるライバルだって、肝心な時には主人公の味方をしてわたしの心を震わせてくる。
漫画は色々なことを教えてくれる。いつだってわたしは漫画と一緒に歩いてきたんだ。
 
そんな漫画にも、読者にとってとても寂しい時がくる。
物語が終わる時だ。
物語には必ず終わりが来る。ほとんどの主人公には何か目的があって、その目的を達成すると物語は終わりを迎える。
だが、物語が終わっても終わらないものがある。物語の世界だ。
世界旅行で訪れた場所が、自分がいなくなると同時に無くなることがないように、漫画の物語が終わってしまっても、漫画の中に描かれた世界が終わってしまうわけではない。
漫画はいつか終わる。それでも、漫画の奥に広がる世界はいつまでも続いていくのだ。
 
この先二度と描かれる事がないかもしれない世界にも未来がある。
物語が終わったあと、主人公はどうなったのだろうか? 隣のクラスのあいつは? それにあのキャラクターだって、まだまだたくさんあの世界について知りたい事がある。
いま自分が生きている世界のことだって、いくら必死に足を使っても隅々まで知ることはできない。ただ、人間は考えることができる。地球の過去を遺跡から推測するように、物語の見えない部分も、見えている部分から推測する事ができる。
きっと主人公はこうなったはずだ。ひとりひとりの解釈で世界が広がっていく。作者とともに世界を広げることが出来るのも、漫画のひとつの魅力なのだとわたしは思う。
 
窓の外を見ると空が白み始めていた。
しまった! もう寝ないと。
急いで布団に潜り込む。こうやって世界に想いを馳せている間に予想以上の時間が過ぎてしまうことは、漫画の唯一の欠点だ。世界旅行ほどの時間はかからないけどね。
 
明日はどの世界に行こう?
それとも次の巻が出るまでの間、もう少しこの世界を広げてみようか?
 
明日の世界に想いを馳せながら、夢の世界へと落ちていった。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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