メディアグランプリ

命の尊さを学ばせてくれた夫婦


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:なつき(ライティング・ゼミ特講)
 
 
産まれた!!!
 
何日も待った。ただ見ているしかできなかった。生まれたばかりの小さな小さな赤ちゃんは、「ヒィ~、ヒィ~」と親鳥を探しているのか鳴いていた。まだ「ピィ~」とは発せないほどか細い鳴き声だった。
 
親鳥に比べて大きさは10分の1くらいだろうか。まだ目も開かない状態。まだくちばしは皮に覆われている。それでもできかかった小さなくちばしを懸命に開き鳴く。親鳥はちょっと離れた餌箱で餌をもりもり食べていた。水を飲み満足したのか巣に戻った。親鳥が雛鳥を巣の真ん中に戻す。そして、ムリムリっと身体を震わせ雛鳥にお腹を押し付け上から座った。完全に雛鳥は隠れた。親鳥のお腹は柔らかい。ふくふくとしている。それでもあんなに小さな雛鳥の上から座って踏んづけてしまわないのか、大丈夫なのかと心配になる。そのまましばらく親鳥は目を閉じてじっとしていた。そんな冷静な親鳥をよそに私は興奮が冷めなかった。
 
私が中学生の時、母が小鳥をもらってきた。友人が飼っていて里子に出す話があったらしかった。母はとても嬉しかったのか「もらっちゃった~」と満面の笑みだった。種類は錦華鳥、読み方はキンカチョウ。見目姿は文鳥にとてもよく似ている。大きさは、文鳥を一回り小さくした様な感じだ。真っ白い体にオレンジ色の鮮やかなくちばし。とっても美しい。そして人間に例えるとスーツを着たスマートな紳士みたいな感じだった。ただ一つ頭頂部を除いては。この錦華鳥は頭頂部の毛が薄かった。薄いだけでなく寝ぐせの様に放射状に広がっていた。真上から見るとうっすら皮膚も見える。そのせいでお洒落な紳士というよりひょうきん者のように見えた。
 
「梵天頭で可愛いでしょう」母は語尾に音符マークをつけそうな弾んだ話し方をしていた。こういう頭って梵天って言うのか。その頭のせいで雄である彼の名は「梵天」以外に浮かばなくなった。母はそれでは可哀想だと言った。生き物を飼うと名前を付けるけどどんな名前がいいのか、実際に飼うと何も思いつかなかった。母は白いから「しろちゃん」と呼ぶことにしたようだ。母の会話に「しろちゃん」が時折登場するようになった。そして彼の名は2、3日で「しろちゃん」と統一された。
 
数日後の週末、ケージを買いに行った。というのも、しろちゃんが入っていたケージはもらってきたときに借りたものだったから。どんなケージにしようか色々見た。錦華鳥は身体は小さくともかなり活発な小鳥で、よく跳び回るから大きめのケージが必要だ。母はピンク色のケージが気に入ったようだった。ケージには大小の餌箱が1つずつと水飲み箱、それに止まり木が2本ついていた。同じお店で餌と水浴び用の器、つぼ巣も買った。
 
新しいケージへ小鳥を移す。借り物のケージの倍近くあったからだろうか1羽だけではとても広く感じた。もともと2羽でつがいにして飼って卵もかえすことを母は考えていたようだ。「お嫁ちゃんもらわなきゃね」と嬉しそうだった。
 
小鳥のいる生活が始まった。しろちゃんは少し高めにプープーと鳴く。今まで静かだった家の中に鳥のさえずりが響くようになった。さえずりと言ってもプープーだから思っていたお洒落な感じではなかったけど、活発に動いている姿は可愛らしい。家にいる誰もが小鳥の世話をするようになった。
 
しろちゃんはとても器用に餌を食べる。餌は殻付きの穀類とボレー粉。穀類の殻を上手にくちばしで剥いて食べる。一見すると殻を剥いた感じが分からない。だから餌箱にまだたくさん餌が残っていると思ってしまうことがある。でもそれはとても危険だ。餌箱を掃除する時に食べ残した殻を取り除くために、ふーっと息を吹きかける。すると風に乗って殻だけになっていた部分は外に出る。その後で餌箱を見るとほとんど空だった、というのは小鳥の餌のあるある話だ。そしてもう一つのボレー粉は、貝殻を砕いて作ったものでカルシウムを摂取するのに欠かせない。そしてもう一つ、彼には大好きな餌があった。野菜が好きだと話に聞いて、試しに小松菜を入れてみたところ大好きだったようで、葉の部分を綺麗に食べた。鳥が菜っ葉を食べるのは驚きだった。
 
そんなんで数週間が過ぎた。前に話していたお嫁ちゃんが来ることになった。錦華鳥にも人間と同じで相性があると言う。最初はケージを2つ並べてお見合いの様な事をさせる。それで喧嘩しなければ一緒のケージに入れてみて再度様子を見る。ケージを2つ並べた。数日おいて特に問題がなさそうだった。一緒にしてみる。なんだか様子がおかしい。
 
お嫁ちゃんはとても気性の荒い子だった。しろちゃんがつつかれているのを何度か目にした。人間に例えるとかかあ天下の様な感じか。しろちゃんは大丈夫だろうか。時折お嫁ちゃんが仕掛けて喧嘩もしている。喧嘩と言うか一方的にお嫁ちゃんが攻撃している。このままではしろちゃんの毛がむしられてしまう。ケージを2つ並べていた時は少し離して置いていたのでわからなかった。2羽を離して、お嫁ちゃんは元の家に帰した。
 
あんなに攻撃的なお嫁ちゃんでは困ってしまうね、と母は言いながら次のお嫁ちゃんの候補を見つけてきたようだ。2週間後に別のお嫁ちゃんが来た。また、ケージを2つ並べる。今度はケージ同士をすぐ隣に置いた。すると、ケージ越しに見つめあってるような時が何度かあった。お互いに「そばに行きたいなあ」と言っているかのような空気まであった。これなら大丈夫か。数日後一緒のケージに入れる。今度のお嫁ちゃんは大人しかった。しろちゃんを攻撃することもない。長くいてもらえそうだ。お嫁ちゃんはシナモン色をしていて上品な感じだった。名前をどうしようかと考えていたら、やはり今回も母が「シナモンちゃん」と呼び始め、それが数日で定着した。
 
しろちゃんはよほど嬉しかったのか、シナモンちゃんの周りで飛んだり跳ねたりとそわそわしっぱなし。人間で言うと、しっとりした女性にほれ込んだ男性がいてもたってもいられなくて自分をアピールしている様な感じだろうか。とても相性が良いようだった。更に驚いたことがあった。プープーしか言わなかったしろちゃんが歌い始めたのだ。お嫁ちゃんのそばで2本ある止まり木を行ったり来たりしながらお嫁ちゃんを見ながら歌う。始めはとてもへたっぴだった。毎日毎日練習してシナモンちゃんに歌う。好きな女性のために歌う。とても健気だった。控えめなシナモンちゃんもそんなしろちゃんが好きになったのかよく2羽が並んで仲良く寄り添ったり、お互いの毛づくろいをすることが増えた。
 
蜜月の数カ月が経って、そんな2羽に子供ができた。シナモンちゃんが卵を産んだのだった。錦華鳥は卵をかえさないことで有名な鳥だ。とても心配症で神経質な鳥で、巣の周りで落ち着かないことがあると、卵を残したまま巣を放棄してしまう。それは人間がケージのそばでウロウロすることも含まれていた。ケージの半分に布を被せ、あまり気が散らないようにした。シナモンちゃんが抱卵中の時は、しろちゃんは巣に入れるための巣草を運ぶ。巣草は市販されている細い藁のようなものを買ってきて数本ずつ入れた。巣草が無くならない様に配慮した。そして餌を足したり水をかえる時も驚かさない様に細心の注意を払った。この頃には、錦華鳥の愛らしさにやられて私は1時間どころか2時間くらいケージのそばで見惚れていたけどなるべく見る時間を減らした。家族みんながシナモンちゃんの赤ちゃんを待ち望んで、抱卵を放棄させないよう細心の注意を払った。
 
待ち続けた。そして、学校から帰ったある日、「産まれたわよ」と母の言葉があった。一目散にケージの前に行く。巣の中にシナモンちゃんがいた。巣の上にしろちゃんがいた。赤ちゃんが見えない。卵がかえったのならいいよね、とケージをしばらく見ていた。その時だった。シナモンちゃんが巣からできてきた。
 
産まれた!!!
 
巣の奥には小さな小さな雛鳥がいた。まだ羽も生えていない、皮膚が見えた状態の雛鳥。ちょっとエイリアンの様にも見える雛鳥。それでもシナモンちゃんが卵を暖めてかえした雛だと思うととても愛おしかった。生き物が産まれるってこんなにも感動することなんだと思った。私には大きな事件だった。この時は2羽かえった。実はこの前にもシナモンちゃんは卵を産んでいた。でも雛はかえらなかった。その時のケージは特に布は掛かっていなかった。周りも静かではなかった。今回は布を掛けたし、いつもは居間に置いていたケージを他の静かな部屋に移していた。
 
家族みんなで協力したからこそ生まれてきた命。私は命の尊さを学んだ。
 
雛たちは、無事に両親たちと変わらないくらい大きくなり、里子として巣立っていった。その間、しろちゃんはとってもイクメンだった。雛鳥時代は、シナモンちゃんと交代で餌をあげた。お父さんの顔のしろちゃんはとても頼もしかった。そしてしろちゃんとシナモンちゃんはさらに仲睦まじくなった。その後も何回かシナモンちゃんは卵を産み、しろちゃんも育児を手伝い、子供たちを育て上げた。卵を産み、立派に子育てし巣立ちをさせた錦華鳥の夫婦。彼らの協力する姿は、いまでも心に残っている。
 
 
 
 
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2020-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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