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わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい


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記事:たまっくす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
1971年生まれの私と同世代の方々がいらっしゃれば、この文章のタイトルである大手ハム会社のTVCMのこのフレーズはご記憶にあるだろう。
 
父と息子(少年)が山に入り、夜、焚火をしながら、ナイフで荒々しく切ったハムを火にかけて食べる、そして、
 
「わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい」
 
というセリフが飛び込んでくる。
 
私は東北の小都市に生まれ育ったが、父親がずっと東京に単身赴任だったため、何週間かに1度、週末だけ帰ってくるという生活だった。それもあってか、このCMの親子にはちょっとだけ憧れていた。
 
母親は美術系の大学を出て、高校の美術の教員免許も持っていたが、大学卒業後、まもなく結婚して私を出産したため、結局、教員にはならなかった。幼少の頃から、体は丈夫ではなかったとのことで、運動神経がすこぶる悪かった、と常々話していた。私の運動音痴は母親譲りだと思う。
 
ただ、父親のいないことの多い家庭で、母は私を含め妹、弟の3人の子を育てることに必死だったことは間違いなく、長男の私には物心ついたころに、「お前は長男だから(1歳下の)妹の面倒をみなさい。母さんは、(3歳下の)末っ子である次男の面倒をみる。これが役割分担だ」と言った。幼稚園バスのバス停から家までの道は、たかだか数百メートルだったが、年中さんの私が年少の妹の手を引きながら、母がパートに出て不在の自宅に帰るのはいつも少し心細い感じがした。
 
それでも、私たち3人の兄妹は母の愛情をたっぷり受けてすくすくと育った。何を置いても、子供との約束は必ず守った。私たちはたまに母とデパートに行っても、なんとなく気が引けて、あれが欲しい、これが欲しいなどと言わない子供たちだったが、年に何度か、母に欲しいものはないか? と聞かれることがあり、そういう時ははっきりと、具体的に欲しいものを言った。そして、母はどんなに忙しくても、約束したものは必ず買ってくれた。子供たちも慣れたもので、母が難色を示すであろう高価なものや、たいして欲しくもないけど、他人が持っているから、などの「弱い理由」で、欲しい、と言うことはなかった。
 
母は常々、私に「義務教育の『義務』というのは、親の義務なんだよ」というのがあり、印象に残っている。母の義務教育の解釈は「親が、自分の子供を、社会の役に立てるような一人前の社会人にするために必要な知恵をつけさせる義務」だった。ネットの辞典をいくつか調べても、たしかにこの解釈は間違っていないようだ。母が息子である私に言いたかったのは、「あんたが教育を受ける義務を負うのでなく、私があんたに知恵をつけさせる義務を負うんだ」ということだったのだと改めて思う。
 
私は30歳で結婚をし、その翌年に生まれ、今年、高2になった長女を筆頭に3人の子宝を授かった。子供が生まれてすぐは、毎日の育児が新たな発見の連続で、母の「義務教育論」など、思い出すヒマもなかった。
 
長女が小3、長男が小1、次男が年中になるあたりから、なにか、わかりやすい「たまっくす家 ○カ条」のような標語をつくりたくなった。子供にもわかりやすくて忘れにくい標語にしようと、いろいろ考えた結果、「3つのア」という標語を思いついた。
 
1つ目の「ア」は、「あいさつのア」。
朝起きた時、学校で友達や先生に会った時、親戚の集まりでじじばばや叔父叔母、いとこたちと顔を合わせる時、まっさきに自分から大きな声であいさつをしよう、と教えた。
 
2つ目の「ア」は、「ありがとうのア」。
なにかをしてもらった時、自分がうれしいと感じた時は、すかさず、相手に「ありがとう」と伝えよう、と教えた。
 
3つ目の「ア」は、「謝るのア」。
なにか失敗した時、相手を怒らせちゃった時、ケンカした時、自分から先に謝ろう、と教えた。大人になると、「先に自分の非を認めたら負けだ」「非を認めたら、損をするのはこっちだ」などと教わる場面もある。一方、大人になると、自分が間違っていたと気づいても、相手が年下だったり、最初に声を荒げてしまった後だったりすると、自分からは謝りづらくなる場面も多くなる。自分の非を認め。素直に謝ることはとても勇気がいる。みっともない、というちっぽけなプライドが邪魔をする。
だから、あえて、子供には、「自分のほうから先に謝る」ことへの抵抗をなくしてほしかった。
我が家の教育方針、というと大げさだが、「3つのア」は、子供たちも覚えやすかったと見えて、3人が高2、中3、中1となった今でも、ことあるごとに会話の中に登場する。
私も、会社員生活が20数年となり、学校で学んだ年数よりも社会に出てからの年数のほうがはるかに長くなった。
 
数多くの先輩や上司に仕事を学び、さまざまなタイプの後輩や部下と出会った。
50歳を目前に、ふと、自分の社会人人生を振り返る。
 
すると、会社で一緒に仕事をしたい人間に求めることが、結局のところ、「3つのア」であることに気がつく。
 
朝、会社について、大きな声でさわやかに挨拶してくれる後輩。私が時間をかけて作ったレポートに感謝し、「ありがとう、助かったよ」と言ってくれる上司。
「この間の予算会議での発言。よくよく考えたら、お前の言っていたことのほうがスジが通っている。長い目で見れば、そっちのほうが正論だと気づいたよ。ごめんな。」と、謝ってくれる同僚。
 
そうだった、と気が付いた。
子供たちに、最初に「3つのア」を教えた時、たしか、夕食の席で、私も少しアルコールが入っていた。
 
そして、
「結局、社会に出たらな、『おはようございます!』『ありがとうございます!』『ごめんなさい!』って、大きい声で言えるやつは、絶対にみんなから好かれる。まちがいない! これはパパの経験」と伝えた覚えがある。
 
なるほど、歴史は繰り返す、とはよく言ったもので、結局、私は、母から聞いた「親が、子供を一人前の社会人にするために必要な知恵を授ける義務」を果たそうとしていたのだと思いいたった。
 
母親譲りの神経の細さで、「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」とまで豪胆な教育方針は伝えられなかったけれど、「一緒に働いていて気持ちが良いやつ」と思ってもらえるためのセオリーは伝えられたかな、と思う。もちろん、結果が出るのは彼らが成人して仕事を得てから、となるのだが……。
 
そして、それは、子供の為のセオリーと言いながら、100%、自分自身が反芻すべき教訓だったのだと、これを書きながら気が付いた。ありがとう、3つの「ア」。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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