本当は教えたくない私の命の洗濯の場所
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:長谷川順子(ライティング・ゼミ日曜コース)
最高!
空と海が眼前に広がる露天風呂にからだを滑り込ませ、思わず口からもれた。
すべてがほどけてゆく。
頭の中はスカッと晴れわたってクリアになり、こわばった身体がゆるんでゆく。
ぬるい温泉。
いつまででもつかっていられる。
最高に気持ちいい。
初めて来たのは、去年の初夏だった。
一人旅したらいいよ、と先生にアドバイスされた。
一人旅か、このところずっとしていない。
行くなら温泉がいい。
海も山もあるところがいい。
欲張りな私は、海も山も温泉もあるところを探した。
落ち着いていて、高級感があってクラシックなところが好みだ。
できれば名建築がいい。
そして、一人でも泊まれるところ。
見つかった。
張り切って特急列車も周遊券つきで予約した。
海岸線沿いを走る列車からの車窓は、広がる海がキラキラと輝いていて美しい。
盆地育ちで、都会で生きている私には、それだけで興奮するに値した。
ホテルに着いて迎えてくれたスタッフの方も、おもてなしが気持ちがよい。
着いてすぐ、温泉に入りに行く。
感嘆した。
あまりにすばらしい!
絶景だ!
露天風呂の水面から海と空が一体となって広がり、世界は一つになっていた。
その空間に私自身を溶け込ませてゆく。
沁みわたる温泉のあたたかさ。
心がほどけてゆく。
一人旅なので、時間を気にすることもなく、ひとに気を遣うこともなく、勝手気ままに温泉につかり、食事をして眠った。
すべてが自由だった。嬉しい。
何をしてもいい。
誰かにうるさく言われることもなく、好きなことをやりたいようにできる。
なんという解放感……
そのとき読んでいた本に、非日常の自然のある空間に行って、やってみたいことを書き出すといい、と書いてあった。
書き出してみた。
やりたいと思っていたけど思っただけでやっていないこと。たくさんあった。
一泊だけだったので、あっという間に朝になった。
朝食の後、海を見下ろせる眺望のよい広いお庭を散歩した。
そのときお世話になっている先生からメッセージが届いた。「おいしいアイスクリームをあなたに送りたいのだけれど」とのこと。そういえば、やりたいことに美味しいものを食べたいと書いた。以心伝心。いいことがあるものだ。嬉しい。
チェックアウトして、ホテルを出ようと門まで歩いているときに、兄からラインが入った。「娘にいけばなを教えてあげてもらえませんか」とのこと。すごい!やりたいことリストに
いけばなを教えると書いていた。もう叶った。喜んで一緒にいけばなしたいと返信した。
初めて行ったそのクラシックホテルで、そんなふうにいいことばかりあった。
それで今回は二度目の訪問。
ゆっくりしたいので二泊にした。
やっぱり着いてすぐ露天風呂に入った。
最高!!!
からだに沁みわたるお湯。
来てよかった。
光が燦燦と差し込むテラスで、マリリン・モンローが新婚旅行に来てリピートしたというオムライスを食べる。ふわっふわの卵。野菜たっぷりのソースが、絶妙なバランスでとってもおいしい!
温泉は、日の出直前にオープンする。
早起きして一番乗りで、露天風呂に行く。
ああ、なんて美しいのだろうか!
空の色が、淡いピンク色からオレンジ、黄色、青、藍、紫へと、グラデーションとなって刻々とうつりかわってゆく。
もうすぐ朝日が昇るというとき、水平線にギラギラと揺れる強い光があらわれて、そのギラギラしたまるい形の顔をあげていく。
荘厳な黄金の光が差しこんでくる。
まばゆい光。
朝日の清らかな光で私自身が浄化されている気がする。
鳥が大海原を舞っている。
朝日がのぼる瞬間を眼前に見る、静かな美しいひととき。
風が吹いて頬に触れる。
木々の風になびく音。
海に反射する光。
温泉のにおいとあたたかさ。
何も身につけていないことも、底知れぬ解放感につながっているのだろう。
身も心も素っ裸で自然と一体となる感覚。
私は自然の一部なのだと感じる。
木も、海も、空も、雲も、鳥も、蝶も、何も着飾ってはいない。
そのもの勝負だ。
私もそのままの自分で生きていけばいいのだと思える。
鎧兜は脱ぎ捨てて、本来の自分で生きる。
取り繕わなくていい。
私は、私を生きる。
私の命の洗濯の場所。
川奈ホテル。
本当は秘密にしておきたいけれど、いいものはひとにも知ってもらいたい。矛盾している。
すべてのことは矛盾しながら展開している。
ここを出るころには、どんないいことが入ってくるだろうか。
楽しみだ。
***
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