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何もない世界


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:KATO RISA(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「名古屋ってなんも遊ぶとこないんだよね~」
名古屋出身の友達が、言った。
衝撃だった。
 
地下鉄1本で、動物園にも水族館にもいける。
パルコは東館、西館、南館、midi館と4つも建物がある。
大須商店街は、流行りのフードや多国籍料理、個性的な古着屋、電気屋、
サブカルなどが集まり1日中過ごせる大型商店街。
ナゴヤドームがあって、世界中のアーティストのライブやコンサートが見られる。
 
進学で名古屋にきた18歳の頃、
田舎出身の私からすれば、「何もない」なんて決して思えなかった。
 
私は長野県松本市出身である。
正確にいえば、松本市に吸収合併された小さな町だった。
 
国の文化財に指定されている、上高地の少し手前。
 
 
 
 
小学生の夏休み。
「夏休みだし、どっか遊びに行こっか。どこいきたい?」母が尋ねる。
私と妹は、長野県の遊びスポットや地域情報がのった雑誌をひらき、
会議を始める。
 
温泉、自然の中で楽しむキャンプ、美術館・・・・・・
「う~ん、どこかある?」
「う~ん……」
会議は難航し、気づけば時計は正午をさしている。
9時頃からずっとこの話をしているが、決まりそうにない。
 
母は、とりあえずお昼にしようか、と冷蔵庫をあけている。
まずい、出発時間がどんどん遅れていく……
お昼を食べて、片付ければあっというまに13時はすぎる。
それから出かける準備をすれば14時はすぎるだろう。
 
焦るばかりで結局案は出ず、見切り発車で出発。
結局、母の案で、自宅から30分ほどでつくガラス美術館へむかった。
アイスを食べたり、おみやげをみたりして、帰りはショッピングセンターで
買い物をして帰路につく。
 
もちろん、楽しくないわけではない。
だけど、本当は遊園地や、水族館、動物園、海水浴に行きたかった。
 
だが、自宅からはどれも少し距離があり、
申し訳ない気持ちから本音は言えなかった
 
特に、海水浴に関しては「海なし県」なので、
新潟か静岡まで出なければならい。
 
長期連休の時でさえこんな調子で、普段の土日は
もっと遊び場所に困っていた。
 
自転車でいける範囲の、図書館、本屋、スーパー、コンビニを毎週巡って過ごしていた。
 
「なんてつまんない場所なんだろう、何もないな~」と何度も思った。
時々東京に遊びにいくと、道を歩く小中学生をよく眺めていた。
「同じくらいの年の子なのに、こんな都会で子どもだけで
遊べるなんていいなぁ……」
と憧れた。
 
高校生になると、電車に30分程度乗り、松本市内の高校へ通学し始めた。
県内では栄えているほうの場所だ。
 
入学式を終えると、生徒会から高校生活を楽しむための小冊子が配られた。
その中に高校周辺のおすすめスポットが地図に手書きで書き込みされた
ページがあった。
 
学割がきく飲食店、中古CDが安い店、おしゃれな古着屋。
世界が一気に開けたようで、ドキドキがとまらず、冊子を手に取って
散策してまわった。
 
3年生になる頃には、立ち寄るところもだいたい同じになり、
県外に憧れを抱くようになっていた。
 
そして、大学生になり、名古屋で一人暮らしを始めた。
全国各地出身の友達ができると、自然とそれぞれの地元の話になり、
長野県出身、と伝えると、
 
「スノボやスキーで行ったことがあるよ!」
「オリンピックやってたよね」
「涼しくていいなぁ~」
「温泉旅行にいったよ」
などなど。愛知県に住んでいると一度は行ったことがある人が多いようだ。
 
2009年に、長野県上田市を舞台にしたアニメ映画「サマーウォーズ」や、
2012~2016年に松本市を舞台にした「orange」が、漫画、映画、アニメとなって
公開された。
 
夏休みに帰省するやたら大きな家、山の上から見下ろす桜や、昔ながらの商店街。
 
作品で地元をみると、「なにもない」と思っていた場所が
なぜかすごく魅力的にみえ、今すぐにでも帰省したくなるように思えた。
 
そして、大学を卒業する頃になると、いつの間にか私も
「名古屋ってなにもないよ~」 と地元の友達に言い始めていた。
 
結局、長野も、名古屋も表面的な魅力にしか目を向けていなかった
からだと思う。
私にとってそれは「遊べる場所」だった。
 
実家のそばには高い建物が少なく、いつでも北アルプスを見渡すことができる。
山頂がうっすら白くなってくると「もう寒くなるね」なんて話した。
 
実家は農家で、野菜も米も無限にあり、野菜や米がスーパーで
こんなに高いなんて知らなかった。
 
街頭が少なく一人で歩いて帰るのがこわかった道も、
空を見上げれば、プラネタリウムのような空をいつでも見られた。
 
通学路にある床屋さんはトイレを貸してくれたし、
ガソリンスタンドのおじさんは「おかえり~」と声をかけてくれた。
 
冬になり、1メートルほど雪が積もれば、庭でソリができたり、
かまくらもつくれた。
 
そんな日常も、プロの手にかかればコンテンツにできるような
地域の魅力なんだと、今ならわかる。
 
遊べる場所や華やかな場所が、地域の魅力の全てではない。
 
今年の年末年始は実家に帰れるだろうか?
去年は我慢した人が多いから、今年は帰れる人が多いといい。
 
年越しは、近所のおばあさんがくれる手打ちそば。
外には雪がつもっている。
元日は日の出もみず、初売りもいかず、家でおせちを食べて
家族みんなで夕方までこたつでお昼寝する。
 
そんな日常の魅力を、これからも大切にしていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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