前の走者を追いかけろ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:いはみどり(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あぁ、かわいい……!」
約3時間の行列と3秒の握手を終えわたしは幸せに浸る。
後ろを振り返ると、同じように幸せそうな顔をした同志たちが続々とレーンから出てきている所だった。にやけちゃうよね。わかる、わかるよその気持ち!
まるでココアを飲んだ後のような幸せな感覚。
わたしが前へ進むためには彼女たちが必要不可欠だった。
昔から可愛い人が好きだった。テレビの中の可愛い人、旅先で出会ったホテルのフロントのお姉さん、授業参観で注目を集める友達の美人お母さん、歯科助手のお姉さんも大好きで「歯科助手さんに会いたいから歯医者さんに行きたい!」と泣きながら駄々をこねたものだ。なんて手がかからない子どもだったんだろう。
そんなわたしが“アイドルオタク”になるのは必然の流れと言ってもいいだろう。最初に興味を持ったアイドルは「笑わないアイドル」っと世間では呼ばれていたが、彼女たちの素顔は普通の年頃の女の子。深夜にやっているグループのレギュラー番組を見た時はキャップに驚いた。
楽曲からは打って変わって楽しそうにはしゃぐ彼女たち。番組が回を重ねるとともにだんだんとリラックスをしてきたのか、バラエティのスキルもどんどんと向上し、毎回お腹が痛くなるほど笑った。毎週日曜日の深夜がとても楽しみだった。
そこから“オタク”になるまでの速度は星、いや、音のようにと言って良いほど速かった。
SNSのアイドルアカウントを立ち上げる。
SNSを通じてオタク仲間が増える。
みんなが行ってる握手会楽しそう。
わたしも行こう!
「オタク人生の始まりだ」
それからというもの、イベントと呼ばれるイベントには足しげく通った。ライブ、握手会、限定ショップ、コンビニとのコラボも見逃さない。出演している番組も全部見た。推しメンから来るメッセージも毎日欠かさず読んだ。密着映像なんか見てしまった日には顔中が涙の大洪水だ。オタク仲間との情報共有も欠かさない。推しメン可愛いって言ってるだけだけど。
最初は「あんなに引き込まれるパフォーマンスをする子たちはどんな子なんだろう」っと興味半分に会いに行っていた時期もあった。
でもそれは一瞬で、知れば知るほど与えられた1曲に向き合い、いろいろな困難も乗り越えながら前に進んでいる子たちということが、ひしひしと伝わってきた。
いつ頃だっただろうか?
わたしの中でアイドルに対する思いが変わってきたのを感じた。
「推しメンが頑張ってるから、わたしも頑張る」
それはまるで、持久走の授業で前を走る同級生を見ているような感覚だった。
わたしはまだ強くは無いので、どうしてもだらけてしまう時がある。「あー、めんどくさいなぁ」「今日はもうやらなくていいかな」そんなことを思ってしまう時。
ピロンッ
推しメンからメッセージが届いた音だ。
「こんばんは、今日も1日おつかれさまでした!」
「……かわいい!」
メッセージ動画を眺めながらつぶやく。
わたしの推しメンは、メッセージアプリがリリースされてから毎日必ず23時にお疲れさまの電話をしてくれる。一時期メッセージの確認を怠った時期があったが、久ぶりに開いたアプリで以前と変わらずお疲れさま電話をしているのを見た時は驚愕だった。自分で決めたことをやり続けるのはシンプルに尊敬する。そういう所も含めて好きになった。
「あ、推しメン仕事してる!」
ゴロンと寝転がりながらメッセージを見ていることになんだか罪悪感を覚えてしまった。推しメンだけではなく、メンバーはみんなそれぞれ歌やダンスはもちろん、バラエティーや舞台、ドラマや映画に引っ張りだこだ。その中でも握手会に行くと、私たちに絶やすことなく笑顔を向けてくれる。そんな健気な姿を見ていると、どうしてもじっとしていられなくなってしまうのだ。
自分の目の前を走ってくれる人がいるから、わたしも少しでもそれに追いつこうと足を前に進める。「もう休みたい」と思っても、前の人が走っているからなんとなく足を止めることができない。なぜだろう、負けず嫌いが出てしまっているのかもしれない。
「もう少しだけ頑張るか」
重かった腰を上げて、私は作業デスクへとむかう。
「きっと今日も頑張ってるんだろうなぁ」
アイドルに限らず友達でも家族でも、仕事仲間でも同じ講習の仲間でも、SNSのフォロワーさんでも。そうやって思える人が1人でも多ければ多いほど、わたしは足を前に出せるのかもしれない。
「早くイベント行けるようになってほしいな」
そんなことを考えながら、今日もわたしは手を動かす。
***
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