夢でまた逢えたら~18年一緒に育った猫リリの話~
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記事:大野了(ライティング・ゼミ平日コース)
先日、ある夢を見た。
私は、ぼんやりと実家のベランダでひなたぼっこをしている。
ぽかぽか陽気で少し眠かった。
夢の中で眠いって何だかおかしいけど、眠かった。
ごろんと転がると一匹の猫が私の顔に近づいてきた。
しっぽが私の顔に触れてくすぐったかった。
私は猫を自分の胸元に抱き寄せた。
猫は抵抗もせず、私の胸元にちんまり落ち着いた。
リリだった。
リリの大きな黒目は私をきょとんと見つめていた。
「リリ……?」
リリは頷くように、あごをぺったり私の胸元にのせて、気持ちよさそうに目をつぶった。
それで、目が覚めた。
胸元にリリの体温が残っている気がした。
リリは、私が小さい頃に家で飼っていた、いや、一緒に育った猫だ。
私は、猫3匹と長い間一緒に育った。
特にお母さん猫のリリとは、18年間、一緒に同じ屋根の下で生きてきた。
7月に私が生まれ、翌8月、お盆の時に母が墓参り中、墓石の横でおはぎを舐めてる生後間もないであろう子猫を見つけて可哀想に想い、連れて帰ってきた猫がリリだった。
黒が多めの白黒ぶちの猫だった。
赤ん坊の時の写真はリリとばっかり。
おっとりして優しい猫で、顔をよく舐められた。
小さい頃、布団の中で懐中電灯をつけて、よく秘密基地ごっこしたのを思い出す。
勝手に付き合わせていただけど……。
姉よりなぜかいつも私になついて、寒い冬はよく一緒に寝た。
でも私が小学5年生の時、悲劇が襲った。
リリは家猫だけど、母はたまにベランダの隙間を開けて庭に出していた。
でも大抵、庭の中か家の裏手をウロウロして、数時間、遅くとも夕方までには家に戻ってくる。
ただその晩はなぜか戻らず、私も母も心配なまま眠りについた。
その翌朝、まだ早朝だったと思う。
母の「ギャァ〜!」という凄まじい叫び声が庭から聞こえてきて、私は跳び起きた。
何事かと庭に出ようとすると「来ないで!」と母は叫んで、私は家の中に戻された。
その時リリは、右前脚が根元から切れたまま、血を流しながら庭でぐったりしていた。
残酷な描写になりすみません。
でも書かせてください。
当時、三味線の皮に猫の皮を使うために、ネコ捕りのワナを仕掛ける人がいて、それにリリはかかったのだ。
すぐ母は病院に連れていき、私は学校に行かされたものの心配で仕方がなく、走って帰って母に「どうだったの!?」と聞いたら、まだ予断は許さないけど、先生がリリの一命を取り止めてくれたと、泣きながら言った。
リリは、脚がちぎれても、どうにかそこから逃げて、身体を引きずりながら、我が家の庭に戻ってきた。点々と続く血の跡は裏手の空き地まで続いていて、胸が締めつけられるように苦しくなった。
リリは凄いね。
帰ってきてくれたんだね。
ごめんね、辛かったね。
私は、リリの想像を絶する痛みと辛さと、そんな酷いことをした誰かへの怒りと、生きて戻ってきてくれた安心感でごちゃまぜになって、母と一緒に泣いた。
あと少し遅れたら出血多量で死んでいたけど、お世話になっていた動物病院の院長先生のお陰でリリの命が繋がり、数日間入院をして、我が家に戻ってきた。
しばらくリリは動けなかったけど、目には生気が宿っていた。母や私がスープを口に流し込んだり、トイレまで抱き抱えたり、私は学校にいる時以外、母は四六時中つきっきりで看病した。
それからまた数週間経って、なんとリリは3本足でぴょこたんぴょこたんと歩けるようになった。
さらに数ヶ月後には、私のベッドにジャンプして来れるようになった。
母はそれからリリを庭には出すことはなかったけど、リリは3本脚になっても、日常生活ができるようになった。
そしてそれから7年も生きたのだ。
長い月日が経ち、リリは老いで動きが鈍くなり、徐々に衰弱していき、私が高3の時、冬のセンター試験の少し前、リリは亡くなる前日の晩に私のベッドにきた。
たった30センチほどの高さも飛び上がれず、一緒に寝たそうにベッド脇に佇んでいた。
私が一緒にいたいから、そう見えたのかもしれない。
いつものようにリリを抱き抱えて、布団に潜り込んで一緒に寝た。リリはもうやせ細ってガリガリだった。でもやっぱり温かった。
翌朝目覚めると、リリはいなかった。
母が来て「リリ、今朝亡くなったよ」とぽつりと言った。
母はその時泣いてなかったけど、寂し気な表情だった。
生涯を全うしたリリ。
ずっと一緒にいたリリ。
帰ってきてくれて、こんなに長生きしてくれたリリ。
本当に本当にありがとう。
その朝、静かに2人でリリを見送った。
母が言うには、朝、リリを見かけないなと探したら、こたつの中で身を隠すかのように端っこに丸まって、亡くなっていたそうだ。
生まれてから18年間、ずっと一緒に育ってきたリリ。
私の方が1ヶ月お兄ちゃんだ。
でも、リリは兄妹というよりお母さんみたいな存在の猫だった。
あれから随分長い年月が経ったけど、夢に出てきてくれてありがとう。
人間とか
犬とか
猫とか
そんな区別など関係が無く、ただただシンプルに家族だった。
大切な家族だった。
彼女の名前はリリ。
今夜、また会えないかな。
もう一度だけ
夢でいいから。
***
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