メディアグランプリ

お笑いライブの舞台、花の都パリ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:りお(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
なんて日だ……。
生きていると、運がいい日と悪い日がある。ずっと憧れていたパリに到着した日は、私の人生史上、最高に運が悪い日だった。
 
大学4年生の2月、お付き合いをしている彼とフランスの卒業旅行ツアーに申し込んだ。自分たちで飛行機やホテル、食事を予約するのが面倒くさかったので、フランスを満喫できる7日間のプランを選択。もちろん、全てが決められているのではなく、6日目と最終日にはパリでの自由時間が待っていた。
 
迎えた6日目。ツアーを選んだのは自分たちなのに、そろそろ自由に動き回りたくなってきた頃だった。一眼レフカメラを片手に、ホテルから自分たちの足でパリの中心街に行く。フランス語ばかりの案内板や外国人に溢れた電車に乗り、ドキドキが止まらない。無事、目的地に着くのだろうか。緊張と不安を抱きながら、オルセー美術館の最寄り駅に着いた。パリの街並み、キンと冷える空気に、ツアーから解放された喜びを感じる。
 
その時だった。
突然、私たちは小学生くらいの子ども6、7人に囲まれた。手には署名板を持っており、必死に私たちに署名をさせようとする。
 
心の中で、ツアーガイドさんの声が響いた。
「フランスでは、署名スリに気をつけて。署名をお願いするふりをして、観光客のバックから貴重品を盗んでいくから。もし、自分が狙われたら、バックを抱えて逃げること!」
 
全身に鳥肌が立った。私はすぐにバックを抱きしめ、子どもたちを払いのけるように押し進む。少年少女は私から貴重品を盗むのは難しいと判断したのか、次第に離れていった。ほっとしていると、後ろから彼もやってきた。なぜか、子どもたちの笑い声も聞こえる。
 
「いや~。怖かったね。何事かと思っちゃった」
 
呑気に微笑んでいる彼の腰元を見ると、バックのチャックが開いていた。
 
「ねえ! バック!」
 
私の緊張した声で、初めて自分の身になにが起きたのか悟った彼は、バックの中を確認し始める。
 
「ない……」
 
財布がなかった。
彼はまんまと署名スリにやられた。パリでの自由行動だからとウキウキしていた彼は、全財産のユーロと日本円を財布に入れていた。万が一のこともあるから、お金は分けて持つようにツアーガイドさんに言われていたのに。財布の中の整理も面倒くさくて、カード類も全て入れっぱなし。
 
バカだ。
 
彼は呆然とし、子どもたちが消えていった方を見つめる。オルセー美術館の前で私たちの様子を見ていた外国人が、ケラケラと笑っていた。フランス語が全く分からなかった私たちでも、何を言われているのか分かった気がした。
突然、中国人の観光客が私たちに声をかける。手に持っているのは、なんと彼の財布。
 
「君の財布だよね? スリの奴らから取り返してきたよ。今度から気をつけな」
 
まさか。勇敢で優しい彼らに心から感謝をした。中身を確認すると、現金は全て取られていたが、カード類はそのまま。爽やかな笑顔を見せ立ち去っていく中国人に私たちは救われた。
 
財布は戻ってきたものの、彼は精神的ショックを引きずっていた。せっかく自分たちで辿り着いたオルセー美術館の内容はほとんど頭に入ってこない。妙に神経質になり、周りの人間に怯えていたのは覚えている。
 
元気を失っても、お腹はすくもの。お昼に、私たちはシャンゼリゼ通りのピザ屋に立ち寄る。
いつものように、一眼レフカメラを用意していたその時、
 
ガシャン!
 
カメラが私の腿から滑り落ち、大きな音を立てて落下。今日に限って、ストラップを手首にかけていなかった。恐る恐るカメラの電源を入れると、液晶画面は真っ黒。動かない。
大事に使っていた5万のカメラ。エッフェル塔も凱旋門もマカロンもセーヌ河のクルーズもまだ撮っていない。ピザを目の前に、私は泣いた。今度は私が元気をなくす番。不幸に不幸は重なる。まさに泣きっ面に蜂であった。どうしてこんな目に遭うのだろう。日頃の行いが悪かったのかな。
その後も散々だった。混みすぎていてエッフェル塔にも凱旋門にも登れず、欲しかったお土産も見つけられず。
 
なんて日だ……。
普通だったら、最悪の日で終わっていたかもしれない。しかし、私たちはそれで終わらせたくなかった。せっかく訪れた花の都、パリ。今日の出来事を笑い飛ばせれば、最高の想い出になるのではないか。こんなに運が悪い日など中々ないし、笑いネタができたと思えばいい。時間が経つことで傷が癒えてきた私たちは、次第に前向きになっていた。
 
何か出来事が起きたとき、それを楽しむかつまらないと思うかは、私たちのとらえ方次第だ。つまらないお笑いライブを見て、笑わなくてもいい。けれど、芸人さんは私たちを笑わせようとしているのだから、つまらなくても笑ってみればいい。そうすれば、つまらなかったことが面白いと思える時間になるかもしれない。そうやって海外のハプニングもお笑いライブも笑える想い出に変えてしまえる力が、人生を豊かにすると思う。
 
フランス旅行の最終日、空っぽの財布と動かないカメラと共に私たちは笑っていた。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事