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海外在住者にとってのコロナ禍のさらなる苦悩

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記事:武田かおる(ライティング・ゼミII)
 
 
新型コロナウイルスが始まって以来、今の状況を戦争だという人がいる。
新型コロナウイルス感染が世界中に広まった昨年の春の時点では、未知のウイルスに対して確立した治療薬やワクチンがなかった。そのため、なすすべもなく無差別に人々の健康や生命を奪うウイルスを敵と例える場合もあった。また感染拡大防止のため、仕事や経済活動に制限がかかってしまうことや、さらに感染拡大防止の為に自宅で待機することを要請されたりと、今まで当たり前だったことができなくなるため、コロナを戦争だというのも理解できた。
 
私はアメリカに住んでいるのだが、海外在住邦人として、別の見解で今の新型コロナのパンデミックの状況は戦争だと感じている。
 
新型コロナウイルス感染が世界的に拡大して以降、アメリカでも感染防止対策に関する社会の新しいルールが次々に生まれた。
 
例えば、外出時のマスクの着用だ。日本では以前から花粉症対策や風邪の予防などでマスクを付ける人は珍しくない。一方で、アメリカでコロナ禍になる以前は、街中どこを探してもマスクをしている人など見たことがなかった。アメリカでマスクをするのはインフルエンザなどに感染している人が、周囲の人にうつさないという目的で着用るするのが一般的だからだ。つまり、アメリカでマスクをしているということは、「私は病気です」という札を付けているようなものだった。
 
もちろん医療従事者や特殊な仕事に関わる方は例外だが、コロナ以前は、普段のクリニックでの診察程度なら医師や看護師でもマスクをしている人は見たことはなかったぐらいだ。
 
私自身、アメリカ生活に慣れてきたのだろう。コロナが始まったばかりでまだ誰もマスクをしていなかった時に、たまたまマスクを着用した人とスーパーで出くわした。その時、予防で着用しているのではなく「コロナの症状が出ている人なのかな」と感じてしまったぐらいだ。
 
それがどうだ。昨年3月に入って、私の住む州でもクラスター感染が起こり、州知事から自宅待機勧告が出た。2週間程不要不急の外出を控えた後、スーパーに食料品を買い出しに行ったとき、見た光景は今でも忘れることができない。
 
お客さんもスーパーの店員さんも、老若男女問わず皆が手作りの布製のマスクやバンダナを着用していたのだ。
 
スーパーの駐車場に車を停めて、車の外に出たときに見たその光景は、映画でも見ているかのようだった。あまりの世界の変わりように、皆がマスクを着けていることを現実として受け止めるまでにわずかに時間がかかった。そして、世界が一変してしまった様子に愕然として泣きそうになってしまった。
 
もう一つの新しいルールは、州ごとに決められているトラベルオーダーというものだ。アメリカは国土が広い。州によってコロナ感染防止対策の内容も異なってくる。私の住むアメリカの東海岸に位置するマサチューセッツ州では、感染者が少ないと判断された州以外の他州から州に入ってくる場合、まず、オンライン上で必要事項を記入し(名前や州内の滞在先またコロナの症状などの申請)72時間以内に受けたコロナのテストの陰性証明を提出するか、州に入った後に10日間の自宅隔離をしなくてはならないという決まりがある。
 
これに違反すると一日あたり500ドル(約5万円)の罰金が課せられる。州の外にいくときも同様に、その州ごとに異なるトラベルオーダーがあるため、気軽に州の外に行けなくなってしまった。今の時期、隣接するバーモント州やニューハンプシュー州でスキーを楽しめるのだが、やはり様々な手続きが煩雑なので、我が家は昨年から州外には出ていない。
 
ちなみに1月1日現在、手続き無くマサチューセッツ州に来ることができるのはハワイ州の住民のみである。
 
日本も海外からの入国者向けの水際対策が行われている。これが、アメリカで言うトラベルオーダーに相当するものだ。コロナが始まって以来、日本では、感染者数が高い地域は上陸拒否対象地域と指定され、それらの地域からの外国人の入国が禁止されている。ニュースでも報道されているだろうから、耳にしたことがある人もいるだろう。
 
日本人は入国が可能だが、入国に際して様々な手続きが必要になる。私は外務省に海外在住者として登録していて、水際対策に変更があった場合、外務省の海外安全ホームページからメールで最新情報が送られてくる。最近では、感染力の高い変異型のウイルスがヨーローパで見つかり、さらに入国に手続きが煩雑になったようだ。1月8日現在、すべての人が入国する際に、入国から72時間以内の新型コロナの検査の陰性の証明の提出が求めらるようになったのだ。
 
また、入国時にも、すべての人がオンラインで質問表を提出し、唾液での検査が義務付けられている。陽性の場合は指定された場所での隔離、また、陰性の場合でも14日間の自宅などで自己隔離をしないといけない。さらに陰性だった場合でも公共の交通手段を使うことを禁じられているため、空港まで誰かに来てもらうか、自分で手配したレンタカーやハイヤーなどを使って滞在先まで移動しなければならない。
 
変異株が見つかった地区からの入国はさらに陰性の証明提出はもちろん、入国時の検査が陰性の場合も指定されたところで3日間の隔離の後、再度検査を受けることになるようだ。
 
今まで、アメリカから帰省するときは、子供二人を連れて三人で帰るのだが、空港には弟が車で迎えに来てくれて、その後、母が住む実家に直行していた。
 
だが、コロナ禍に限っては、72時間以内の陰性証明を提出しなくてはならず、さらに、例え入国時に受ける検査が陰性だったとしても、弟に迎えに来てもらうように頼むのも気が引けた。また、直行便でボストンから日本に行く場合は成田に到着するが、実家も弟も関西で、関西から車で成田まで来てもらうのは実際問題大変になる。
 
かといって、10時間を超えるフライトの後、自分でレンタカーを借りて実家まで長距離を運転するのは、いろいろな面で私も自信もない。
 
仮に関西空港に到着して弟が迎えに来てくれたとしても、感染者数は依然世界でトップで収束する気配のないアメリカから、いつものように母の家に三人が転がり込んでその後、そこで2週間隔離するのは気が引けた。母も高齢だし、万が一機内や日本の空港で感染していた場合、母へ感染させてしまう可能性も否定できないからだ。
 
そうなると、実家近くのホテルやAirbnbを予約して隔離期間の2週間を過ごしてから、自由の身になるということだが、その後また都市部に食事に出かけたりすることは母に感染させるリスクを高めてしまうので、好きなように出歩くことはできないだろう。
 
さらに、日本の医療機関の多くはは、「海外から帰国した人は14日間隔離してから受診してください」とホームページなどで謳っているところも多くあるため、コロナに感染していなくても、到着後に体調を壊してしまったときに病院で受診できないということは非常に不便である。
 
私は特に心配性のため、いろいろ考えてしまう。実際には、出発前も到着後も陰性で、日本の家族の理解があれば、車で空港まで迎えに来てもらって、隔離期間を過ごした後、家族と過ごしてまたアメリカに無事帰国することができるだろう。しかし、今のこの状態で、日本に行くために何度も検査を受けたり隔離生活を2週間したりするのは、私にとって精神的、また物理的ハードルが高すぎるような気がした。このように、コロナ禍になって以来、私は日本に気軽には帰れない事態になってしまったのだ。
 
昨年の秋口ごろ、まだこちらは予断を許さない状態だったが、日本は経済活動も再会し、感染者数も落ち着き、ネットなどのニュースや様子から、アメリカよりも生活が自由に見えた。
 
一方、アメリカではマスクが政治的に利用されたこともあり、マスクをしない人と、それを注意する人とで店内などで小競り合いが多発していた。また、これだけコロナによる死者が毎日のように増えていても、コロナなんてフェイクニュースだと真剣に信じている人たちが一定数いたようだ。アメリカは多様性のある国でそれはいい面でもあるが、この多様性がコロナの収束に対して裏目に出ているような気がした。毎日、こういったニュースを見たり聞いたりして、先の見えない状況の中で、私は鬱々と過ごしていた。
 
日本は日本で大変だったと思うが、隣の芝生が青く見えるように、私には日本はアメリカと比べると生活を楽しめるように見えた。私はストレス解消の為に、一人で3週間ほど日本に帰国しようかと思い、父を数年前になくして一人で暮らしている母に電話で相談した。関西空港だったら弟も迎えに来てくれるのではないかと思ったからだ。母は一旦賛成してくれた。
 
だが、数日後に母から改めて電話があり、今私がアメリカから帰ってくるとなると近所の人の目もあるし、母自身もいつもの生活を中断して自主隔離しないといけなくなってしまうため、「日本への帰省は今は辞めたほうがいい」。と言われてしまったのだ。
 
こんな状況ではもはや帰ることはできないし、やはり母からそう言われたことで現実を突きつけられた。
 
今まで、毎年のように子どもたちの夏休みを利用して子供を連れて日本に気軽に里帰りしていた。それが当たり前となっていた。アメリカに移住するときも、両親の元を離れるのは寂しかったが、飛行機にさえ乗れば簡単に帰国できると思っていた。沖縄や北海道に住んでいても本州に帰るには飛行機を使うことになるだろうから、時間は確かにさらに掛かるが、国内の遠方に住んでいるのと同じようなものだと思っていた。
 
だが、コロナ禍では違った。感染を防止するためには、国境を遮断し、海外からの入国者を規制する必要があった。家族が海外に住んでいる場合、家族間との面会も気軽にできなくなってしまったのだ。
 
これは海外に住む邦人にとって戦時中と同じような状況ではないかと思った。世界大戦時中はまだ飛行機が無く、国を自由に行き来する人も少なかったと思う。平和ボケしていた私は、自分がアメリカ人と結婚してアメリカに移住する際、戦争やパンデミックのような不測の事態の場合に、日本への帰国が今のように難しくなるなんて想定すらしなかった。だが、もし戦争になったらこんな風に国が封鎖されたり、居住国によっては入国が禁止されたりするのだろうと、今更ながらに 気がついた。
 
万が一高齢の母が病気になったり怪我で入院しても、帰国し病院に駆けつけることすらできない。入国時に陰性だったとして、弟に空港まで迎えに来てもらうか、自力でレンタカーを借りて実家に帰ったとしても、母に会えるには14日間隔離してからでないと病院にも行くことができなくなってしまった。母が危篤状態だったとしても、同様に、自己隔離中の14日間は病院にも行くことができなのだ。
 
縁起でもないが、もしコロナ禍に肉親が死んでしまったら、2週間の自主隔離を行っていたら、予定されたお通夜にも葬儀にも参加できないということになるのだ。
 
もちろん、様々な事情で日本に一時帰国する日本人の方はいるだろう。しかし、私のように、緊急を要さない里帰りとなると、ご両親がご高齢だったり、様々な事情で里帰りを躊躇されている方が世界中にいるのではないかと思う。
 
特にアメリカは、優先順位の高い人からワクチン接種が始まっているが、感染者数は増える一方で死者の数も増え続けており、予断が許されない状況が今尚続いている。こういったことからアメリカが日本の水際対策の上陸拒否地域のリストから除外されるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。
 
次に検査や自己隔離なしで日本に入国して、日本にいる家族や友達といつものように気軽に会える日はいつになるのだろうか。少なくとも、今年の夏はまだそのようにはできないように思う。考えると気が遠くなるし、会えないと思うと、家族や友達に無性に会いたくなる。だが、今は感染しないように注意しながら、生き延びて、コロナが収束するのを待つしか無いのだろう。そう、大げさな言い方かもしれないが、コロナという戦争が終わり、以前のように、自由に日本へ渡航できる日を待つしかできないのだ。
 
老齢の母も感染せずに、元気にこのコロナ禍を乗り越えて生き延びてほしい。そう毎日願って止まない。コロナが収束し、いつの日か日本に無事に帰省できる日が来て実家に帰ることができたら、より年老いて小さくなった母を、泣きながら思いっきり抱きしめるだろう。まるで戦争から生還した兵士のように。
 
 
 
 
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2021-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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