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10円玉と思い込み


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記事:金取直樹(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「10円玉に描かれている建物って知ってる?」
 
「平等院鳳凰堂っていうらしいよ」
 
「その建物の扉を親指で擦ってからじーっと見つめていると、だんだん扉が閉じたりしまったりするんだって」
 
「そんなわけないじゃん」
 
「いいからやってみろよ」
 
私が小学2年生だった頃の会話だ。
 
この頃は歳が2つ3つ離れた近所のお兄ちゃん達によく遊んでもらっていた。
 
その当時、私たちの間では10円玉を使った遊びが流行っていた。
 
何を訳のわからないことを言っているのだろうと思いつつ、言われた通りに10円玉を擦ってから、じーっとしばらく見つめてみた。
 
「……」
 
「何も起きないじゃん!」
 
私はお兄ちゃん達にそう言ったのだが、彼らは「いいから見続けてみろよ」の一点張りだった。そう言われた私は10円玉をもう一度よく見続けてみたが、何かが変わる様子はこれっぽっちもない。何か目の錯覚が起こるマジックなのかと期待したのだが、何の変哲もないただの10円玉がそこにあるだけだった。
 
当たり前の話だが、10円玉を擦ったからといって何か変化が出るなんてことはあり得ない。それは小学2年生でも分かる話だ。
 
何も起きないことに痺れを切らした私が「もういい!」と言うと、彼らはもう一度言うからちゃんと聞いてと答えた。
 
「扉が閉じたりしまったりするんだよ」
 
これは何かナゾナゾのようなものだと思った私は、脳みそフル回転させをしばらく考え込んだ。そしてあることに気づいた。
 
感が鋭い方は初めから何を言っているのだろうと思うかもしれないが、当時の私は全然気付いていなかった。
 
そう、彼らは一度も「扉が閉じたり開いたり」とは言っていなかったのだ。
 
ただの言葉の聞き間違いだったのだが、まんまと騙されてしまったのである。
 
扉=閉じたり開いたりすると認識していたので、当然目の錯覚か何かで扉がそうなるものと思い込んでいた。
 
思い込みとは不思議なもので一度ハマるとなかなか抜け出せない。
 
思考が停止し視野が狭くなるのだ。
 
そんな言葉遊びをやっていたことを、ちょうど小学2年生の甥っ子と遊んでいる時に思い出した。
 
さっそく甥っ子にもこの言葉遊びをやってみると、私の子供の頃と同様に彼もまんまと騙された。
 
「何コレ!」
 
「全然何も起こらないじゃん」
 
「手品?」
 
私はすかさず「もう一度擦ってからよく見てみて」と答えた。
 
眉間にシワを寄せ真剣な眼差しで10円玉を見つめる甥っ子。
 
火にかけたヤカンが今にも「ピーッ」と音を鳴らしそうな如く、頭を抱え「うーん」と唸っていた。
 
結局答えにたどり着かず悔しい表情を浮かべながら私のもとへやってきた。
 
流石に可愛そうになったので答えを教えてあげると、ニタニタと何かを企むような怪しい顔になっていた。
 
余程騙されたのが悔しかったのか、自分でも誰かに仕掛けてみたいと父親や妹に試していた。その反応は皆同じで、小さな子供だろうが大人だろうが関係なく思い込みの沼にハマっていた。
 
してやったりの顔をしながら、どこか満足気な顔を私に向けてくれた。
 
後日、甥っ子は学校でもこの遊びを友達に試したらしく、みんな騙せて面白かったと教えてくれた。
 
思い込みとは実に面白い。
 
「思い込み」を辞書で調べてみると、深く信じこむこと。また、固く心に決めること。と定義されている。
 
この思い込みは私たちの周りにもたくさん溢れかえっている。
 
例えば、トイレのピクトグラムがそれである。
 
女性は赤色でスカート、男性は青色でズボンを履いた形で描かれたあのマークだ。
 
ピクトグラムとは、一般的に絵文字や絵単語などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すため表示される視覚記号のことを指す。
 
このピクトグラムが日本で利用されるきっかけとなったのは1964年の東京五輪だと言われている。その後1970年の大阪万博でも積極的に採用されたことにより、日本国内をはじめ海外にも浸透していった。
 
今では日本人の多くがこのトイレのピクトグラムの色だけで、トイレの場所を認識できるようになっているのではないだろうか。
 
日本人は諸外国の人と比べても色分けだけで認識する傾向が強いとも言われている。
 
ピクトグラムのマークがなくても、入り口の壁やドアなどが赤色や青色で描かれているだけで、無意識的に男女を区別していることが多い。
 
以前、テレビのバラエティ番組でトイレのピクトグラムの色を男女入れ替えてみたら、人は騙されるのかという実験をしていた。
 
その結果は多く日本人が騙され慌ててトイレから出てくる様が映し出されていたのだが、面白いことに外国の人たちは日本人ほど騙される人がいなかったのである。
 
こんな風に「思い込み」はいつの間にかに私たちの無意識下に入り込んでいる。
 
私たちは子供から大人になるにつれ色々なことを経験する中で、知らないうちに自分仕様の「思い込み」が刷り込まれているのではないだろうか?
 
「絶対成功できる」
 
「歳なんて関係ない、何でもやれば出来る」
 
と強く思い込みポジティブな方へ常に思考を向ける人もいれば、
 
「自分なんか成功できない」
 
「自分はもう歳だから」
 
そう思い込み自らネガティブな方へ思考を向ける人もいる。
 
「思い込み」というのは、その扱い方ひとつで良い方にも悪い方にも転がるものだ。
 
だからこそ自分仕様の「思い込み」に目を向け、時には一度フラットにしてみると案外面白い発見があるかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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