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感謝に変わった流産の思い出


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記事:北村夏紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ごめんね……」
そんな言葉は出なかった。いや、気づかないふりをしていた。
 
初期の流産は決して珍しいことではない。そして母体側に責任がある確率も極めて低い。だからしょうがない。
病院の帰り道、ハンドルを握りしめながら妙に冷静に考えていた。
 
4年前、初めて妊娠した。子どもが欲しいと思っていたので純粋にうれしかった。何度か検診に行き、心拍も確認できた。
「週数のわりに少し小さめなのが気になる」
と言われたものの、ここからグンと成長することもあるという言葉を信じていた。
 
でも数日後、出血があった。流産だった。
 
初期の流産は全妊娠の15%前後にも及ぶと言われ、6~7人に1人が経験すると言われている。その15%に今回たまたま入ってしまっただけ。
もちろん生まれてはいないものの命であったことには変わりはないので、その命が失われてしまったことに対する悲しみは感じていたが、どこか他人事のように感じている自分がいた。涙も出なかった。
 
その1年半後、再び妊娠をした。今度は順調に成長してくれていた。しかし、いつもおそるおそる生活していた。おなかの負担になるようなことはなるべくしないように、安静に、慎重に。
少しでもおなかが張るようなことがあれば仕事中でも少し休ませてもらったりしていて、それを許してくれた同僚達には感謝しかない。
 
こうして思い返してみると、一度流産したことを確実に引きづっていたことが分かる。ある程度の確率で起こりうることで、自分のせいではないし、防ぎようもなかったということで納得していたはずなのに、再び宿ったこの命をおなかの中に引き留めておくために必死だった。
 
私のゴールは無事に出産することだった。
ちなみに出産はゴールではなく、始まり。出産したその日から、怒涛の子育てが始まるのだ。そこを考えておらず出産をゴールとしてしまった私は、もちろん育児に悩むこととなるのだが、今回はその話はおいておこう。
 
予定日より一週間早く、娘は無事に、元気に生まれてきてくれた。
毎日の育児に必死で、流産したことを思い出すヒマもなかった。一度、書類整理をしていた時に出てきた4年前のエコー写真で思い出したが、特に大きな感情の変化もなく、再び箱に戻した。
 
しかし先日、大きな感情の波が襲ってきた。
きっかけは、今流行りのClubhouse。アメリカからやってきた、音声のみのSNSだ。
 
その日、たまたまClubhouseを開いたら、ある産婦人科の先生がお話しているルームが目に入った。
その先生は胎内記憶に関する本を出されている方で、私が所属している幼児教育のインストラクターの間では有名であったが、私は本を読んだことも話を聞いたこともなかった。
 
でもその日は何となく聞いてみようかなという気分になり、そのルームに入った。胎内記憶を持つ子どもたちから聞いた話が中心であったが、少し話題が変わり、おなかの中の赤ちゃんと話ができるという人の話題に。
 
おなかの中の赤ちゃんと話せるなんて、スピリチュアルすぎて今までは遠ざけてしまっていたが、このときはスッと心に入ってきた。
 
「たとえ流産や中絶などでこの世に生まれてくることができなかったとしても、赤ちゃんはみんな喜んでいるそうです。喜んでいるんです。なぜなら、お母さんのおなかの中に入るのが一番大変だから。おなかの中に入るためには、お父さんとお母さんの許可がいるんです。許可がないとおなかの中には入れない。だからおなかの中に入れてくれたという時点で、赤ちゃんは感謝しているらしいですよ」
 
この言葉を聞いて、私の心の中のわだかまりが解けていくのを感じた。
私はやっぱり、あのとき産んであげられなかった子に申し訳ないと思っていた。何かできたのではないかと後悔していた。可哀想なことをしてしまったと思っていた。それに改めて気づかされた。
 
でもそれと同時に、出てきた想いは感謝だった。
だって私のおなかにきたことを、その小さな命は喜んでくれていたのかもしれない。
可哀想と思っていたのは私だけ。全然、可哀想なんかじゃなかった。
そんな健気な子のことを想ったら、「ありがとう」と言わずにはいられなかった。
 
ここ最近、ずっと思い出すことのなかった(無意識に思い出さないようにしていた)流産経験とその命について、いい意味でもっと近くに感じるようになった。
あのときおなかの中にいた子が、もし近くにいるのであれば、「気が向いたらまたおいで」と伝えたいと思う。
 
6~7人にひとりが初期流産を経験する。決して少なくない割合だ。あまり誰かから流産のことを聞くことはないかもしれないが、それはなかなか人には話せないからだろう。
流産で思いっきり泣いて、悲しむことができる人もいるだろう。でも、私のように気づかぬふりして心の奥で自分を責めてしまっている人もいると思う。
そんな人に、この話が届けばいいなと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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