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死ぬのは怖いと思っているあなたへ


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記事:武田依子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
この文を読んでくださってる人たちの中で、死ぬのが怖いと真剣に思っている人はいませんか?
死ぬの、怖いですよね。私も怖いです。
子供の頃に死ぬことを考えて怖くなり眠れなくなったことがある、という話をよく聞きます。
私は子供の時に死ぬのが怖いと思ったことはないです。
けれどこの数年、歳のせいか、なんだか死ぬのが怖いと真剣に思うようになりました。
 
先日、不意に夜中に目が覚めました。
それから寝付けることが出来ず布団の中でゴロゴロと寝返りを打ちながら、暗闇の中にボウッと浮かび上がる窓やカーテンの輪郭をただ目で追っていました。こういう時はどうして時間が経つのが遅いのでしょう? 目覚める時はいつも時間が足りないと思うくらいなのに。
死んでしまったらどうなるのか、そんな事を考え始めるのは例えばこうした眠れない夜です。
そうして私は、時間が止まってしまったかのような暗闇と静寂の中で、どうして死ぬのが怖いのか考えてみたのです。
 
死ぬことの怖さには「自分が消滅してしまう怖さ」「死ぬ時に感じるかもしれない苦しみに対する怖さ」の二つがあると思います。今回はこの二つのうち「自分が消滅してしまう怖さ 」の方を取り上げてみました。
「自分が消滅してしまう怖さ」は、肉体が滅びることだけでなく、「この意識はどうなるのか、どこにいくのか」これが明確になっていないまま死に向かっていくことから生じます。
この現代の科学では解明されていないこの問いについて考えた時、もしかして何かしらのヒントがそこにあるかもしれないと思ったのは「臨死体験」の本でした。
臨死体験とは簡単に言うと、死にかかった後に蘇生した人が、その間にする体験の事です。
調査によると、心停止の状態から蘇生した人の4~18%が臨死体験を口にするとのことです。
ここでお伝えするにあたって最初にことわっておかなければならないのは、臨死体験は脳の働きによる幻覚のようなものであり死後の世界を証明するものではない、という研究結果もあることです。このことを前提に読んで頂ければと思います。
 
臨死体験は、医師や研究者による様々な研究報告がなされています。
主に欧米の研究報告によると、臨死体験には一定のパターンがあることがわかっているそうです。
「周囲の状況を正確・詳細に認識できるほどの覚醒した意識」
「身体から抜け出し離れる」
「暗いトンネルの中を抜ける」
「死んだ家族などの他者と出会う」
「光を放つ存在に出会う」
「この世とあの世の境界を見る」
「自分の人生が走馬灯のように見える」
「感じたことのないほどの心の安堵感」
以上のようなパターンが多くみられる一方で、育つ文化の影響が比較的まだ少ないと思われる子供の臨死体験は、身体から離れて、トンネルの中を通過し、光の存在に出会う、この3つに絞られている事が多く大人よりもシンプルだという報告もあるそうです。
 
注目すべきは、臨死体験者がこのような体験をした後に起こる変化です。これをまとめた報告がありますが、それによると以下のようになります。
「日常の当たり前のことを評価するようになる」
「自分を受容し他人の評価を気にしなくなる」
「他者への思いやりが大きくなる」
「競争することに関心がなくなる」
「物質的な報酬への興味がなくなる」
「死後の世界があるという確信を持つ」
「死への恐怖がなくなる」
粗暴で暴力的ですらあった人が、臨死体験後には他者に尽くす献身的な人に変わった例もあるというのが驚きです。
 
臨死体験後のそうした変化について、私が特に強い印象を感じたのは、2006年にアニータ・ムアジャーニーさんという女性の身に起きた体験が綴られ、45カ国で出版されて世界的なベストセラーとなった本の中にある話です。
日本では「喜びから人生を生きる! ー臨死体験が教えてくれたこと」というタイトルで出版されています。
 
彼女が癌の末期で昏睡状態に陥ってからの臨死体験は、上にあるような典型的なパターンが見られます。彼女も父親や親友などの亡くなった人たちと出会っています。父親は、亡くなってからずっと自分の意識は存在し家族を見守ってきたと伝えた、と書いてあります。これは、死んでも意識の存在は無くならないということを意味します。
全身が癌に侵されてしまい、しかし蘇生してから癌がすっかり消えて無くなってしまったという落差の大きさも相まって、その描写は圧巻です。死というものに対し、私たちは通常、悲しく辛くネガティヴなものとして捉えがちですが、この本に綴られている内容は、一貫して非常に明晰で力強く希望に満ちたもので、その世界は私たちが憧れてやまない愛と受容の世界です。
 
臨死体験を経験してからの彼女は、多くの報告にもあるのと同じように意識が大きく変化しました。
以前は気にも留めなかった日常の些細なことが、とても美しく感じられようになりました。
お金を稼ぐことや、将来のこと、仕事、家庭内の問題などが重要でないように思えて、ただ楽しんで笑う事が大切に思えたとあります。彼女は、死がいかに安らかで愛と光と一体感に満ちた場所であるかを伝えながら、私たちがこの世でなすべきことは「自分自身であり続け自分を表現すること」だと言います。
 
読み終わってからしばらくの間、私は感動でぼうっとした気分で過ごしました。
この本の内容は、色々な意味で今を生きている私たちへの救いがあるものでした。
うまくいかずにあがくような人生だったとしても、死後行く場所が無条件の愛と受容の世界だったら、どんなにホッとするでしょう。痛ましい犯罪や災害、そして紛争などに巻き込まれて命を落とした人たちが、もしかして今はこのような世界にいるのかもしれないと思うことは慰めにもなりました。実話だというこの話を、全部を疑ってかかったり自分とは無関係だと通り過ぎることをせずに、話の中の一部だけでももしかしてと受け止めるならば、私たちは安心してこの世の冒険を体験できる気がしたのです。
 
しかし、死がこの本に描かれているような安寧の場所だからといって、辛いことがあったからと安易に死に向かおうと思う人がいるとしたら、私はそれは違うと思うのです。
彼女がこの本で私たちに伝えていることは、私たちがそれを心に留めて生きることを続けることによって生かされていく、と思うからです。
 
こうして、怖い気持ちをなんとかしようと始まった死について考える時間は、思いがけず感動で終わりました。時には死について考えることも心のエネルギーになるのだなあと強く感じる出来事でした。
前述の通り、死後の世界の存在はまだ証明されてはいません。私ももちろん確信を持ったわけではありません。
それでも、そうだったらいいなあという希望で心を柔らかくしたり慰められたりしたことは、とても幸せな時間でした。
 
 
 
 
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2021-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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