開頭手術から8日で退院した話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:前田理香(ライティング・ゼミ日曜コース)
「耳鼻科的には、特に異常はないですね。念のためCT撮っておきましょうか?」
数日前から、軽いめまいが続いていた私は、総合病院の耳鼻科を受診した。
聴力検査や鼓膜と耳小骨の動きを調べる検査、一旦横になって起き上がった時の眼球の動きを見る検査など、いろいろ調べてもらったが異常なし。
最後に「まぁ念のため」と勧められたCT検査を受け、翌週結果を聞きに行くことになった。
CT画像を見ながら、「ここに腫瘍があるので、このまま脳外科に行ってください」と耳鼻科の主治医。
驚きつつも、取り敢えず指示されたとおり、脳外科に向かった。
脳外科では、「脳外科部長」の名札を付けた先生が説明をしてくれた。
「ほらここ、これが腫瘍です。左耳の上のあたりですね。髄膜腫という脳をくるんでいる膜にできる腫瘍です。今だいたい2センチくらいですね」
(えーっ! 2センチって、でかっ!)
「まぁ髄膜腫としては小さい方ですね」
(はぁ? 2センチで小さい?)
「髄膜腫は、一般的には良性が多いのですが、詳しく検査してみましょう」と、そのままMRI検査を受けることになった。
そしてその翌週。
「良性でしたね。良性の場合は、急激に大きくなることはありませんが、それでも少しずつ大きくなるので、早めに手術することをお勧めしますが、どうしますか?」
頭を切るのだ。そんなことを急に言われても、そう簡単には決められない。
「……少し考えます」と答え、結論は1週間保留してもらった。
帰宅して、調べた。
「髄膜腫って何?」から、「治療方法」「手術の方法」「リスク」「名医」まで。
かなり心配性な私は、とにかく納得できるまで調べた。
調べてみると、髄膜腫の中でも「左耳の上あたり」という場所は、かなり手術がしやすい場所らしい。
手を当ててみる。
確かに、開けやすそうだ。
脳神経の近くや、顔を動かす神経に近い場合は、摘出が難しいケースもあるという。
そんな中で「手術がしやすい」私の髄膜腫の場所は、大学病院などではインターンが切るくらい簡単な場所のようだった。
さすがにインターンに切られるのは……不安だ。
いやもちろん、インターンが経験を積むことが大切なことは理解できる。
それでも、申し訳ないが抵抗がある。だって頭を開けるのだから。
それに比べ、総合病院の主治医は、なんてったって“脳外科部長”さまだ!
心は、手術に大きく傾いた。
翌週病院へ行くと、その部長先生がニコニコしながら言った。
「どうします? そのまま経過観察でもいいんですが、歳をとって破裂して運びこまれる方もいるので、摘出するなら早い方がいいですよ」と。
それで心は決まった。
「はい、お願いします!」
手術は3か月後。その間に、自己血採血をするのだという。
これは、もし出血が多くなった場合に自分の血を輸血できるよう、予め自分の血を採血しておくのだそうだ。
私の場合は、3回に分けて約800ccを採血した。
命に係わる手術なんだ……と、緊張感が少しずつ高まっていった。
手術日の2日前に入院。手術前のさまざまな検査や説明を受けた。
手術室の看護師、ICUの看護師、薬剤師、麻酔科の看護師が、代わるがわる病室に来ては、いつ何をどんなふうにするのか、事細かに説明してくれた。
その中でも、麻酔科の看護師さんの説明に心ひかれた。
「麻酔科の先生は、メチャクチャかっこいいですよ。当日楽しみにしていて下さい」
イケメン先生に会えると思うと、手術が待ち遠しくなった。
手術前日は不安で眠れない人もいるらしいが、麻酔科の看護師さんのおかげで、ぐっすり眠れた。
随分現金な「心配性」だ。
手術当日、病室の外に用意された搬送用のベッドの上で、予備麻酔の注射を打たれた。
そしてそのまま手術室へ運ばれる。だんだんと意識は混濁していった。
手術室の中で、本麻酔の注射を打たれたところまでは、辛うじて覚えている。
が、次に気がついたのは、ICUのベッドの上だった。
麻酔科のイケメン先生の顔は……全く記憶にない。
……残念!
それでも、無事に手術が終わったことに、心からホッとした。
翌日には一般病室に移された。
左耳の上(こめかみの横)を切っているため、噛むことが辛い。
傷にはキズパワーパッドの大判のようなものが貼られていた。
3日もすると、その大判のシートがはがされた。
鏡で見てみると、医療用ホッチキスでとめられ、まるでファスナーのようだ。
回診に来た部長先生は、「うん、もうシャワー浴びていいよ。でも、ゴシゴシこすらないでね」と爽やかな笑顔で言う。
(ゴシゴシこする人がいるんかい!)心の中で突っ込んだ。
その晩シャワーを浴びながら、そーっとキズに触れてみると、痛みはほとんど感じなかった。手触りは……ファスナーだった。
それから数日後、医療用ホッチキスの針を抜いた。
そして翌日、「手術からわずか8日間」で退院した。
自宅療養1週間で、職場に復帰。
手術の際に髪の毛を剃ったのだが、部長先生の配慮により最小限で済んだ。そのため、帽子などで傷を隠さなくても良かったことも、女性としては嬉しかった。
そして手術から10年経った今、傷跡はすっかり消えている。
そして再発もしていない。
私の場合は、念のために撮ったCTで、たまたま腫瘍が見つかった。
この話を少し年上の友人に話したところ、不安になり脳ドックを受けに行ったそうだ。
すると、毛細血管で軽い脳梗塞の痕跡がいくつも見つかったと教えてくれた。
体の中には、調子が悪くなるとすぐに兆候が表れるものと、表れないものがある。
ほんの少しの兆候でも、「念のため」に受診することが大事だが、兆候のない病気を見つけるためには、定期的な検査を受けることが大切だ。
友人は今も、定期的に脳ドックを受けている。
そして私も、定期的に検査を受けている。
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