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『夢を追いかける人間はカッコいい』


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ぺー(リーディング・ライティング講座)
 
 
『宇宙兄弟』というマンガ作品、あるいは映画、アニメを見たことがあるだろうか。私は小学生のときに宇宙好きの友達に勧められてアニメを見た。これは、自動車関係の仕事に勤めていた南波六太が、宇宙飛行士で彼の弟でもある南波日々人の後を追いかけて宇宙飛行士になる夢を叶えようとする物語である。当時の私は、友達にしつこく勧められたのでアニメを半ば嫌々視聴したが、一話からこんなにハマるとは思わなかった。そして、勢いでマンガも映画も制覇した。(マンガを学校で読んだのはヒミツだヨ)
 
そして時がたち大学生。私はリーディング&ライティングゼミのネタ探しのために本屋に走る。ふと、『宇宙兄弟』のマンガたちに目が留まる。ああ懐かしいな、そう思ったとき隣の本がチラッと見えた。これが、今回紹介する本との出会いである。内山崇さんの『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』である。
 
なぜこの本に興味を持ったかというと、『宇宙兄弟』の作品の中で、選抜試験の場面が特に印象に残っているからである。体に電流が走ったかのように私はこの本に運命を感じ、迷わず購入し、自宅に帰り一気に読んだ。
 
気になる内容は期待以上のものだった。一冊の本でこれだけのものがこみあげてくるか、という感じだった。正直、『宇宙兄弟』を見たり、読んだりしたことがない人でも、宇宙に全くロマンを感じない、興味ない人でもこの本は止まらないと思う。なぜなら、選抜試験の厳しさという現実事実だけでなく、それ以上のものを教えてくれるからである。
 
私はあえて、この本に新しい名前を付けよう。それは、『夢を追いかける人間はカッコいい』である。記事の読者の中にはこう思われる人もいるかもしれない。「何クサイセリフ吐いてるんだ。マンガとかによくあるセリフじゃないか」と。私もそう思う。自分でも恥ずかしいくらいめちゃくちゃクサイ題名つけたなと思う。しかし、違うのである。この本はくさいセリフをつけたくなるほど、ドラマがあふれていて希望を与えてくれるようなノンフィクションなのである。
 
作者の内山崇さんはお察しの通り、過去に宇宙飛行士選抜試験を受けた張本人である。JAXAが10年ぶりの日本人宇宙飛行士選抜試験を行うと話題となった2008~09年、ファイナリスト10名まで残り続けた内の1人である。ちなみにこの年の試験は最終的に油井亀美也さん、大西卓哉さん、金井宣茂さんの3人が宇宙飛行士訓練生に選ばれた。惜しくも作者の内山崇さんはあと一歩のところで届かなかった一人なのである。
 
そのときの内山さん目線からの試験の様子が生生しく記録されているのである。生生しくといっても、内部暴露、不満吐露といったマイナス要素は全く書かれていない。ポジティブな要素が多かった。試験後に仲良くなってそのグループでメーリングリストを作ったり、人間ドックで男同士の笑える無駄な争いをしたりと楽しそうな雰囲気が伝わってくる。なんだか、厳しい試験を乗り越えて逆に結束力が生まれたようである。
 
しかし、絆をつくったとしても試験の残酷なところは、少しでも差を見つけ選ばれる者と選ばれない者を作ってしまうことである。963人の応募者の中から、書類審査で230人に、1次選抜で48人に、そして2次選抜で10人に絞り込まれる。そうして、内山さんが落ちて3人が選ばれる。内山さんはあと一歩夢が届くところまできていたのに「心にポッカリ穴が空いてしまった」という。それから、心が不安定な日々が続く。多分このときの精神状態じゃこの本を書いていなかったのだろう。この本は2020年発行だが、約10年間のブランクをおいてようやく整理できる精神状態になったのはなぜだろうか。それは、この本をじっくりと読めばわかるようになっている……。
 
 
「ぼくの夢は一度破れた。しかし、ぼくの宇宙飛行士への挑戦は、もっと根底にあった「ぼくがやりたいこと」が何だったのかを考えるきっかけをくれた」
この言葉は本の終盤ででてくる言葉であるが、内山さんの本音だと思う。決して、世間体を気にしてカッコつけたわけでなく、10年かけて作り上げた自分なりの結論なんだろうなと伝わってきた。
 
夢は決して叶うものじゃない。私も理解しているし、実際そうだと思う。でも世間的に見れば「夢が叶わなかった」側なのに内山さんはある意味成功者で勝ち組のように感じる。だから、『夢を追いかける人間はカッコいい』のである。
 
2021年秋にJAXAは再び、宇宙飛行士選抜試験の募集を始めると発表した。夢を追いかける人はいませんか?並大抵では到底受かりませんが。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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